ゼロ距離からの 必・殺・拳 『ザ・レイド GOKUDO』レビュー


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――ゼロ距離からの 必・殺・拳―― 『ザ・レイド GOKUDO』レビュー

正直、作品の出来に不安だった。

ギャレス・エヴァンス監督の前作『ザ・レイド』(2011年)は、とてつもなく魅力的な作品だった。
インドネシアのスラム街、麻薬王リヤディ(レイ・サヘタピー)が支配する高層ビルにRaid(突入)するジャカ巡査部長(ジョー・タスリム)率いるSWATチームの中に、妻が出産を控えた新人警官ラマ(イコ・ウワイス)は居た。だが、彼らは誰も知らなかった……これが、どれほど危険な任務なのかと言うことを。“狂犬”マッド・ドッグ(ヤヤン・ルヒアン)や冷酷なアンディ(ドニ・アラムシャ)ら無数のならず者が待ち構える魔窟に足を踏み入れる、SWAT隊員20人――長い夜が、始まる。
強烈な(実に!)暴力描写が斬新なカメラワークにより画面一杯に炸裂する101分の映像体験は、観る者の脳髄に強烈な爪痕を残した。しかし、『ザ・レイド』を語る上で外せない要素は、何と言っても格闘アクションである。この映画で東南アジアの伝統武術“シラット”(インドネシアでは“プンチャック”と称される)の魅力に取り憑かれた観客も多いことだろう。出演者の多くはプンチャック・シラット、ムエタイ、柔道など格闘技の達人であることも作品により一層の説得力を齎し、初めて功夫映画を観た時のような衝撃に襲われた。

『ザ・レイド GOKUDO』は、そんな『ザ・レイド』の直接の続編である。
不安になるなと言うのが無理な話であろう――それほどまでに『ザ・レイド』は、とてつもなく魅力的な作品だったのだ。
しかも、前作が一部で「登場人物の掘り下げが浅い」と酷評された所為か、『ザ・レイド』に引き続き担当したギャレス・エヴァンス監督は『ザ・レイド GOKUDO』では登場人物を増やし多くのサブプロットも展開すると言う。――益々、不安になった。GOKUDO_sub

だが、『ザ・レイド GOKUDO』を観賞して、そんな不安は解消した。と言うか、前作以上の面白さに思わず快哉の声を上げてしまった。そして、時計を見て驚いた。観始めてから、2時間半が経過している。『ザ・レイド』は息も吐かせぬジェットコースターのようなノンストップ・アクションが魅力であったのに、そこに無理矢理プロットを詰め込んでは折角の格闘アクションが薄っぺらくなってはいないか――記者の不安点は、そこであった。だが、エヴァンス監督は常人の斜め上を行く発想を持っていた。アクションシーンのボリュームは前作同様に、その上でキャラクターを掘り下げるサブプロットを盛ったのだ。『ザ・レイド』の上映時間は101分、それに対して『ザ・レイド GOKUDO』は146分――シリーズ続編にこれほどまでのボリュームアップが許されるとは、インドネシア映画、自由すぎ!その結果『ザ・レイド GOKUDO』は重厚さを増し、絶妙なバランスで長尺にも係わらず観客を飽きさせないメリハリを手に入れた。しかも、作品の盛り上がりは前作を遥かに凌駕している。

『ザ・レイド GOKUDO』予告編http://youtu.be/obA7VvM2cNY

『ザ・レイド GOKUDO』Story:
死闘を潜り抜けた新人警官ラマ(イコ・ウワイス)。彼の戦いは終わったと思っていた。息も絶え絶えになりながら、マフィアのビルを出たラマは、警察とマフィアに多数の犠牲を出した激戦を終え、普通の生活に戻れると思っていたのだ。だがそれは、完全に間違いだった。警察の上層部に命じられたラマの選択肢は一つ。悪の世界に潜入し、組織を上へとたどり、トップで糸を引く悪徳政治家や汚職警官に行き着くことだ。
こうして再び暴力の旅が始まった。今までの自分を捨て、凶暴な犯罪者“ユダ”としての旅が……。偽名で刑務所に入り、マフィアのボス・バングン(ティオ・パクサデウォ)の息子であるウチョ(アリフィン・プトラ)の信頼を得て、組織の一員にならなければならない。ラマは、足を踏み入れる――ジャパニーズ・ヤクザ(松田龍平・遠藤憲一・北村一樹)の利権も複雑に絡み合う、大いなる闇の混沌に――。

前作に引き続き、イコ・ウワイスのプンチャック・シラットが冴え渡る。しかも今回は潜入捜査を強いられるとあって、素手もしくは手近にある武器を駆使するシラットの存在感が一層際立つ。『ザ・レイド』では「いやいや、銃火器を使おうよ!」と突っ込みたくなるシーンもあったが、『ザ・レイド GOKUDO』ではストレス無くラマ(ユダ)のシラットを心行くまで堪能できる。
相対する暗殺者たちも、素晴らしい。戦闘用サビット(鎌)“カランビット”を切り札に持つ、キラーマスター(セセプ・アリフ・ラーマン)。狭い空間での戦闘に真価を発揮する、ハンマー・ガール(ジュリー・エステル)。意外な飛び道具も使いこなす、ベースボール・バットマン(ベリー・トリ・ユリスマン)。そして、そして……前作で強敵“狂犬(マッド・ドッグ)”を爆演し、全世界の映画ファンの度肝を抜いた怪優ヤヤン・ルヒアンが、今作では全く違う哀しき殺し屋・プラコソを演じているのも観逃せない!

シリーズ初のカーアクションも目玉の一つだ。ジャカルタ市街を閉鎖して敢行されたカースタントはブルース・ロー率いる香港のスタントチームが担当し、この場面だけで一本のアクション作品に成り得るほどの名シーンなので、是非とも注目してほしい。また、狭い車内での格闘アクションは、ゼロ距離の間合いからの必殺を身上とするプンチャック・シラットの真骨頂とも言えるシーンなので、是非とも括目してほしい。

そして、ラスト――解釈は色々出来るが、まさかの“続編”を匂わせる展開とも取れる。もし……もし、続編があるとしたら、これはもう熱烈歓迎で待ち構えるしかない。そんな“夢”を繋ぐためにも、是非とも多くの映画ファンが劇場へ足を運んでくれればと思う。『ザ・レイド GOKUDO』は、『ザ・レイド』シリーズは、そんなアクション映画の未来を感じさせる作品である。

文・高橋アツシ

『ザ・レイド GOKUDO』
キャスト:イコ・ウワイス、アリフィン・プトラ、松田龍平、遠藤憲一、北村一輝
監督・脚本:ギャレス・エヴァンス 配給:KADOKAWA ©2013 PT Merantau Films
2014年11月22日(土)よりロードショー
『ザ・レイド GOKUDO』公式サイト

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