“超撃作”は、沈まない--『子宮に沈める』レビュー
“超撃作”は、沈まない --『子宮に沈める』レビュー
『終わらない青』(2009年/66分)、『体温』(2011年/72分)と、衝撃作を世に送り出し続ける俊才・緒方貴臣監督の最新作を観た。『子宮に沈める』とタイトルを付けられた95分の物語は、言わずもがなの衝撃作…いや、“超撃作”であった。
緒方監督が今回テーマに選んだのは、“ネグレクト(育児放棄・育児怠慢)”である。
虐待の中でも、ネグレクトは外部から気付かれにくいと言われているそうだ。今作品のカメラが常に住居内部を写し出しているのは、そんな事実が監督を突き動かしたせいなのかも知れない。
「映像では現実の痛みを、そのまま描くことはできないと思っていますが、少しでも現実に起こっていることを感じてほしく思っています」
緒方監督はそう語った。
ネグレクトと言うテーマが孕んだ問題点がダイレクトに示す通り、『子宮に沈める』は有り体に言って愉快な作品ではない。
いや、敢えて言おう…不愉快な作品である。そして、もう一つ敢えて言いたいのだ…このような不愉快な作品を撮ることに緒方貴臣監督が心血を注いだのは何故なのか考えてほしい、と。
そんなネガティブなだけの映画、誰が観るのか…そう問われるかたもいらっしゃるであろう。しかし、そうではない…『子宮に沈める』は、不思議な魅力を併せ持っているのだ。
緻密に画面に配置された、色彩の妙…
効果的に挿入される、暗転のカットイン…
演出を付けられているのかすら判らないほどの、子役の名演技…
そんな子供たちすら霞んでしまう、ヒロイン(伊澤恵美子)の怪演…
対になる場面が後から出てくる、巧みな構成…
緒方監督作品には、マイナス要素を物ともせず最後まで観せ切ってしまう確かな力量があるのだ。
物語の中盤に驚愕の長回しがあるので、これを是非とも見逃さないでいただきたい。出来ればずっと続いてほしい…観る者に必ずやそう思わせる、奇跡のシーンである。
さあ、あなた自身で確かめてほしい。
まるで定点カメラのような静謐なレンズが写し取ったモノを、
登場人物の“心の闇”なんて便利なコトバで片付けてしまっていいのか、と。
ライター 高橋アツシ
『子宮に沈める』
キャスト:伊澤恵美子、土屋希乃、土屋瑛輝、辰巳 蒼生、仁科百華、田中稔彦
監督:緒方貴臣
(C) paranoidkitchen
11月9日(土)より 新宿K’s Cinemaほか全国順次公開!
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