色めき立つ官能スイッチ『ボヴァリー夫人とパン屋』×フランス映画祭2015


bovery_17あなたは私を発酵させる
ノルマンディーの美しい村。ボヴァリー夫人は、マルタンの作るやさしくて芳醇な香りのパンを愛し、マルタンは、小説さながらの“彼女の恋”を覗き見する。

滅多に会うことの出来ない来日ゲストと、観客が直接質問投げかけて対話を楽しむことができる『フランス映画祭2015』。7月11日(土)公開『ボヴァリー夫人とパン屋』の先行上映が行われ、アンヌ・フォンテーヌ監督が来日してトークショーが行われました。(2015年6月27日 フランス映画祭2015 有楽町朝日ホール)

フォンテーヌ監督:Bonjour!日本に来るのは三回目ですが、ここに来られて嬉しく思っております。たくさんのみなさんにお集まりいただいて感激しております。この映画を、みなさん気に入っていただけたら良いですが、気に入らないということでしたら、今私、帰ります!冗談です(笑)。
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Q:覗き見パン屋さん・マルタン役のファブリス・ルキーニさんとフォンテーヌ監督は、とても長いお付き合いだと思いますが、最初の出会いから教えていただけますでしょうか??
フォンテーヌ監督:ファブリスとは、実は女優時代に会いました。私は、映画監督になる前に少し女優をしていて、彼が変な絵の先生の役を演じている映画の撮影現場で会いました。ある時、ディナーを一緒にと誘われまして、私は「これはナンパだな」と思っていたんですが(笑)、彼がとうとうと語り続けたのが、『ボヴァリー夫人(ギュスターヴ・フローベール・著)』でした。彼にとって、一種のオブセッション(固定観念)なんですね。
そしてファブリス・ルキーニは、なんと!自分の娘さんに「エマ」(ボヴァリー夫人の名前は、エマ・ボヴァリー)という名前を付けています。なので、この役を演じるのは、本当に彼しかいなかったんです。
-この話をされた時は、二つ返事で??
フォンテーヌ監督:もちろん!彼は拒絶することなんて考えられなかったでしょう。彼はとても不思議で、様々なものが混在した雰囲気を持っている、フランスではとても有名な俳優さんなんですけども、同時に面白く可笑しい人物でもあります。なので、この知的なパン屋さんという、あまりない役を演じるのに、彼以外考えられなかったんです。

Q:ファブリス・ルキーニさんが、なかなか来日されないので、次回はぜひ連れて来てほしいです!
bovery_11.jpg フォンテーヌ監督:ひとつ、情報をお教えしますと、ファブリス・ルキーニは、決して飛行機に乗らない人なんです。飛行機に乗らずに東京に来るのは、かなり大変な話なので、難しいんじゃないかと(笑)。彼は変わった人なので、奇妙なことをするのを許してやってください。でも、今のメッセージは伝えておきます。
-船という手段もあると思いますが??
フォンテーヌ監督:それはいいアイディアですね!船だと時間が掛かるので、それを利用して、私が映画を撮る!きっと、今この会場には日本の映画プロデューサーの方もいらっしゃると思いますので、「船で映画を撮る!」というプロジェクトにぜひ、お金を出していただきたいです(笑)。

Q:フォンテーヌ監督の作品に出るには、どうしたらいいですか??
フォンテーヌ監督:私の作品では、何語で演じられますか??
-フランス語を頑張ります!
フォンテーヌ監督:実はこのジュマ役を演じたジェマ・アータートンさんは、最初のオーディションの時「ボンジュール!アンヌ」しかフランス語が喋れなかったんです。その後、撮影前に三カ月ほどフランスに滞在して、言葉と文化を学びました。撮影に入った時には、ファブリス・ルキーニを前にして、即興で台詞が言えるくらいのレベルになっていました。なので、あなたにも希望があると思います。
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Q:ジェマ・アータートンさんは、どのようにして決められたのですか??
フォンテーヌ監督:最初、ジェマは候補のリストには(名前が)入っていませんでした。何人かの女優たちに会って、ピンと来なかったで、最終的にジェマ・アータートンに会うことにしたんです。彼女が部屋に入って来て、マフラーをとって挨拶をする、その二秒くらいで、もう彼女だと思いました。部屋に入ってくるなり、とても官能的で、いきいきとした雰囲気に溢れていて、もう、このエマを演じるには、彼女しかいないと思いました。彼女には、女性であれ、男性であれ、ゲイであれ、犬であれ、抵抗できないくらい本当に魅力がある人なんです。

Q:フォンテーヌ監督は、『ボヴァリー夫人』をどのようにご覧になってきましたか??
フォンテーヌ監督:私は十七歳の時に、初めて読みました。その時、これは時空を超える普遍的なヒロインであると思いました。とてもモダンで、今、21世紀のどこにでもいるような女性です。もし私が、『ボヴァリー夫人』を定義するならば、「林檎の木の下に立っていて、梨を欲しがっている女性」だと思います。その後、小説をオリジナルな手法で漫画にしている作品と出会って、フランス文学のヒロインの運命を、現代の英国の女性の運命に重ねる手法がとても面白く、映画を作りたいと思いました。
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Q:日本人にはあまり馴染みがない『ボヴァリー夫人』は、フランスでは一般教養のひとつなのでしょうか??
フォンテーヌ監督:一応、学校で課題として習うような図書なので、リファレンスとしては文学的で有名ですね。フランス文学のひとつのスタイルとして、とても象徴的なんです。フローベールは男性ですが、こんなにも細やかに、女性心理を描写してみせる手法が、小説の本当に素晴らしいところだと思います。
私たちも『ボヴァリー夫人』的な部分を、何かしら持っていると思うんです。今、この現実よりも、何か強烈な面白いものが、やがてやってくるんじゃないかと、待ってしまう気持ち。それは男でも女でもあると思うので、誰もが、この『ボヴァリー夫人』という人物に自己投影が出来ると思います。
ファブリス・ルキーニに、この文学好きなパン屋さんを演じるにあたって、「ちょっと自分を、ウディ・アレンの投影のようなつもりで演じてほしい」と頼みました。ウディ・アレンは、現実生活よりも、芸術やフィクションの方が、鮮烈で面白いと思っている人物ではないかと。

Q:監督にとって、この映画のジャンルはどんなものでしょうか??ドラマか、コメディか、サスペンスか、どう捉えたらいいんでしょうか??
bovery_09.jpg フォンテーヌ監督:これは辛辣なきついコメディだと思います。もう一度始めてしまう、最後は可笑しいですよね??原作のアングロサクソン的な残酷さと辛辣さが混じったユーモアが、全体のトーンに影響していると思います。この映画で描かれる、もう一つのテーマはエロティシズムです。ちょっと変わっている特別なエロティシズムを象徴しているのが、パンをこねるシーンです。ダイレクトではなく人を介して間接的に、物事を妄想している人物ということが分かるんです。

Q:フォンテーヌ監督の、お気に入りのキャラクターがいたら教えてください。
フォンテーヌ監督:考えたこともなかった(笑)!そういった考え方をしたことがなかったので、答えるのが難しいですが、ひとつ言えることは、ガイド役となって、この映画を語るための視点となってくれたのは、やっぱりマルタン(パン屋さん)ですよね。彼を通して、私はこのテーマとコンタクトすることが出来たので、一番親しみを持てたのは彼ですね。ここで、私からひとつお願いがあるんですが、映画をご覧になったみなさん、どうかラストはネタバレしないでください。人に言わないでください。

Q:最後に一言、お願い致します。
フォンテーヌ監督
:次回、ファブリス・ルキーニは連れて来られないと思うんですけども、また日本に来たいと思います。Merci!

bovery_13.jpg 夫人の甘美な色香に戸惑いながら
おどおどしたストーカーパン屋さんが
若い男女の恋の始まりに色めき立つ

パンを頬張る夫人の姿がなんとも官能的
このエロティックさはどこから湧き出るのだろう

いきもの官能スイッチがONになりっぱなしの展開に
ドギマギしてはふぅーと甘いため息がもれる

若い青年からの「愛している」の言葉を全身に浴びて
「永遠じゃないから美しいのよ」と言い放つ彼女

世の中には回り道しないと、持ち直せない気持ちがあったりするのだ

取材:佐藤ありす

【STORY】
bovery_18.jpg ボヴァリー夫人は彼のパンを愛し、マルタンは彼女の恋を覗き見する
フランス西部ノルマンディー地方、美しい田園風景が広がる小さな村。パリで12年間出版社に勤務した後、平穏で静かな生活を求めて故郷に戻り、稼業のパン屋を継いだマルタン。毎日の単調な生活の中で文学だけが想像の友、とりわけボロボロになるまで読みふけっているのは、ここノルマンディーを舞台にしたフローベールの『ボヴァリー夫人』だった。そんなある日、向かいにイギリス人夫妻、その名もジェマとチャーリー・ボヴァリーが越してくる!マルタンはこの思わぬ偶然に驚き、小説さながらに行動する奔放なジェマから目が離せなくなってしまう。一方ジェマもマルタンの作る、やさしくて芳醇な香りのパンに魅せられていく。ボヴァリー夫妻と親交を深めるうちにマルタンの好奇心は、単なる文学好きの域を超え、ジェマを想いながらパンをこね、小説と現実が入り交じった妄想が膨らんでいく。しかし、『ボヴァリー夫人』を読んだこともないジェマは勝手に自分の人生を生きようとする。そこへ若きアポロンのごとき美青年が出現し、ジェマは夫の目を盗み情事を重ねるようになる。このままでは彼女が“ボヴァリー夫人と同じ運命を辿るのでは?”と心配したマルタンは思わぬ行動に出る。

ボヴァリー夫人とパン屋
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー
配給:コムストック・グループ
© 2014 – Albertine Productions – Ciné-@ – Gaumont – Cinéfrance 1888 – France 2 Cinéma – British Film Institute
2015年7月11日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
オリジナルクリアファイル付き、前売り券も要チェック♪

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