満天に咲く 灯台躑躅(ドウダンツツジ) 『田崎恵美監督大全』鑑賞記


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満天に咲く 灯台躑躅(ドウダンツツジ)  『田崎恵美監督大全』鑑賞記

2015年4月11日、シアターカフェ(名古屋市 中区 大須)に田崎恵美(たざき めぐみ)監督が訪れた。この日、『シアターカフェ3周年記念特別プログラム『海にしずめる』ほか田崎恵美監督大全』の舞台挨拶が行われたのだ。

「今回は、初めて4作品全部を流していただく機会を頂きました。作品として私が主に学生時代に撮ってた物で、技術とかは拙い所が目立つ物ではあるんですけれど、変わらない部分……自分が曲げずにやっている部分も見られますので、そう言う所が伝われば嬉しく思います」壇上で、田崎監督はこう切り出した。

今回の『田崎恵美監督大全』は、カンヌ国際映画祭 短編コンペに出品した田崎監督の過去作を2プログラムに分けて全て上映すると言う映画ファンならずとも堪らない特別上映で、まさにシアターカフェの3周年を飾るに相応しい企画である。ラインナップは、以下の通り。田崎監督と『海にしずめる』蓮役の石橋征太郎さんが舞台挨拶に立ったので、お二人の作品解説を併せて紹介する。

Aプロ
『アンナと二階の部屋』(2009年/15分)
監督・脚本:田崎恵美 出演:本多由佳、橋口勇輝、小山駿助、橋本沙瑛、千石麻里子
Story:恋人ありの男と付き合うこと以外、損得の判断でしか日々を生きていない女。そんな彼女を軽やかに泳がせる、生きた人間描写の弾む楽しさ!
【第32回ぴあフィルムフェスティバルエンタテインメント賞&企画賞】
【第3回TOHOシネマズ学生映画祭ショートフィルム部門グランプリ】

「大学の映画サークルに入って撮りたての頃、『TOHOシネマズ学生映画祭』の15分部門に出したくて撮った作品です。締め切りの一ヶ月くらい前に脚本を書いて、4日間で3人くらいで撮って、応募しました。私自身、早起きが出来なくて悩んでたんです(笑)。その時会ってみたかったのが新聞配達してる人です……自分は絶対会えない、ファンタジーな存在だったので(笑)」(田崎)

『海にしずめる』(2013年/53分)
監督・脚本:田崎恵美 脚本:横川僚平 出演:遠藤新菜、三浦 英、石橋征太郎、北村岳子、真柳美苗、小宮一葉、田村健太郎、宮部純子、カトウシンスケ、藤田健彦、藤田みか
Story:過去に目を瞑り現在を生きる兄弟の元へ、ある日1人の少女がやって来る。自分の本当の父親を知りたいと言うその少女は、兄弟のかつての幼馴染みの女に瓜二つであった。互いに心当たりのある兄弟は、父親かもしれない自分に困惑する。

「4年くらい前、役者さんとワークショップ・オーディションを2日間させていただいて、役者さんとやり取りしながらどんな感じでやるかを決めていきました。石橋さんはじめほとんどの出演者の方とは、その時はじめてお会いしました」(田崎)
「ワークショップの事は余り覚えてないんです……きっと、必死だったんだと思います(笑)。役を勝ちとらなきゃいけない立場なので。撮影の時は、実際に漁師さんにお話を伺って役作りをしました。網の縫い方であるとか……普段、奥さんとどう接してらっしゃるのか、とか(笑)」(石橋)

Bプロ
『ハイランド』(2009年/68分)
監督:田崎恵美 出演:橋本沙瑛、澤田栄一、橋口勇輝、細山萌子
Story:自分達の出生が原因で母親を亡くした兄妹のリョウと絢子は、兄と姉のいる窮屈な家庭から抜け出す。不登校のサトルと、隣町のなつみも加わり、四人の夏休みが始まった。
【第22回東京学生映画祭 グランプリ】

「これより前に撮った『アンナと二階の部屋』とは違った感じの作品になったと思います。私が育った鳥取のある町は、山に囲まれててトンネルを抜けないと何処にも行けないんです。生まれたのは別の土地なんですが、そこに引っ越してきた時に感じた凄い閉塞感が作品に出ているんじゃないかと(笑)。大学の映画サークルの仲間と撮ったので、自分たちで出演して、出ない順番でカメラを回したりマイクを持ったり……本当に、ほぼ写ってる人しか現場にいなかったような感じです」(田崎)

『ふたつのウーテル』(2010年/15分)
監督・脚本:田崎恵美 出演:水口早香、澤田栄一
Story:母親を亡くした姉は、トラックで自分を捨てた父に会いにいく。父親を見捨てた弟は、あてもなく家を飛び出す。 偶然出会った異母姉弟の、二昼夜のドライブ。抑えた演出が、重なる二つの心を鮮やかに描き出す。
【第64回カンヌ国際映画祭 短編コンペティション部門ノミネート】
【第5回田辺弁慶映画祭 特別招待作品】

「『ハイランド』を撮った時、自分がやっていきたいテーマは“家族”や“血縁”だと思ったんです。それを短編でやってみたのが、『ふたつのウーテル』です。誰からも見られない閉ざされた空間で、姉弟になり切れない2人を描いてみたくて、こう言う映画になりました。ユニジャパン(公益財団法人)に予算を付けていただいたので、学生の時にやっていたメンバーとほぼ一緒なんですけど、機材やロケハンで色々と出来ました。私の4作品の音楽は全て同じ方にお願いしていて、凄く信頼してます。この作品でカンヌ映画祭に一緒に行ったんですが、その3年後に今度は監督としてカンヌに行ってる豊田真之さんです」(田崎)
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2012年4月に開店したシアターカフェ、そのオープン時に上映されていた『NO NAME FILMS』の中の1本が、『ふたつのウーテル』であった。そんな強い絆で結ばれている田崎恵美監督とシアターカフェだからこそ、過去作全てを網羅する作品大全が実現したのだ。両人を取り囲む観衆はシアターカフェの閉店時間を過ぎても熱気が冷めることはなく、田崎監督、石橋さん、観客を交えての打ち上げへと傾れこんだ。

幼少期に移り住み『ハイランド』の舞台にもなった鳥取県智頭町のことを愛情溢れる自虐ネタ雑じりで熱く語る田崎監督のアフタートークに、遠く関東から足を運んだシネフィルを含む映画ファンは深く酔いしれ、大須の夜は終電まで大いに盛り上がった。
四方を森林に囲まれた映画館も無い山間部で一人BSの名画劇場でモノクロ作品に胸をときめかせていた女子中学生は、映像と言う表現を身に就け、いつしか人々を魅了する満天の星を身に纏ったのだ。はからずも、“満天星”を中国名に持つ“ドウダンツツジ”は、智頭町の町花であると言う。

『田崎恵美監督大全』上映は、4月17日(金)まで。舞台挨拶は4月12日も予定されているので、即チェックしてほしい。
シアターカフェ3周年記念特別プログラム「海にしずめる」ほか田崎恵美監督大全

取材 高橋アツシ

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