この出会いは救いか、破滅か──前田弘二監督×宇野祥平『Man』レビュー


誰かとの出会いが、人生を思いがけない方向へ動かすことがある。良い方向にも、悪い方向にも。ある夜、駐車場で車を盗もうとしていた小田(萩原護)は、謎の男(宇野祥平)に拉致される。その男は小田の名前や生年月日だけでなく、借金や交友関係、アレルギーや飲み物の好みまで完璧に把握していた。

小田が現在のような「クズ」になってしまったのは、暴走族時代に出会った先輩がきっかけだった。先輩から仕事を頼まれた小田は、怪しいと思いながらも、先輩への恐怖から仕事を引き受けてしまう。それから小田は流されるように犯罪に手を染め、やがて車の窃盗団の一員として活動するようになった。

「これからは時間をドブに捨てず、真っ当に生きるんだ」と、謎の男は小田にマンションの鍵を渡す。さらには、借金の面倒まで見てくれると言う。なぜ男は自分にここまでしてくれるのだろう。何か裏があるのではないか。一度は男から逃げ出した小田だったが、金品を奪うチャンスと考えた仲間から戻るように指示される。こうして得体の知れない男に恐怖を抱えたまま、2人の奇妙な共同生活が始まるのだった。

前田弘二監督はこれまで、普通から外れてしまった人たちに目を向けてきた。『まともじゃないのは君も一緒』では、世間知らずで「普通の会話」ができない数学講師。『こいびとのみつけかた』では、妄想好きな植木職人の男性と奇妙な彫刻を作る女性の風変わりな関係を描いた。本作にも、「普通じゃない」人たちをありのままに見つめる姿勢が引き継がれている。物語の中心にいるのは、正しい道を踏み外した青年と、彼に尽くそうとする異様な男だ。そんな2人の共同生活を、善意と狂気が入り交じるサスペンスコメディとして描いている。

登場人物や設定が異質な作品は、下手をすればリアリティを欠いたものになってしまう。しかし、本作に確かな説得力を与えているのが、主演の宇野と萩原の演技だろう。謎の男の目的は小田を「いい男」にすることであり、一見するとそれは善意に思える。しかし、宇野は穏やかな口調で小田を諭していたかと思えば、突然笑い出し、予測不能な行動に出る。その切り替わりの速さが、男の善意をより不気味に見せている。

宇野の怪演を真正面から受け止める萩原の演技も見逃せない。謎の男に怯え、振り回される小田の戸惑いを繊細に表現しながら、時には鋭い反発を見せる。宇野の予測不能な芝居に即座に反応することで、張り詰めた空気がふっと笑いへと変わる。そんな2人の演技の応酬によって、サスペンスとコメディの絶妙なバランスが成立している。

誰かとの出会いは、人生を思いがけない方向へ動かすことがある。本作もそんな出会いから生まれた。約25年前、映画館で働きながら独学で脚本を書いていた前田監督は、宇野の「俺を主演で映画作ってや」という一言をきっかけに映画を撮り始めた。そこから始まった2人の映画作りは、本作で25作目を迎える。前田監督と宇野の出会いが本作へと結実したように、小田と謎の男の出会いも、2人を思いがけない場所へと導いていく。その先に待つのは、救いか、あるいは破滅か。「普通じゃない」男たちの行く末を、ぜひスクリーンで見届けてほしい。

文 山崎裕太

『Man』
©THEATERROOM
2026年9月11日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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