『海炭市叙景』を勝手に語る!



人々を魅了し続ける街、函館。
日本三大夜景である、函館山からの景色を撮りたくて、真冬の2月に訪れた。街全体がとても穏やかで、居心地の良さを感じた。今でも忘れられないあの街に、会いに行きたくなる瞬間がある。

函館を舞台に撮影された映画は数知れない。『海炭市叙景』の中にも、見覚えのある風景がたくさん流れる。だが、映像に映っているのは『海炭市』であり、何処かに存在しているかのような、そんな優しい錯覚を与えてくれる。命をふきこまれた街。そして、刻々と過ぎていく時間が描かれている。

5つの小さな日常は、ありのままの海炭市を描き、すれ違うように交差していく。1つ1つのストーリーに込められた想いには、人間の強さと弱さを感じ、“『生きる』ということは、とてつもなく不安で、何よりも温かいものだ”と、誰にも教わることのない教訓を痛感する。

あたり前に過ぎゆく日々の中で、わずらわしい現実を細目で見るようなクセがつく。だからこそ、時々立ち止まることも必要なのではないだろうか。色褪せた過去をいとおしく想い、掛け替えのないものを失って気づく尊さ。

しかし、それに溺れてばかりでは、何も変わらない。
大切なものは、両手に抱えられるだけでいい。

満員電車で小さく畳んだ新聞を読むサラリーマン、犬の散歩中に公園で休憩している年配の女性、コンビニにいつもいる店員さん、さっきすれ違った新聞配達のお兄さん。東京に住んでいる筆者の日常にも、海炭市の面影があふれている。

ライター 南野こずえ

『海炭市叙景』
海炭市とそこで人生に苦い想いを抱えて生きる人々の姿を、優しく包み込むように描かれている。不遇の小説家・佐藤泰志の幻の小説を映画化。函館を舞台に、市民の協力を得て作られた作品。

監督:熊切和嘉 出演:谷村美月、加瀬 亮、小林 薫、南 果歩、竹原ピストル
2011年11月3日 DVD発売、レンタル開始。
公式HP:http://www.kaitanshi.com/
©2010 佐藤泰志/『海炭市叙景』製作委員会

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