五感を使って涼を求める『劇場版 ほんとうにあった怖い話~変な間取り~』レビュー



夏の風物詩といえば、海・スイカ・花火。そして海辺のギャルたちも黙る、怪談。うんざりする酷暑を少しでもやわらげるように、五感を使って涼を求めるのは当然の欲求なのかもしれない。

子供の頃、夏休みになるとお昼のテレビ番組の怪談話に見入っては「全然余裕ですけど!」と強気な姿勢をみせていたが、あれはきっとお日様のおかげ。頭上でウサギが餅をついている刻であると、薄目で画面を見ながらも肝心なシーンでは必ず視線をそらしていたものだ。

『劇場版 ほんとうにあった怖い話~事故物件芸人~』シリーズに続く本作は、一般投稿に寄せられた恐怖体験をもとに、或る家で起きた出来事を3種類の映像とドラマによって構成したオムニバスホラー。わざわざネタ作りのために恐怖体験をするのではなく、平穏な日常に訪れる一般人の体験談ほど、いい意味で親近感を得られるものはない。

3つの異なるストーリーで、すべて“ひとつの家”だけで構成されている本作。エピソード01『禁じられた部屋』には、木村有希ことタレントのゆきぽよと、同じく実妹のゆみちぃ(木村友美)が姉妹役で出演し、旅行で訪れた民宿を舞台にした物語。道中をビデオカメラで録りあう姿は、まるでプライベートを垣間見ているかのよう。

エピソード02『話し相手』は、妻を失った男性がひとりで暮らす一軒家で寂しさを紛らわすようにAIと会話するアプリを使いはじめるところからスタートする。「M-1グランプリ」で決勝に進出したお笑い芸人マユリカの阪本が主演を務め、静のなかの狂を表現している。

エピソード03『林に埋まった映像』は3つのなかで最も長い作品。「かげろう調査団」という心霊スポット探索の配信グループ宛てに、家の調査を依頼したKという男を演じた芸人のみなみかわがセのある不気味さを醸し出している。また「第53回ロッテルダム国際映画祭」で最優秀作品賞を受賞した『莉の対』の大山真絵子が、Kの妹であり家主というキーマンを演じる。

どれもこれもタイトルが「それ系でしょ?」と言わんばかりのお決まりなのもホラーらしいが、本作はエンターテインメント性のある肝が凍らない程度のひんやりな涼なのでご安心を。異世界の未知、得体の知れない物体、しかしもっとも恐怖をそそるのは、人間の怖さであることに変わりはない。

文 南野こずえ

『劇場版 ほんとうにあった怖い話~変な間取り~』
配給:NSW
©2024 NSW/コピーライツファクトリー
8/9(金)より池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショー

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