黒川監督「知るきっかけを映画を通して作りたい」『息子と呼ぶ日まで』トークショー



池袋シネマ・ロサで行われている多様性をテーマにした日本の短編作品を一挙公開する“Diversity CINEMA WEEK”の『息子と呼ぶ日まで』トークショーが行われ、本作を手掛けた黒川鮎美監督、秋吉織栄プロデューサー、亀山睦木(映画監督)、Peter Clay(映画監督)が登壇した。(2024年11月8日 池袋シネマ・ロサ)

本作は、生まれた時に割り振られた性別に違和感を持つトランスジェンダー男性の主人公が、現代社会に渦巻く差別と 偏見の中で葛藤する姿を通じて家族の絆を描いたヒューマンドラマであり、彼の日常を描いた物語。
俳優としても活動している黒川鮎美が監督を務め、プロデューサーには俳優の秋吉織栄。主人公には、トランスジェンダー当事者限定の一般公募オーディションで選ばれた演技未経験の合田貴将が演じている25分のショートムービーとなっている。

上映後に拍手が起き、それについて黒川監督は「(舞台裏で聞いていて)めちゃくちゃ嬉しかった」と客席に対してまずは感謝を述べた。映画製作で大変だったことを聞かれ、黒川監督は前作でもLGBTQを扱った作品を手掛けていたため「今のこのご時世に、LGBTQをテーマとして映画を作ることに対して反発や世の中の声があった」と話し、さらには「(そういった反応があることを)わかっていたが、でも世の中に伝えていかなければいけないテーマ。あたりまえにある日常を描くことを自分の使命にしている」と力強く語った。本作では亀山監督が助監督として参加しており「(黒川監督が出演するときは)ヨーイ、ハイ!って言っていました」と撮影現場でのエピソードも披露。

本作で伝えたかったことという話題になると、黒川は客席に向かって「左利きの方いますか?」「AB型の方いますか?」と問いかけ、挙がる手を数えた。その理由について「今の質問に対して、手を挙げた割合と同じくらい、LGBTQの当事者っているんです」と述べ、「手を挙げてもらったからわかりますが、手を挙げなかったら誰もわからない。なので、知るきっかけを映画を通して作りたいんです」との強い信念を明かし、さらには本作の主人公について「彼のただの日常なんです。彼にとっては特別なことではないんです」と作品に込めた思いを語った。

今回は映画監督によるトークショーということもあり、短編映画が映画館での上映機会にあまり恵まれないことについて黒川監督は「短編映画の価値を上げたい。大きなスクリーンで観てほしい」、亀山監督は「宣伝にかけられるお金も相対的に小さくなるのかもしれない」、Peter Clay監督も「興行での上映となると劇場側もリスキーなのかな」とさまざまな思いを熱く語り、秋吉が「朝まで時間が必要ですね」と言うと、黒川監督も「とりあえずハイボール!」と盛りあがるトークを笑いで締めくくった。

また、トークショー前に黒川監督にお話をうかがうことができ、「トランスジェンダーの方たちに何人も取材をしてきました。この作品は大きな事件が起こるわけでもなく、波があるわけでもないです。彼のいつもの姿を、いつもの日常を撮っただけなんです。それを誰かに知ってもらいたかった。トランスジェンダーの当事者を主演として起用したのも、当事者だからわかることがあると思うし、意味があると。私のなかではドキュメンタリーに近い感覚がありました」との思いも語ってくれた。

取材・撮影 南野こずえ

『息子と呼ぶ日まで』
11月1日(金)より池袋シネマ・ロサにて開催の“Diversity CINEMA WEEK”にて2週間上映

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