孤独の闇の交差点『アーバンクロウ』レビュー



あるジリジリと暑い夏の日。
古びたアパートの1室である女性が強姦され、現金を奪われた上に偶然やって来た父親が殺された。
冒頭、事件現場となったアパートには刑事の赤井一郎(橋本一郎)が押入れに籠城している重要参考人である望月澪(咲貴)と対峙している所から始まる。

物語は、なかなか進まない。正に「静」である。その静を見守る事しか出来ない中、徐々に語られる澪の過去に静かに感情移入していく。誰にも言えない過去。味方でいて欲しい母親にも言えない。それ故、孤立していく心情が痛々しいほど伝わり、とてつもなく悲しみが押し寄せてくる。未来が見えない少女の闇に、どう手を差し伸べてあげられるか?

一方、仕事に追われる赤井刑事だが刑事であるがゆえ元妻が育児ノイローゼに陥ったとの悔恨は、子育てが辛くて逃げ出しそうになった筆者の過去と重なり、思わず息を飲んだ。全てを見せようとすれば出来るシーンを、敢えてしない橋本監督のこだわりがひしひしと伝わり、見せない事により見る者の想像を刺激するかのごとく、自然と涙が溢れて出てくる。

また、赤井の上司である来栖賢治(津田寛治)は非情なまでもパワハラで見る者を苛立たせるが、時折見せる表情がただそれだけではない何かを思わせてくれる津田寛治の演技の幅に感銘した。点と点の話が複雑に絡み合い予想外の展開に進んで行く本作は、追い詰められた人間の闇が切実に描かれている。

本作は下北沢スズナリで2000年に上演された鐘下辰男氏の戯曲「アーバンクロウー呼吸(いき)もできない」が原作となっており、名優・役所広司のご子息である俳優の橋本一郎が、自ら主演するかたわら監督としてメガホンを握ることで、主人公の心情を的確に映す出している。またヒロインの望月澪役には、オーディションで勝ち抜いた新人女優・咲貴が苦悩の中の繊細さを見事に表現しており、今後の活躍が期待できる。さらには赤井の上司にベテラン俳優の津田寛治、その他に林田麻里、土屋士、天野莉世らが脇を固めている。

登場人物それぞれの闇がクライマックスへと導かれていくラストシーン。
あなたはどう捉えますか?

文 内野ともこ

『アーバンクロウ』PG12
配給:ツチプロ 
2023年10月6日(金)から10月12日(木)シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』にて劇場公開

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