心揺さぶられる恋愛ストーリー『かくも長き道のり』レビュー
故郷に一時的に戻った新人女優の椎名遼子(北村優衣)。恋人の村上順次(デビッド伊東)と再会するのが目的だった。遼子にとっては変わらず大切な存在の順次。元プロ賭博師で、年齢は遼子より25歳も上であっても。一方、順次は……。ふたりの関係を快く思わない遼子の所属事務所は、別れさせるために男性マネージャーを送り込むことに。
撮影が行われたのは2年前。19歳の北村にとって恋人が25歳上という設定は容易いものではなかったのでは。実際、完成披露舞台挨拶の場で、「主演は目標のひとつでうれしかったけど、不安もありました」と語っている。とはいえ、スクリーン上の演技は堂々としたもの。男勝りで甘え下手な遼子をまっすぐに演じていた。
デビッドは「悪役を演じることが多いので、(この役)僕でいいの?」と謙遜したが、順次はハマリ役。作中に何度も出てくる『昭和の男』を言葉数少なく表現していた。愛する遼子の将来のために身を引こうとする態度、クライマックスで取った順次なりのけじめのつけ方は確かに昭和的といえよう。
そんな順次の振舞いに、「かっこつけんじゃねーよ」と頑なに受け入れない遼子。好き同士であるふたりが、どうして別れなくてはいけないのか。心の揺れを核に物語は進んでいく。
別れたくない遼子と、別れを選ぼうとする順次の微妙な温度差に、観客は複雑な想いや切なさを感じるであろう。終盤に存在感を現す遼子の幼馴染の松下正太(宗綱弟)にも注目。3人それぞれの立場やキャラクターを踏まえて観賞すると、巧みな心情描写がより感じられるだろう。
本作の脚本で、屋良朝建氏が『2017年伊参映画祭シナリオ大賞』審査員奨励賞を受賞後、自ら映画化した初めての監督作。屋良氏はテレビの制作会社の社長で報道番組のプロデューサーなのだが、エンタテイメント性も持ち合わせている。緻密に構成された脚本によって展開されるストーリーは飽きさせず、楽しむことができる。
文・シン上田
『かくも長き道のり』
(C)2020「かくも長き道のり」
製作・配給:ナインプレス
2021年2月13日(土)〜19日(金)
池袋シネマ・ロサ レイトショー公開