香港民主化デモに迫った短編ドキュメンタリー『香港画』レビュー
本作で監督を務めた堀井威久磨氏が、滞在先の香港で民主化デモに遭遇したのが2019年10月。デモ隊に大学生や高校生といった若年層や女子が多く含まれていた現実、指導者不在にも関わらずSNSを駆使して行った見事な戦略などに、心を動かされたという。そして、香港の現実を日本の若者に伝えることを決意。堀井監督は一時帰国を経て、11月19日に再び香港へ。前日に香港入りした前田穂高プロデューサーと合流してドキュメンタリー制作を開始した。撮影は翌年1月2日までの約1ヶ月半に及んだ。
2019年2月、香港政府が発表した『逃亡犯条例改正案』をきっかけに、大規模な反対運動が巻き起こった。自由や民主主義が奪われる危惧があるからだ。デモ隊の抗議は激しさを増し、幾度となく警察と激突。9月4日に改正案の撤回が表明されたものの、デモ隊は力を緩めないで、警察との対立を幾度となく繰り広げていた。
デモ隊と警察との激突シーンでは、度を越えた警察隊の威圧行為だけではなく、警官の薄気味悪い表情もしっかり映し出されている。堀井監督は警官にペッパースプレーを顔面にかけられ、前田プロデューサーは放水車に攻撃されたという。最前線で体を張って撮られた数々の映像は衝撃的なものばかり。
デモに参加する人や、さまざまな形でデモを支援する人の声も収められている。15歳の中学生や、33歳の区議会議員(2014年の雨傘運動で活躍したサム・イップ)など。特筆すべきは、元警察官の女性へのインタビューが行われたこと。デモ隊に対する警察の過剰暴力と体質に疑問を抱き、昨年7月に警察を辞職して、現在は区議会議員として活動しているキャシー・ヤウ氏である。香港の民主化運動を題材とするドキュメンタリーは数あれど、元警察官が登場する作品は他にはないのでは。貴重な意見や苦悩を語っているので要注目だ。
本作は28分の短編映画。撮影期間である1ヶ月半を1日の出来事として作り上げ、「時間と空間の圧縮」を全体的に施しているとは堀井監督の弁。見逃していいシーンはまったくないのである。
文 シン上田
『香港画』
配給:ノンデライコ
(C) Ikuma Horii
12月25日(金)よりアップリンク渋谷・吉祥寺ほか全国順次公開