繋がり続けていることの奇跡『アイネクライネナハトムジーク』レビュー
結婚する友人を囲んで、馴れ初めをたずねる。大人になってから幾度か経験する、おきまりの光景では「友達の紹介」「同級生」「取引先の人」など回答は様々だろう。人それぞれの物語があることを強く実感する瞬間でもある。
ドラマチックな出会いに憧れても、そう容易くは起こらないもの。現実的にはありふれた日常でささやかに訪れる出会いによって、繋がり続けている今こそが奇跡の連続なんだ、と胸に刻む。友達や仕事、趣味などの巡り合いも同じように。
ベストセラー作家・伊坂幸太郎による唯一の恋愛小説集を、『パンとバスと2度目のハツコイ』、『愛がなんだ』を手掛けた恋愛映画の旗手・今泉力哉監督が、伊坂からのラブコールでメガホンを取った本作は、3度目の共演となる三浦春馬と多部未華子が贈る、10年の時を描いたラブストーリーである。
ボクシング世界王座のタイトルマッチが流れる仙台の駅前では、多くの人が大型ビジョンに見入っている。その片隅で街頭アンケートをしている佐藤(三浦春馬)は、通りがかった紗季(多部未華子)にアンケートを依頼すると、快く引き受けてくれた。紗季の手には、買い忘れないために書かれた「シャンプー」の文字。思わず微笑みがこぼれる――。
2人の出会いを彩るように、妻に出て行かれたばかりの佐藤の上司・藤間(原田泰造)や、親友の一真(矢本悠馬)など、周囲の人たちの人生を映し出しているのだが、不釣り合いな美人妻・由美(森絵梨佳)と結婚している変わり者の一真は、普通な佐藤とは対極であり、個性的なキャラクターは劇中のスパイスにもなっている。
伊坂がファンだと公言している斉藤和義が主題歌と劇中音楽を担当し、心地よい世界観の空気を作り出す。さらには仙台・宮城でのオールロケということもあり、サンドウィッチマンが適度なタイミングで登場する憎い演出にもほっこりさせられる。
全体的にパンチもなければ衝撃的な展開もない。長い歳月のなかで途切れてしまう縁もあるが、まるで小さなリングを繋げるかのごとく、人と人の掛かり合いを大袈裟に表現せず、近くにあるような普遍さを丁寧に紡いでいるからこそ、懐かしさを覚えるのだろう。
“アイネクライネナハトムジーク”、ドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味するように、緩やかに優しく、心を温めてくれるはずだ。
文 南野こずえ
『アイネクライネナハトムジーク』
(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
9月20日(金)全国ロードショー