そばにいるだけで、いい『旅猫リポート』レビュー

2018/10/172021/02/14

動物を家族として迎え入れたことのある人なら、必ず一度は“言葉で話したい”と思うのは当然だ。
一緒に暮らしているとある程度の理解は互いにできるようになるが、本当はどう思っているのか、何を望んでいるかといった本心を、言葉で確認したいという叶わない願いをずっと抱き続ける。

不思議なもので我々が悲しみや辛さを感じたとき、本能的に察知するように彼らはいつも寄り添ってくれる。しかし、彼らにとっての目に見えない痛みに寄り添えているのかは、どうしてもわからない。

ツンデレな野良猫・ナナは、よくエサをくれる青年・悟（福士蒼汰）と出会う。ナナが事故に遭ったことがきっかけとなり、やがて家族として共に生活をするようになる。時は経ち、悟はとある事情によりナナを手放さなければならなくなってしまう。昔の友達を訪ねながら新たな飼い主を探す旅に出る、1人と1匹。その先々でナナは、悟の過去の思い出に触れていく――。

本作で特徴的なのは、猫であるナナの心の声が観客には聞こえることであり、声を演じる高畑充希の表現力が見事に相性ドンピシャ。ただ、スクリーンに登場する悟や友人たちには心の声が聞こえていないため、両者の思いやすれ違いに対してどちらも理解できるゆえに、何とも言えないもどかしさを感じるだろう。

人間と猫の心の通わせだけでなく、高校時代の友人夫婦（大野拓朗、広瀬アリス）宅を訪ねた際に起きる動物界同士の会話も、面白いエッセンスとなっている。また、旅先で再会する人達とともに振り返るエピソードや淡い恋心にほっこりさせられながらも、悟を支える叔母（竹内結子）と歩んだ壮絶な過去も明らかになってゆく。