笑う先には夢がある『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』レビュー



無邪気な笑顔を絶やさない、西島秀俊を久しぶりに観た。まるで明るく、元気に、楽しくと言わんばかりに、ここまでスマイル全開な彼は初めてではないだろうか。

本作の舞台は遊園地。その裏側にスポットを当て、誰もが経験する仕事に対する苦悩ややりがいをコミカルに描いている。仕事が楽しくて仕方ないと言い切れる人は、この世の中にどのくらいいるのだろう。しかし何のために働くのか、なぜ楽しくないかを突き詰めるよりも、どうしたらワクワクできるかを見つける方が賢明である。

波平と書いて“なみひら”と読む波平久瑠美(波瑠)は、彼氏の俊郎(中村倫也)と同じホテルチェーンに就職を果たす。しかし配属は田舎にある遊園地、グリーンランド。本社に勤務する俊郎とは遠距離になってしまい、モチベーションが上がらないまま現地を訪れる。

遊園地という非日常を演出する特別な空間には、やはりルールがあり「どんな急用でもお客の前では走らない」「お客の前では大声出さず笑顔絶やさず」「落ちている物は全部落し物と思え」など、物事には必ず理由がある。また、知られざる遊園地の裏側を垣間見られる点も、本作ならではの魅力。ちなみにロケ地となっているグリーンランドは熊本県に実在しており、観た後に行ってみたくなるはずだ。

出勤初日から早速ハプニングに巻き込まれ、カリスマ的な存在と言われている上司の小塚(西島秀俊)からは、企画希望なのにゴミ拾いや雑用ばかりを言い渡される。俊郎にはグチを吐き、不満が溜まる日々。優秀な社員に与えられる「MVP」を獲得すれば本社勤務に戻れることを知り、それを目標にするが――。

自分の要求を認めてもらえない、思うように上手くいかない。どこかで容易く見限っていたことを思い知る、波平。一方、ゲーム要素を取り入れて周囲を巻き込みながら仕事を楽しみ、誰からも信頼される小塚を目の当たりにし、小さな変化が訪れる。信頼や実績は突如生まれるはずもなく、あたり前のように積み重ねて得ていくからであり、慣れないことに失敗はつきもの。そして、次第に目的が変わってゆくのは心変わりではなく、前に進んでいる証でもある。

威勢のいい弥生(橋本愛)、お調子者の上園(深水元基)、いつも適当な園長(柄本明)など脇を固めるキャストたちの適材適所っぷりが安心感を与えてくれる。特におせっかいなおばちゃんの南原(濱田マリ)の可笑しさは期待どおりで、やはりいい味を出す存在。そんな個性的な仲間たちに見守られ、助けられながら、自分に足りないことに気づいては成長をしていく主人公の姿に、共感する部分もあるだろう。単純なストーリーと斬ればそれまでだが、だからこそ丁寧に描くことが求められ、遺憾なくキッチリと映し出している。

「けわしい顔をしている大人のところに、子供は寄ってこないだろ?」小塚の何気ない言葉に思わず納得した。笑顔になるから楽しくなり、周囲にも伝染していく。“こんな仲間たちと一緒に働けたら”と考えるくらいなら、まずは自分から。誰かが背中を押してくれるのを待つよりも、自分がスタートになればいいのだ。

文 南野こずえ

『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』
(C)小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会
10月26日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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