貌を変える、白と黒 『ハッピートイ』鑑賞記


_1110149「この映画は、ENBUゼミナールという映画学校の企画として作られました。主要な役者さんたちは映画に出るのが初めてという人が多く、とにかく若いです。僕みたいな者が若者と接していくうちに、「世界って色々大変なんだなぁ」とか、世情を憂いつつ(笑)、生まれた映画です。名前の通り“ハッピー”な映画だとは思いますので、楽しんで観ていただければと思います」

2016年5月21日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)のスクリーン前、2年ぶりに登壇した平波亘監督は上映前の観客席にそう切り出した。
ENBUゼミナール(品川区 西五反田)の名物企画【CINEMA PROJECT】として制作された『ハッピートイ』(2015年/97分)が、この日東海地区の封切りを迎えたのだ。

『ハッピートイ』ストーリー:
アオイ(上野伸弥)は、義母・メグミ(皆戸麻衣)と二人暮らしの18歳。趣味も友人も持たず、ゴーダ(川合敏之)の経営する工場で働くだけの毎日を過ごしている。海から来た不思議な少女・ココ(芦那すみれ)と出会った頃から平穏な生活が一変、アズマ(川瀬陽太)やハシオ(橋野純平)らに追われる身となる。
ある夜、アオイはリク(栗田一生)と名乗る少年らに助けられる。ユウヤ(大田優介)、ミイ(望月葉子)、ナツ(上田うた)、サヤカ(今井理惠)、ダイ(松本順)、マコト(石田清志郎)……共同生活をしながら街から街へと旅する彼らの自由に憧れるアオイ。だがリーダーのリクは、自分たちのことを「親に捨てられ、神様にも見放された、できそこない」だと言う。
全編モノクロームの光と影の中、少年は何を見出すのか――。

――この映画を撮るそもそもの切っ掛けを教えていただけますか?(司会進行:シネマスコーレ坪井篤史)

_1110099平波亘監督 『ハッピートイ』は【CINEMA PROJECT】4年目の作品なんですが、僕、1~3年目までずっと助監督やってたんです。最初が『あの女はやめとけ』(監督:市井昌秀/2012年/70分)で、2年目が『サッドティー』(監督:今泉力哉/2013年/120分)、3年目は『夜があけたら』(監督:川村清人/2014年/92分)と助監督やってて……「そろそろ(監督を)やらせろよ!」、と(場内爆笑)。僕は【CINEMA PROJECT】にずっと係わってきて、変な言い方をすると、難しいなと思ってたんです。彼らも【CINEMA PROJECT】に興味を示して応募してきてくれたんですけど、変な話、どんな方が来るか分からないじゃないですか(笑)。募集して、集まっていただいて、ワークショップを始めて……面子が分からないままスタートする訳ですよ。同時進行で『「トーキョーの夜」の朝』(監督:頃安祐良/2015年/85分)も撮られていて、そっちにも例えば上田うたや栗田一生とかは友情出演してるんですけど、要は集まってくれた24人全員でワークショップをやって、頃安監督と24人を取り合うんです(場内笑)。1回6時間を4回24人で行って、そこから組分けして。

――ということは、役者さんを見ながらお話が出来上がったんですか?

平波監督 そうですね。ワークショップが(2015年の)1月から始まって、撮影は6月にやってるんですけど、最初なにをやって良いか全然分からなくて。若い俳優さんを中心に12人……よく言われる僕の良い所でもあり悪い所でもあるんですけど(笑)、やっぱり全員の役者をちゃんと観た人に憶えてもらいたい気持ちがあるんです。

――キャストの皆さん、『ハッピートイ』に出て如何でしたか?

_1110107上野伸弥 ワークショップが始まってから撮影まで、アッと言う間に過ぎていったなと。撮影は1週間だったんですけど、そちらも詰めて詰めて毎日やっていたのでアッと言う間でした。普段から大人しいというか、思ってることもバンバン言わない、飲みの席でも喋るタイプでもないので、そういう意味ではアオイに近いんですが……演じるのは、やっぱり大変でした(笑)。

_1110109上田うた 伊豆で合宿しての撮影だったんですけど、大変だった思い出ばかりで(笑)……過酷でした。男性陣は、朝起きたらそのまま車に乗って現場に1時間掛けて向かうみたいな生活を送っていました。女性陣はさすがにちょっとということで、凄くありがたいことに撮影現場のすぐ目の前のお家に泊めていただけたんですが……6月でしたが夜は凍えるほどで、目茶苦茶寒かったんですよ。なのに……まさかの、水シャワーで(笑)。役については、私は上野くんと逆で普段どちらかというと喋りの方なので、声を奪っていただいて本当に嬉しかったです。難しかったですけど(笑)。

平波監督 ナツが喋れなかったり、ミイは精神的に成長しなかったり、リクくんは病弱だったり、ココと海のことだったり……僕の中での裏設定ですが、3.11後の色々なことを暗喩として込めたつもりだったんです。

_1110138望月葉子 ずっとテンションが高い役だったんですけど、私普段あそこまでテンション高くないので、結構保つのが大変で、体力も結構使いました。平波さんの映画って基本毎回キスシーンが出てきて、他の3人は全員キスしてるんですけど、私だけしてなくて……ちょっと、演りたいなあって(笑)。役柄としては、自由に、好き勝手に演ってたんですが、やりすぎたりしたら止められたりしてました。

平波監督 基本、「もっと元気に!」か、「もっと抑えて!」か、どっちかでしたね(笑)。

_1110143栗田一生 僕は一昨年にENBUゼミナールに入りまして、お芝居を始めました。中間制作で夏に参加させていただいた『トーチソングス・グレイテストヒッツ』(2014年/67分)が、初めての平波監督作品ということになります。僕は端っこでふざけてるような小中高時代を送ってきたんですが、前作もそういう感じの役を頂きました。今回は纏め役というか、ツッコミを入れつつはみ出た人を纏めていく役だったので、自分に無い物を引き出してもらったという感じです。そもそも、そういうことが出来ない人間だと思ってまして、今回は実際の繋がりも大事というか、普段仲が悪いとスクリーンに出てきてしまうので……リクというリーダーの役をもらった時、僕に出来るかなと思って、ちょっと慌ててたんです。合宿に行く直前くらいに、全体LINEで平波さんが一人ずつに「どういう想いを込めて役を与えたか」みたいな書き込みがあったんですね。最後締め括りのところに、「この『ハッピートイ』という映画を撮るにあたって、まだ皆の纏まりはもうちょっとだと思う。その役割を誰に任せたいかは、僕の中でもう決まっています」ってあったんです。これは僕だなと思いまして、平波さんが言っている以上、信頼することで「皆、ついてこい」って気持ちになれました。僕はちょっと年上なんですが、それまで敬語で話しちゃったりしてて(笑)。それを、タメ語で行くぞ!と決意を固めたんです。

平波監督 若者たちの関係性っていうのは、栗田くんが言ってくれたように、オフの状態でもある程度そういう空気を作ってほしいとは思ってたんです。さっき上田さんも言ったんですけど、とても過酷な合宿だったので、それを乗り切るためにも一致団結しないと……僕みたいなのは、慣れたものですけど(笑)。

――皆さんは今後も平波組でやることがあると思うんですが、平波監督としてはどんな映画でご一緒したいですか?

平波監督 特に無いです。

――キッパリ言いましたね……酷くないですか?

_1110145平波監督 いや、違います!そうじゃなくて……やっぱり、前の役は超えてほしいじゃないですか。それを考えるのが、大変なので(笑)

――考えてみたら、平波さんの作品は何度も出る役者さんって少ないですよね?

平波監督 あんまり居ないですよね。数えたら橋野純平が15回出てたり、細川佳央が8回、二ノ宮隆太郎が9回と、例外はありますが……役者と仲良くなれないんで(笑)。でも、今年の頭にホラーを撮ったんですけど(『イースターナイトメア~死のイースターバニー~』2016年/63分)、上田さんに出てもらいました。

上田 平波さんは同じ役者は使わない、特に良い女優は2回使わないって聞いてて……「あ、使われてしまった」と思いました(大笑)。

平波監督 そんなことないです、使いますよ(笑)!

_1110127――皆さん、今後はどんな映画に出てみたいですか?

上野 つい最近26歳になりまして……役者はじめたのはつい3年前くらいなんですけど、僕が好きな映画のジャンルの1つが青春映画なんです。好きな映画が『渚のシンドバッド』(監督:橋口亮輔/1995年/129分)で何回も観てるんですが、“その時しか無い時間”みたいなのを高校時代に戻ってもう一度やってみたいです。

上田 今は結構、与えられたものを見て「私はどう思われてるのかな?」っていう面白さがあるので、与えられた役をやりたいのが大きいんですけど、昔から演りたかったのは上野くんと同じように青春映画とか、『ウォーターボーイズ』(監督:矢口史靖/2001年/91分)みたいな感じで普段できないようなことを全員でやって青春を謳歌するような(笑)。『青い春』(監督:豊田利晃/2001年/83分)の“ザンッ!”みたいなやつを女でも演ってみたいです。普段やらないような本当に悪い奴とか、完全にかけ離れてるものも演りたいですね。

望月 年齢もいい年になってきたので、男を惑わす女みたいなのが出来るようになりたいです(笑)。

栗田 僕も自分がどう見られているかということと、自分がどういうのを演りたいかの狭間で悩んでるのもあるんですけど、今のところ頂くのは飄々としてて主人公の女の子にちょっかいを出して痛い目に遭うようなトリッキーな役が多いです。色っぽいシーンがあったりもするので、そういうのを磨いていきたいのもあります。単純な願望としては、ユウヤ(演:大田優介)のようなキレた感じの、もっと……例えば、『池袋ウエストゲートパーク』の窪塚洋介さんみたいな暴走する感じも演ってみたいとも思います。

――平波監督、今後撮りたい作品の構想はありますか?

平波監督 今年の頭に初めて演劇をやらせてもらったんですが(『LIGHTS/ライツ』作・演出)、どうやっても「映画っぽい」って言われたんで(場内笑)、それはいつか映画にしたいと思ってます。あと、夏ぐらいに1本撮るかと思います。『ハッピートイ』と似たような企画なんですけど、キラッキラなやつです。

上映後、出演者の皆と話して驚愕したのだが、『ハッピートイ』はシナリオの段階では全く違ったラストだったと言う。
現場で姿を変えていく作品――『ハッピートイ』は、まさにそんな【CINEMA PROJECT】作品、ワークショップ作品特有の、自由、そして成長を体現した映画なのかも知れない。

『ハッピートイ』はシネマスコーレで5/24(火)まで、連日18:55~の上映となる。5/25(水)からは同じく【CINEMA PROJECT】第4弾、頃安祐良監督作品『「トーキョーの夜」の朝』(18:35~)と入れ替わるので、どうか御観逃しなく。

取材 高橋アツシ

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