和紙職人と、指キッス『つむぐもの』鑑賞記
2016年5月7日、名演小劇場(名古屋市 東区)1階サロン2は、午前・午後とも満員の観客で膨れ上がっていた。
この日、『カミングアウト』(2014年/98分)『早乙女4姉妹』(2015年/92分)の犬童一利監督の最新作『つむぐもの』が初日を迎え、舞台挨拶が開催されたのだ。
石倉三郎 本日は、本当に……ま、忙しい方は来られないと思いますけど(場内笑)……ようこそお越しくださいまして、本当に感謝しております。有難うございます。福井県の越前市と言う所で2週間ロケを行いまして、東京が1日で、韓国で3日間と言うハードスケジュールの中で1本仕上げました。春夏秋冬のシーンがあるんですが、それを2週間で上げたと言う凄まじい強行スケジュールの中、皆スタッフもキャストも本当にこの映画に掛ける情熱って言うのがありまして、何の揉め事もなく見事なチームワークで完成しました。僕たちが一所懸命やってる姿を全国の皆さんに観ていただきたい気持ちで一杯でございます。今日こう言う素敵な、本当に素敵な映画館で上映されると聞きまして、長久手の出身なんですが、元・大リーガーの……
隆(りゅん) ……Jリーガーです(笑)。
石倉 大リーグは、野球か(笑)。Jリーグでやっておりまして、故障で俳優の方に転向しまして、これが第1作目でございます。私は50年ほどやっていますが、一瞬にして、デビューしたばかりの彼に食われてしまいました(場内笑)。隆(りゅん)は恐るべき男でございます。今日はごゆっくりご覧いただき、気に入りましたら是非とも、ご親戚の方、友達の方、色んな方に……やっぱりこの世界いちばん大事なのは口コミらしいですね。ですから口コミで皆さんに伝えていただければ、もう望外の幸せでございます。では……長久手が生んだ未来の大スター、隆(りゅん)!
隆 (笑)……初めての映画で、金田と言う役を演じさせていただきました。皆さん貴重なお時間を割いてここに足を運んでくださり、本当に有難うございます。素晴らしい映画になっていますので、楽しんでください。
前田紘孝プロデューサー こう言う機会に恵まれることは、本当に沢山の支えていただく方のおかげだと思っております。今の日本映画界は殆んどがシネコン向けになってるんですけど、これは本当に若いチームで丁寧に作った作品です。介護、日本の伝統工芸、日本と韓国、大きな3つのテーマを入れて、全員総力戦で作り上げた映画でございます。本日は2回とも満席で、本当に嬉しく思ってます。もし気に入っていただけたら、広めてくださると嬉しいなと思っております。是非とも宜しくお願い致します。
『つむぐもの』ストーリー:
剛生(石倉三郎)は、福井県・越前市に住む和紙職人。何かと世話を焼きたがる和紙組合の石川(日野陽仁)や新米和紙職人の宇野(森永悠希)ら周囲からの声にも耳を貸さず、妻に先立たれてから頑固に独りで暮らしている。
弟子も取らなかったことも災いしてか、ある日工房で倒れた剛生は半身に麻痺が遺ってしまう。日常生活に支障が出るようになった為、離れて暮らす息子夫婦(結城貴史・広澤草)は介護施設【なごみ】への入居を勧めるが、剛生は頑として聞き入れない。
ケアマネージャー・小野(本多章一)は介護福祉士・涼香(吉岡里帆)、蓉子(内田慈)らと介護プランを立てるが、訪問介護やデイサービスでは脳腫瘍の剛生のケアを仕切れないため、石川と【なごみ】施設長・山下(宇野祥平)は一計を案じる。日常生活のサポート役として、小間使い兼家政婦に同居してもらうと言うのだ。
だが、案内人・金田(隆)が剛生の許に連れてきたのは、韓国・扶余郡からワーキングホリデーで来日したばかりの、それまで介護とは無縁だったヨナ(キム・コッピ)なのであった――。
上映後の慌ただしい中、なんと隆さんが独占インタビューを受けてくださった。
――日本語と韓国語を使う役と言うことで、ご苦労もあったのでは?
隆 僕は在日韓国人なので、韓国語は学校でずっと使っていました。訛りとかはあるんですけど、それはコッピちゃんとか通訳の方に相談しながら……あんまり韓国人っぽくなっても通訳っぽくないですし。俳優をやる前に旅をしていたんですが、その時に通訳の手伝いをしたことがあり感覚は分かっていたんで、そんなに修正することも無かったです。
――今お話に出ましたが、キム・コッピさんの印象はどうでした?
隆 僕は『息もできない』(監督:ヤン・イクチュン/2008年/130分)って映画を観てたんで、まさか初めての映画がその子だとも思わず……。あの映画ではちょっと気の強い女の子でしたから構えてた部分もあるんですけど、ポスターの表情のように常に笑ってる目茶苦茶優しい子でした。演技の面では、言わなくても分かると思うんですけど、凄まじいオーラと言うか……出してるものが凄くて。それを石倉さんと僕は、監督の演出で「拾わないでくれ」って言われてまして、2人して不安でした。楽屋で「俺ら、良いのかな……何もしてねえぞ」って(笑)。
――隆さん、凄くミステリアスな感じでした
隆 それを出したかったみたいですね。でも、金田は何だかんだ良い人なんですよね(笑)。
――石倉三郎さんは、如何でしたか?
隆 本当に、男としても人としても良い人で……色んなことを学ばせていただきました。「凄く怖い」って評判もあったんですが、全然そんなことなくて。エンターテイナーと言うか、その場の空気を読んで演技を良くしたりとか、そう言うのが凄く上手い方です。先輩としても、僕は知らないことは聞いちゃうタイプなんですが、ズカズカと聞いてた新人の僕に対して全部教えてくれて。初めての作品でご一緒できたのが御二人で、本当に良かったと思います。
――「ここは観てほしい!」って言う所はありますか?
隆 マッコリと日本酒を飲み交わす場面は、意味のある象徴的なシーンで、僕も好きです。
――隆さんの出ている場面では、どうですか?
隆 実は金田は良い人なんで、コッピちゃんと吉岡里帆ちゃんを車の中から見てるシーンがあるんですけど、そこが一番優しい顔をしてます……一瞬ですけど(笑)。
お忙しい中お時間を割いてくれた隆さんに、改めて感謝を。
東京での公開を好評のうちに終え、名古屋・沖縄での上映が始まった映画『つむぐもの』は、今後も順次全国を回る。
作品で描かれているように、世代を、性別を、国籍を越えて、これからも人々を“つむぐもの”であり続けるのだろう。
取材 高橋アツシ・小林サク
©2016 「つむぐもの」製作委員会
『つむぐもの』公式サイト
http://www.tsumugumono.com/
名演小劇場公式サイト
http://homepage3.nifty.com/meien/