隠しきれない“芝居愛” 『The Independent』鑑賞記


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短編を中心としたインディーズ映画の聖地として、名古屋近郊の映画ファンから広く支持を得ているシアターカフェ(名古屋市 中区 大須)。今月の【夕暮れシアター】として連日上映されているのは、木村理沙監督の最新作『The Independent』(2015年/22分)である。【夕暮れシアター】とは、上映等のイベントがない日没後にシアターカフェが厳選した作品をループ上映する独自企画で、良質な作品をワンオーダーから観られるとあって人気も高い。短編映画を観たことがない映画ファンが、“短編デビュー”としてこの番組を選ぶことも多いそうだ。
2015年9月16日、水曜の夜と言うのにシアターカフェには多くの映画ファンが足を運んだ。『The Independent』監督の木村理沙氏(写真 左)、スチール担当の長谷川みず穂氏(同 右)が来場すると言うので、筆者も映画ファンの一人としてシアターカフェにお邪魔した。

木村理沙監督は、1985年 東京都品川区生まれ。日本大学芸術学部映画学科で映画作りを学び、現在は広島県福山市で暮らしていると言う。

「『The Independent』は去年の10月、友人がやっているカフェギャラリーを借りて5日間くらいで撮りました。今回のスタッフ・キャストは、8割…9割くらいは大学時代の友人です。卒業してから映像の仕事はしてたんですけど映画からは離れていたんです。ですが、広島に引っ越すことが決まって……その時に、急に未練が湧いてきまして。学生の頃に納得の行く物が撮りきれてなかったって想いがあって、それから準備を始めました」

シナリオの準備を始めたのが2013年10月、完成までに1年半を要したそうだ。“納得の行く物を撮りたい”と言う木村監督の熱い想いは、多くの友人たちを動かし、『The Independent』と言う魂の篭もった作品を生んだ。
『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』(監督:フランク・オズ/1988年/110分)、『アンドロメダ…』(監督:ロバート・ワイズ/1971年/131分)等、『The Independent』には木村監督が愛して止まない作品への敬愛が鏤められている。

『The Independent』Story:
マサ(林 浩太郎)は、駆け出しの俳優。始めて役名をもらった舞台が間近に控えているが、理想と現実のギャップに悩みは尽きない。淡い想いを抱くカフェ店長・のり(まひる)からの連絡を受け稽古帰りに店に寄ったマサは、どこか様子がおかしい酔っ払い(鈴木 等)、高圧的な警官(杉山ひこひこ)を前に、芝居への情熱を説く破目になるのだが――。

「初めて映画を作ったのは、16歳でした。SF映画で、粘土で作った宇宙人が出てくるんです(笑)。宇宙人と日本人の女の子が恋に落ちて、二人の子供が記者に尋問されると言う(大笑)。シュールと言うのか……もう恥ずかしくて、何年も観てないんですが(笑)。その映画を撮ったのは16の11月なんですが、その年の夏に初めて日大の映画学科の卒業制作のアシスタントをしたんです。知り合いが大学にいて「興味があるなら手伝ってみないか」と声を掛けてくれて。そこで、映画自体よりも映画を作る人たちへの憧れが確立されたんです。そんなこともあって、作る方が先行して観る方は……好きな作品は何度も観るんですが、新しい物を観ようとする思いが他の人と比べて低くて(苦笑)。映画を観てる本数は、同期の中で多分一番映少ないです」

木村監督はそんな風に謙遜するが、映画や演劇――あらゆる“演技”に対する敬意が『The Independent』には溢れており、それは取りも直さず監督の芝居への造詣の深さを感じさせる。
大学の同期の役者には、『サイタマノラッパー』シリーズ(監督:入江 悠/2009~2012年)・『インターミッション』(監督:樋口尚文/2013年)・『TOKYO TRIBE』(監督:園 子温/2014年)・『ラブ&ピース』(監督:園 子温/2015年)の奥野瑛太氏がいるそうで、卒業制作の映画には準主役で出演したとか。とても謙虚な木村監督は照れて詳しくは教えてくれなかったが、機会があったら是非観たい作品である。
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「私は監督と違って、“作るより観る派”です。芸術学部って「やれアングルだの色々と気になって、作品が楽しめなくなった」って言う人が多いんですけど、私は全然平気です。無心で楽しめます(笑)」

そんな長谷川さんも木村監督の大学の後輩で、気心が知れた友人であると共にとても頼りになる存在だと言う。『The Independent』では担当であるスチール撮影だけでなく、音声を拾い、照明を当て、八面六臂の活躍だったそうだ。
木村監督は“観るより作る派”、長谷川さんは“作るより観る派”……『The Independent』が纏っている絶妙なバランス感覚は、作品に係わった人々の感性の均衡が産み出したのかも知れない。

「私がここ数年好きな映画は、観た後に「明日も仕事を頑張ろうか」と思える映画で、『The Independent』もそれを目指したつもりです。なので、「明日から頑張ろう」って元気が欲しい方に、是非観ていただきたいです」

木村理沙監督の、長谷川みず穂さんの、そして全てのキャスト、スタッフの熱い“芝居愛”が詰まった『The Independent』は、新潟県三条市のキネマ カンテツ座でも観ることが出来る。『The Independent』の他、朴 美和監督、中川和博監督の作品など計8本の短編映画が17時より閉店までループ上映されている。この【日本大学芸術学部映画学科出身監督による特選短編上映会】は、9月末まで。
また、10月3~4日に開催されるオールナイト野外映画フェス【夜空と交差する森の映画祭 2015】(山梨県 北杜市)での上映が決定している。『The Independent』は、“MISTERY FOREST”会場だ。
そしてシアターカフェでも、9月いっぱい【夕暮れシアター】でループ上映されている。“釣瓶落とし”のこの時季、早くなった宵闇が訪れたならイベントがなくてもシアターカフェに行ってみるといい。シアターカフェはイベントのない日も“映画愛”に溢れていて、『The Independent』のような珠玉作に出会える場所なのだ。

取材 高橋アツシ

シアターカフェ公式サイト

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