5人目の“ハァハァ”が聴こえる 『私たちのハァハァ』先行上映会 潜入記


5人目の“ハァハァ”が聴こえる
――『私たちのハァハァ』先行上映会 潜入記――

『アフロ田中』(2012年/114分)『スイートプールサイド』(2014年/103分)で、少年の妄想を銀幕に炸裂させたかと思えば、
『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年/106分)『ワンダフルワールドエンド』(2015年/82分)で、少女の崩れ落ちそうな心象に優しく寄り添う。
“こじらせた青春の巨匠”松居大悟監督の最新作『私たちのハァハァ』は、クリープハイプの言葉を真に受けたJK4人組が1000キロを駆け抜ける物語。奇跡のガールズムービーであり、究極のロードムービー、そして、青春映画の集大成とも言える傑作だ。
《ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015》で【ゆうばりファンタランド大賞(観客賞)】【スカパー!映画チャンネル賞】の二冠を獲得したのも、伊達ではない。

『私たちのハァハァ』Story:
クリープハイプが大好きな女子高生4人組チエ(真山 朔)、さっつん(大関れいか)、文子(三浦透子)、一ノ瀬(井上苑子)。そんな“クリープハイプ ハァハァ”な女の子が福岡のライブを見に行った時「東京のライブにもぜひ」と言われたもんだから、さぁ大変!その言葉を真に受けて、北九州から東京へ突っ走る高校最後の夏休みが、今はじまる!!

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2015年8月9日、翌月のロードショー上映を控え、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)では『私たちのハァハァ』先行上映会が行われた。
松居大悟監督(画像:中央)だけでなく配給・宣伝プロデューサーの直井卓俊氏(画像:向かって右)が登壇し、上映後の舞台挨拶では“ここでしか聞けない『ハァハァ』の話”をたっぷり聞くことが出来たので、ネタバレには細心の注意を払いつつ再現してみる。

——松居監督は、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』以来のシネマスコーレですね(司会進行:シネマスコーレ坪井篤史)
直井「『自分の事ばかりで情けなくなるよ』が、初めて松居監督が持ち込んできてくれて配給をさせてもらった作品ですよね」
——その次が……
松居「『ワンダフルワールドエンド』ですね」
直井「同時期くらいに、『ハァハァ』も企画を振ってたと思うんですよ」
松居「『自分の事ばかり』が上映はじまった時に、『ハァハァ』のプロットを作り出してたんですよ」
直井「松居監督はそれまで“童貞系の青春映画”みたいなイメージだったんですけど(場内笑)、『自分の事ばかり』で女性に凄く同化してるような感覚を覚えたので、「女の子の企画をやらない?」ってことで『ワンダフルワールドエンド』をお願いしたんです」
松居「同時に『ハァハァ』も、準備してたんですよね。『自分の事ばかり』の感想をエゴサーチしたら、自分の作品のテーマを遥かに越えて、愛情深い中でその人にしか言えない言葉を言ってて……何かを追いかけてる人の気持ちって、凄いと。そう言うファンの人の映画を作りたいって思ったんです」
——そこから動いてたんですね……一年半くらい前から?
直井「飲みの席でフワッとこう言う感じの話って言ったら、すぐプロットが出来てきて……『うちらのハァハァ』って言う」
松居「最初から“ハァハァ”が入ってましたね。“クリープハイプ ハァハァ”、“尾崎(世界観)さん ハァハァ”みたいなのが印象的だったんですよね(場内笑)。公式に使われないスラングっぽい言葉って、面白いなと(笑)」
直井「夕張に出す時に、英語タイトル困ったんですよね」
松居「“ハァハァ”の訳し方が分からなくて(笑)」
——英語タイトルは、何だったんですか?
直井「『Luv Ya Hun!』でしたっけ?」
松居「「意味わかんない!」って言われて(笑)」
直井「また変えて、『OUR  HUFF  AND  PUFF  JOURNEY 』になったんですよね(笑)」

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——プロットの頃と比べて、作品は変わってるんですか?
直井「最初から4人だったよね?4人の女の子」
松居「そう、そうです。ほとんど同じですね。福岡からチャリで東京行くロードムービーでした」
直井「実はこれ、“クリープハイプの第二弾企画”じゃなかったんですよ」
松居「そう、最初は“とあるバンド”で。台本作っていく中で、「どのバンドにしたらいいんだろう」って考えたら……一番近くにクリープハイプがいた(場内爆笑)」
——そうなんですね……逆だと思ってました。クリープハイプありきかと
松居「違ったんですよ。クリープハイプでやるってことになったんで、台本が変わったところもあったんです。NHKホールのライブに突っ込むのも尾崎くんに相談してみたら、「ニュースになるからいいよ」って言われて……「あ、いいんだ」って思いましたね(場内爆笑)」
直井「現実を動かすと言う(笑)。クリープハイプと松居くんの関係性があったから出来る技ですよね」
松居「地方パートを去年の8月3〜12日で撮って、一ヵ月後に東京パートを撮ったんです。一ヶ月開くので「髪型とか同じ感じでキープしておいて」って言っておいたんですが、“さっつん”って一番元気な女の子(大関れいか)は撮影の前日に海に行って……こんがり焼けてきて(場内笑)。確かに、「陽に焼けるな」とは言ってなかったな、と(笑)」
——じゃあ、撮影は(劇中と同じく)福岡から順番に?
松居「そうです。撮りながら撮りながら」
直井「だから、フェイクドキュメンタリー風な感じになってるのもありますよね」
松居「台風が直撃して、待つか?って話にもなったんですけど……1日も撮りこぼせないから、ロードムービーで雨を避けるのも変だし行っちゃおう、とか言ってたんですけど……ちょうど池松(壮亮)が来た瞬間に、土砂降りに(場内爆笑)。で、あいつがいなくなった瞬間に晴れると言う……でも、結果、絵になったんですよね。お金かけて雨降らしたみたいな。「雨ヤバいっすね」って台詞を追加しただけです(笑)」
——池松さんの撮影は、1日くらいだったんですか?
松居「1日ないですね……夕方から朝までなんですよ」
直井「今を時めく池松壮亮を、超贅沢な使い方してますよね(場内笑)」
松居「現場で、「タオルを巻きたい」って言いだして、「白か黒、どっちがいい?」って聞いてきたから、「じゃあ、黒かな」って……「タオルを巻いちゃいけない」って言う余地は無かったですね(一同笑)」
——福岡から始まって、何日目くらいだったんですか?
松居「ちょうど真ん中ら辺な気がします。地方パートが10日間なので、その6日目とか、そんな感じかと」
——10日間って、凄いですね
直井「スタッフが、本当に大変ですよね」
松居「役者も炎天下チャリで漕ぐシーンとかなんで、倒れたりするんですよね。でも、倒れても撮影は止められないから、倒れた人の所に僕が入って、その子の設定でカメラを回したりしてました。皆で支えあい支えあい、押し切ってました」
直井「総力戦ですね!」
——それがそのまま映画に写ってる感じがします
松居「自分の中で、「どう撮ろう」って考えるのを止めたんですよね。自分の頭の仲のイメージを映像に押し付けて合わせる作業じゃなくて、この場所とこの天気とこの時間とこの人たちで、やれることをやろうって」
直井「半分ドキュメンタリーに近いじゃないですか」
松居「結構「アドリブなんですか?」って言われるんですけど、割りと皆ちゃんと台本通りなんですよ。ただ、文子役の子(三浦透子)以外は役者じゃないんで、きっちりした台詞じゃないところがリアルに見えるのはあるかも知れないですね。」
——喧嘩のシーンなんて、凄く印象的でした
松居「あ、そうそう……名古屋で撮ってるシーンが1カットだけあるんですよ。神戸で撮るはずだったんですが、その喧嘩のシーンが時間掛かっちゃって撮れなくて。移動して撮影しながら名古屋に着いて、シネマスコーレを出て左、左に行った場所で撮りました。返さなきゃいけない物もあったので、(地方パート最終日の)8月12日ギリギリでした。時間にして、1時間くらいで(笑)」
——その後は、もう東京パートなんですね
松居「ライブのシーンは、クリープハイプのツアーファイナルで撮ったので、大変でした」
——撮影の事は、お客様に事前連絡がなかったとか?
松居「ライブ終わった後に、ネットがちょっと皆……「何だ、あれは?」と、主に否定の方の意見が溢れて(場内笑)……24時に「あれは映画だったんですよ」と配信したんですよ。でも全然収まらなくて(場内爆笑)」
直井「そうでしたねえ」
松居「『私たちのハァハァ』なんて、絶対観ないわ!」と、本来なら絶対観に来てくれる層から言われ(笑)」
直井「劇中の文子の台詞にしか聞こえないんだけど(笑)。編集も結構変わったよね。一番大きいのは、“怒られるシーン”は一回無くなってたんですよね」
——あそこ、無かったんですか?
松居「あんなに頑張ってるのに、怒られるじゃないですか」
直井「完全に、松居監督が女の子に感情移入しすぎなんだよね(場内爆笑)」
松居「夕張で観た時に思ったんですよ、映画観てこんな嫌な思いをしたくないと。切ってみたら、スッキリしたなと思って(笑)」
直井「でも「怒られたほうがよくない?」って説得したんですよ。生々しい感じも出てるシーンだったので」
——松居さんの凄いところって、そこなんですよ。女子高生の気持ちが分かるんですね
松居「いや、僕全くわかんないんですよ。「こう言う感じでやるんだけど、大丈夫?合ってる?」って確認しますもん。喧嘩のシーンでも、「この会話で取っ組み合いになる?」って聞いて(笑)。「喧嘩のきっかけは色々ありますけど、最終的には“ブス”の言い合いっすね」って言われて、なるほど!と(場内爆笑)」
直井「そこが松居くんの強みなんですよね。大森靖子と作った時(『ワンダフルワールドエンド』)もそうだったもんね。大森さんに、色々聞いて」
松居「僕のイメージなんて無いから、聞くしかねえと思って(一同笑)。女子を描く時は、いつもそうですね。男の時は明確な答えがあって「ここに来い!」みたいな感じで追い込んだりするんですけど、女子はもう分からなすぎて」
——いやいや、4人の女子が映画に乗ってきてるのを感じます。そこは松居監督の上手さですよね
直井「及び、スタッフのチームワークが。カメラマンの塩谷(大樹)くんは、本当に凄いと思います」
松居「撮りながらも、スタッフも成長してるんですよ」
——成長物語ですからね(笑)
松居「役者の4人はもちろんなんですが、裏側を見てる皆も、段々とチームワークよくなってきて」
——カメラは、彼女に渡して撮ってるパートと、カメラマンのパートがありますね
松居「北九州では手持ち中心で、神戸以降ではこっち側のカメラ中心でって言うのは決めてて、その途中は両方撮って編集でバランスを整える作戦を立ててました。4人がいつから芝居を始めていつ芝居を止めたか分からないドキュメンタリーっぽい感じにしたら、4人も入り込めるし、観てる人も4人を撮ってる“5人目”みたいな気持ちになってくれるんじゃないかと」
直井「キャストは、本当に良かったですよね。この4人は、奇跡的に揃った4人で」
——オーディションなんですか?
直井「オーディションは、実は真山 朔(チエ 役)しかしてないんです」
松居「最初に文子を女優に決めようと思って、三浦さん入れて。ずっと面白いと思ってた、大関れいかを誘って。そうしたら、「受験あるんで無理です」って言われたんで、8月末に撮影するはずが8月頭になったんです」
直井「大変だったよね(笑)」
松居「残り2人をオーディションで決めようってなったんですけど、女優さんとかモデルさんが一杯来るんですよね。光に当たってる人ばっかり来て「困るなあ」って思って(場内笑)。「光に向かってく話なんだから」って思って。そしたら、ボソボソ喋って俯いた真山 朔が来て……「キターーーーー」って思いました(場内爆笑)。「チエが和歌山から来た!」って(笑)。で、「ミュージシャン呼びたいな」と思って、二晩かけてネットで現役高校生ミュージシャンを探して、井上(苑子:一ノ瀬 役)さんを見付けたんです」
——じゃあ、計画的4人ではないんですね。みんなすごくピッタリでした!最後に、松居監督、一言お願いします
松居「クリープハイプのバンド目掛けて東京に向かう映画なんですが、そんなにクリープハイプを知らなくても大丈夫で……自分の中で大好きなものが何かあったら、きっと共感できると思います。観に来たファンの方の声を聞いて僕はこの映画を作ったので、またそれを色んな人が書いて伝えたりしてもらったら本当の意味での『私たちのハァハァ』になると思ってます。是非、宜しくお願いします」

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一ノ瀬、さっつん、チエ、文子……4人の“ハァハァ”がボルテージに達した時、更なる“ハァハァ”が、確かに聴こえてくる。
それは、自分自身の呼吸音の反芻なのかも知れないし、観客席全体から発する感情移入の顕現かも知れない。松居監督が込めたメッセージかも知れないし、松居組スタッフの魂の具現化なのかも知れない。――音の正体は、是非とも自らの耳で、肌で、五感で、確かめてほしい。
そして、この俳優だからこそ、このチームだからこそ、銀幕に写った――写ってしまった、“今と言う瞬間”を、“掛け替えのない場所”を、感じてほしい。
そんな“特別な時空間”に、観る者をも引きずり込む……『私たちのハァハァ』は、残酷な夢へのパスポートであり、甘くて酸っぱい劇薬である。

『私たちのハァハァ』は、9月12日(土)よりテアトル新宿・シネマスコーレ他にて全国公開が走りだす。

取材:高橋アツシ

『私たちのハァハァ』公式サイト
シネマスコーレ公式サイト

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