観て、考えて、また観て『正しく生きる』鑑賞記
――観て、考えて、また観て―― 『正しく生きる』鑑賞記
2015年6月6日、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)のレイトショーは多くの映画ファンが詰め掛けた。京都造形芸術大学 映画学科が世に問う映画製作プロジェクト【北白川派映画芸術運動】最新作『正しく生きる』が公開初日を迎え、(左より)福岡芳穂監督、出演者の浜島正法、青山理紗の三名が舞台挨拶に立ったからだ。
『正しく生きる』Story:
高名な芸術家であり、美術大学で教鞭を執る柳田(岸部一徳)。彼は大きな災害による原発事故以降、自身の最後の作品として、放射性物質を使ったオブジェの制作を始める。だが、その身体には同時に死の影も忍び寄っていた。柳田に自分の作ったオブジェを粉々に破壊された美大生の桜(水本佳奈子)は、その日から執拗に柳田を追い始める。
街の弁当屋で働くいつか(青山理紗)。大きな災害に遭った彼女は、それを利用して別の街で別の人間になるため、家と夫を捨て幼い娘の遥(早川紗月)を連れて逃げてきた。いつかのやり場のない鬱屈は、徐々に娘への暴力へと形を変えていく。
圭(宮里紀一郎)は、漫才師になる夢を持つ朝雄(浜島正法)、優樹(上川周作)とともに少年院を脱走し、震災で行方不明になった姉の行方を探し始める。
朝雄は、恋人・未夢(杉本瑞季)の妊娠を知り、子供の誕生を心待ちにしていた。しかし、未夢から流産したことを告げられ、衝動的に刃物を突きつける。
桜は、柳田の自宅前で朝雄が持っているガイガーカウンターが激しく反応する場面に遭遇する。疑念を抱いた桜は柳田を訪ね理由を問い正すが、無言で立ち去られてしまう。残された桜に向かって、柳田の友人・白石(柄本明)は、ある意外な事実を告げるのであった……。
福岡芳穂監督「【北白川派プロジェクト】とは、京都造形芸術大学 映画学科が毎年1本我々教員らのプロと学生が一緒になって劇場公開作品を作るプロジェクトです。出来上がった後は、配給・宣伝も学生と一緒にやって行きます。企画段階から2年、3年のプロジェクトです。一本目が原田芳雄さん、松坂慶子さんの『黄金花 ―秘すれば花、死すれば蝶―』(2009年/監督:木村威夫)。2本目が松田美由紀さんの『MADE IN JAPAN ~こらッ!~』(2010年/監督:高橋伴明)。3本目が高橋惠子さんが主演していただいた『カミハテ商店』(2012年/監督:山本起也)。4本目が稲垣足穂原作の『彌勒 MIROKU』(2013年/監督:林 海象)。『正しく生きる』が5本目になります。大学が京都市左京区の北白川にありますので、【北白川派映画芸術運動】と言うネーミングになっています」
――脚本も監督が手掛けられたんですか?(平野勇治/名古屋シネマテーク支配人:司会進行)
福岡「最終的には、私、高橋伴明、北白川派と、3つの連名にしています。と言うのは、この企画の基になったモチーフを幾つか集まってくれた学生に提示して、そこからどう作り上げていこうかと学生と話し合ったんです。そうすると学生がそれぞれに色んなリサーチを始めて……例えば、柳田教授(岸部一徳)の世界をリサーチした学生が、シナリオを一部書いてくれたり。また、彼女(青山理沙さん)の演った役の社会的背景をリサーチした学生たちがいたり……彼らは自主的にチームに分かれて、それぞれのシチュエーション、或るシーケンスをシナリオのように書いてくるんです。それを僕が集めて形にして、また学生に投げて、みたいなことの繰り返しだったんです。ある程度シナリオが出来た段階で学生とキャスティングについて話し合って、演りたい学生に集まってもらいエチュードをやってもらったんです。色々な役を代わる代わる演ってもらいました」
――出演されたお二人は、シナリオを読んだ段階でどの役を演りたいって言う希望はあったんですか?
浜島正法「僕は唯一卒業生だったんです、他の子たちは在学生なんですが……凄く肩身の狭い中やってたんですけど(笑)。学生時代に出てた作品で漫才師の役を演ったことがあって、自分は朝雄の役かなと思ってました……前の役もやっぱりツッコミでしたし」
――その過去作は、監督も御覧になってたんですか?
福岡「はい。ただ、そのことだけで乗っかって来られるのは嫌だったので(笑)。彼が在学中に色々出てるのを観てましたんで、彼の演技者としての可能性をこの映画に吸収したいと言うのはありました」
――青山さんは如何ですか?
青山理紗「私もホンを読んで、“いつか”が演りたいと思ってました。色んな役をエチュードで演ってましたけど、それは変わらずでしたね。脚本は決定稿じゃなく改訂の段階だったんですけど、やっぱりいつかが演りたいなと思ってました。だから、決まった時は嬉しかったです。何か通じるものを感じたんですよね……インスピレーションと言ってしまうと、それで終わってしまうんですが……福岡監督が大好きなのもあるんですけど、この作品に絶対出たい、“いつか”で出たいって言う強い思いはありました」
――ご自分の演じた役に関しては、どう思われましたか?
浜島「自分とは真逆と言うか……あんなに感情の起伏が激しい、そもそもあんなに人を殴ったことはないので(笑)。だからこそ、語弊があるかも知れないんですけど、楽しませてもらってたかなと言うのは凄くあります。「面白かった」「つまらなかった」では中々終われない作品だと思うんです。そう言う意味では、色々考えながら演ってた感じですかね。尖った作品、人を選ぶ賛否両論の作品ではあると思ったんですけど、だからこそ面白いな、映像になったらどうなるんだろうなと凄く楽しみに公開を待ってました」
青山「私は、脚本を読んで混乱しました。登場人物も多いですし。でも、やっぱり考えさせられるって言う所は大きくて、押し付けが無かったんですよ、文章の段階から。“これが正しい”“これが正しくない”とかそう言うことではなく、読んで、考えて、また読んで……そう言う印象を持ちました。映画を観ていただくのも同じことだと思うんです」
柳田(岸部一徳)を付け狙う桜(水本佳奈子)
死を顧みない柳田
逃亡中でありながら夢を抱く優樹(上川周作)
暴力を元カノ未夢(杉本瑞季)にぶつける朝雄
娘を虐待するいつか
震災以来連絡が取れない姉に電話を掛け続ける圭(宮里紀一郎)
『正しく生きる』のタイトルとは裏腹に、登場人物たちは常軌を逸した生き方ばかりを選ぶ。
その生き様に至った“過去の断片”が物語に散りばめられおり、観る者は徐々に彼らの想いを汲み取ろうと考える。
『正しく生きる』は、“考える映画”なのだ。
福岡「『正しく生きる』って謳ってる以上そこに何か作品なりの正解、結論と言うものを示した方がいいのでは?とよく言われるんですが、“正しさ”と言うのは迷いながらずっと探し続けていくものでしょうし、この時点で結論は出ないと思いました……お客様の中で考えていただければ嬉しいな、と言うことで。それぞれに恐らく『正しく生きる』って何だ?と言うのがあると思うんですが、それを映画の中で出すのは止めようと思いました」
“正しい”とは?“生きる”とは?
思考を喚起する108分の群像劇、どうか体験してほしい。
取材 高橋アツシ