オマージュがもたらす 平和賞『騒音』関根 勤監督がやってきた
2015年6月6日よりシネマート新宿(新宿区新宿)公開の映画『騒音』(2015年/103分)が、大阪(シネマート心斎橋)・名古屋(センチュリーシネマ)の公開初日を迎え、この作品が初監督作品となった関根勤監督は精力的に舞台挨拶に立った。
「今日この映画館に足を運ぶことに関して皆さんはきっと、「消化の良い物を食べようか」とか、「頭を起こすのに、5時間前に起きよう」とか、「クーラー効いてるかも知れないから、上っ張りを一枚持っていこう」とか、「1時間前にコーヒーを飲むとおしっこが我慢できないから、ちょっと水分控えよう」とか、それぞれ色んな工夫をして気を遣っていただいたことを想像すると、親戚よりも大切にしたいと思います」
センチュリーシネマ(名古屋市中区)に登壇した関根監督独特の“セキネ節”に、観客席を埋めた映画ファンは爆笑しつつ惜しみない拍手を送った。
『騒音』Story:
かつて宿場町として栄えたこの街は、大規模な再開発により新たな進化を遂げようとしていた。しかしある夜を境に、平和な街は恐怖に包まれた!区内各所の監視カメラの映像に映っていたのは、手当たり次第に人間を襲い、様々な物を破壊してまわる正体不明の怪物の姿だった。
政府はすぐさま対策本部を設置し情報収集を開始、ほどなくこの未確認生物の正体が「地底人」である事を突き止めた。闇に紛れ、人間の抵抗力を奪う有毒ガスを吐きながら二足歩行で人々を襲う地底人。街はパニックに陥るが、調査を進めていくうち地底人が出没するのは「S区」のみである事が判明。
政府は事態の収拾をS区に押し付け、全国民に対しては「S区以外は安全である」と宣言した。
S区は見捨てられた……誰も思い、その運命を受け入れるしかないと諦めかけていたその時、一筋の希望の光が……。
地底人に襲われた者の中に、地底人が吐く有毒ガスに耐えられた人間がいたのである!S区長は彼らを集めて戦闘部隊を編成、地底人と徹底抗戦する事を決めた。しかし有毒ガスに耐えられる者たちはなぜか皆、普段家庭や職場で虐げられてきたダサくてしょぼいオヤジたち……。戦闘経験はおろか、闘争本能すら欠如した彼らは、想像を絶する猛訓練で鍛え上げられ、短期間で地底人との戦いに投入された。
愛する家族、愛するS区を守るため選ばれた五人の男たち!果たして彼らはS区の救世主となれるのか?地底人と最低人たちの戦いが今、始まる!
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舞台挨拶に先駆けて行われた合同インタビューでも、関根監督は見事な“セキネ節”を炸裂させつつ『騒音』の秘話をレクチャーしてくれた。
――映画大好きな関根監督ですが、“映画監督”を意識したのは何かきっかけがあったんですか?
「30年来の友人の舘川(範雄:『騒音』脚本・演出補)氏はラジオとか舞台の作家なんですが、僕がインタビューで「映画撮りたいですね」って軽く言ってたのを聞いて、企画を作って色んな所に持っていってくれて、チャンネルNECOのプロデューサーが「面白いですね」と言ってくれたんですよ。僕が1年間映画の勉強をして、それをテレビ番組にする……最終的に映画を撮ると言う企画にしたんですね。僕は最初、テレビ番組のオファーだったから受けたんですよ……映画は撮れないと思ったんです、そんな甘いもんじゃないから。“やっぱり映画撮れませんでした”ってオチが来ると思ってたんですね。
それで毎週、飯尾(和樹:ずん)くんと一緒に勉強してたんですけど、好きなこと言ってたんですよ。出演料を抑えるのに、「仲代達矢さんは、日本を代表する名優……80歳を過ぎた今、そんなに物欲は無くなってるはずだ。熱い熱意で違う世界から、お笑い界から入ってきた人間に対して、大変理解を示してくれるはずだ」「仲代さんが決まれば、その後の交渉が楽になる……香川照之さんに電話して「は?どう言うことでしょうか?」と言われても、「実は、仲代さんはこのギャラで出られるんですが……」と言えるし、仲代さんにお願いして直接香川さんを説得してもらってもいい」そんな妄想ばっかり言ってたんですよ……僕は、(映画なんて)出来ないと思ってたから(笑)!ところが世の中は進んでまして……凄いですね、デジタル化が……もう、一眼レフで撮れるんですね!
編集も、製作のスタジオブルーのパソコンで出来る。これで、低予算が成り立ったんですね……僕、10年前なら撮れなかったですよね。そして、舘川氏が僕がベラベラ喋ってたことをメモってて、1年の間に脚本を作ってくれた。プロデューサーの平体(雄二)さんはスタジオブルーで映画も撮ってますので、優秀なスタッフが一杯いる。僕は「あれ、これ……映画撮るのか!?ヤバいぞ」ってことになったんですが……製作費がなかったんですよ。「ああ、やっぱりそんなに甘くないんだ」と高を括ってたら、うちの浅井社長が「僕が出す!欽ちゃんの時も出したから!」……そこで僕、良い意味で八方塞りです(笑)。自分の妄想が具体化して映像として残っていくのは、まあ楽しかったですね……撮るまではプレッシャーだったんですが。2月に尿路結石になったんですが、あれは映画のプレッシャーです……1年遅れで来ましたね」
――関根監督は主演の温水(洋一)さん、村松(利史)さん、酒井(敏也)さんが前々から大好きだそうですが、どの辺りがお好きなんですか?
「やっぱり、あの佇まいと、演技力ですよね。三人とも劇団の出身で、叩き上げなんですよ。あの三人をなぜ主演にしたかとよく訊かれるんですが、結局あの三人がたっぷり出てくる映画を観たかったからなんですよね。いつも映画やドラマを観ていて三人のどなたかが出てくると、心が躍る訳ですよ。ところが、すぐ居なくなっちゃうんですよ。僕自身が観たいって言うのが、どこかにあったんでしょうね。三人の共演は、初めてなんですよ。途中で気付いて話してみたら、村松さんは「こんなの普通3人呼びませんよー(モノマネ)!」って(笑)。昔、酒井さんがあるプロデューサーに温水さんと一緒にやりたいって言ってみたら、「画面が散らばるから、落ち着かなくなるからダメです。一人しか出れません」って言われたそうです。三人集めた初共演ってところが、『騒音』の一押しなんです。キャラが被るからって出演辞退もあり得ると思ってたんですが、三人とも快諾していただいて、非常にそれが満足してる部分です」
――『騒音』のストーリーは映画の話が出る前からあったそうですが、そのイメージはどこから?
「先ず三人がキャストに浮かんで、あの三人が脚光を浴びるSFってなんだろうな、と。SFって言うと、一番お金が掛からないのは地底人。じゃあ、なぜ地底人が出てくるのか……って考えたんです。日ごろ職場や家庭で虐げられてる人って、チヤホヤされてる人よりも“耐性ホルモン”があるような気がしたんですよ(笑)。そう言う屁理屈をちょっと付けたいな、と。要するに、劣悪な環境の中で頑張ってる人でも、文句言わずにやってれば必ず良い事があるって言うことを描きたかったんですけれど……そんなに良い事も起きなかったですね、この映画では(笑)」
――地底人の造形は、どうやって作られたんですか?
「新谷(尚之:特殊美術)さんと言う特撮を撮る、しかも安く出来る監督と『映画ちゃん』(前述のテレビ番組)で知り合いまして、お願いしました。お面は真ん丸なので顔の形に切ることも考えたんですが、新谷さんが「闇夜に浮かぶから、面積が広い方が恐い」って言うんですよ。なるほど、さすがだな、と。ペイントも考えたんですが、これも白の方が恐いと言う専門家の意見を取り入れました」
――“映画愛”溢れるオマージュがたくさん出てきますが、一番観てほしいオマージュを、そして泣く泣く諦めたオマージュがあれば教えてください(記者質問)
「先ず入れたかった(が諦めた)のは、インド映画みたいに大群衆で踊るシーンです。撮影期間が無かったもんですから(笑)。予算もそうですが、準備期間に一ヶ月くらい掛かるって言われて。それで、“例の歌”の方にシフトした訳ですね(笑)。あと、皆さん気付かないんですけど……死人がいないんですよ。残虐なシーンが無いんですね、ほとんど。これは、ディズニー映画のオマージュです(場内爆笑)」
関根監督は、センチュリーシネマの舞台挨拶で、こんな話もした。
「大阪で、「アカデミー賞を受賞したら、どんな挨拶をしますか?」って質問があったんですが……うちの専務が『騒音』の公開記念パーティの時、言ったんです「この映画は、アカデミー賞だのそんなものは狙ってませんよ。ノーベル平和賞を狙ってる!」(場内爆笑)って。あらゆる国の言葉で字幕を入れて、全世界に送るんですよ。そして、世界の平和が……戦争が終わるんですよ。そしたら僕もらえますよね、ノーベル平和賞(場内笑)!そうしたら、ノーベル賞の賞金で、『騒音2』を作る構想があります(場内拍手)」
あなたも『騒音』を観て、世界平和に貢献してみないか?
取材 高橋アツシ
『騒音』
配給:スールキートス(c)2015騒音組合 公式サイト http://souon-movie.com/
6月6日よりセンチュリーシネマ、ほかにて公開中