現実と幻想を捻じ曲げる達人・アリ・フォルマン監督『コングレス未来学会議』鑑賞レビュー
1995年アカデミー賞作品賞を獲得した『フォレスト・ガンプ/一期一会』で、一流女優の仲間入りをしたロビン・ライト。
この映画は、彼女の哀愁を帯びた表情と、空虚な瞳からすーっと流れる涙からスタートする。
「君こそが未来だった、しかし状況が変わったんだ」と、ふてぶてしさ満点の男が話を続ける。
彼女の役どころは、ロビン・ライトの名で、再起を図りたいハリウッドの元スター女優。
「多くの問題を抱える女優はうんざりだ、君のスキャンを希望する。すべてをサンプリングして、ロビンというキャラクターを作りあげるのだ」
既にキアヌ・リーブスがこの契約をしていて、契約を交わすと、今後一切、演技をすることが出来なくなってしまう。
しかし彼女は、このオファーを承諾しなければならない理由を抱えているのだ。
今の世の中、代用品で溢れ返っている。
仮想世界では刃を向けるほど自己主張を演出して、現実では仮面を被って人との衝突を避ける。
低カロリーのチョコレートっぽいもので脳を騙しては、ひたすらダイエットに明け暮れる。
仕事や失恋で気分が沈めば、抗うつ剤が心を落ち着かせてくれる。
私たちに夢や希望を与えてくれる映画の世界も、エクスペンタブル(消耗品)で作られている。
あなたが心を打たれ、明日への活力を見出したあの名シーンも、撮影の時、役者はカメラの前にいなかったとしたら??
自分の好きなものに合わせて、どんな人生を演じるか決めることが出来る、そんな理想の未来が実現するかもしれない。
『コングレス未来学会議』は、そんなハリウッドへのアンチテーゼを歌う、アリ・フォルマン監督からの極上の愛の物語である。
先日のアリ・フォルマン監督の来日取材に合わせて、先行試写をみてきました。
(こちらもチェック→『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督最新作・『コングレス未来学会議』来日トークショー)
アリ・フォルマン監督といえば、レバノン戦争で失ってしまった自身の記憶を探すドキュメンタリーアニメーション『戦場でワルツを』で、アカデミー賞にノミネート!その名をご存じの方も多いのでは??
心が壊れるほどの戦争体験は、忘れることで自分を守ろうとする。世の中には銃を持たないだけで、言葉や態度、無関心という名の、たくさんの戦争が存在することを教えてくれる作品だ。
そんなアリ・フォルマン監督、軍役が終了してから、念願の世界周遊旅行に旅立ちました。ところが途中で、自分は旅を続けるのは向いていないと気付かれて、小さなゲストハウスに長期滞在しながら、世界各国を旅しているようなお手紙を友人に送り続けたそうです。
この経験が、私たちを引き込み、飽きさせない、映画作りへのエッセンスとなっているように思います。観客の想像を見事に裏切るクリエイションは、本当に贅沢な体験です。
どんな世界で生きていようと、絶対に会いたい人がいる、それが生きていく上で、とても大切な原動力になる
円滑な効率重視だけでは、愛される作品は生まれない
AIがどんなに発達しようとも、私たち人間にしか出来ないことがきっとある
だって、私たちは、いつも自分の想像を大きく超えて成長していく生き物だから
予測可能な世の中ではきっと、今の世界は描けなかったと信じたい
そして、この作品に出会うこともなかったのだ
本当の姿を見失ってしまう前に
文:押尾キャロル
【STORY】
世界がどんなに変わっても、揺るがない愛
2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。スクリーンでは若いままのロビンのデータが、出演を拒んできたアクション映画のヒロインを演じ続けた――そして20年後、文明はさらなる進歩を加速させていた。ロビンはある決意を胸に、驚愕のパラダイスと化したハリウッドに再び乗り込む。
『コングレス未来学会議』
監督・脚本:アリ・フォルマン
出演:ロビン・ライト ハーヴェイ・カイテル ジョン・ハム、ポール・ジアマッティ
字幕監修:柳下毅一郎
配給・宣伝:東風+gnome
(c)2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP
2015年6月20日(土)から、新宿 シネマカリテほか全国順次公開!
特製ステッカーシート付、前売り特典も要チェック♪
http://www.thecongress-movie.jp/