伝えたい想い、銀幕に映る『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』鑑賞記
伝えたい想い、銀幕に映る ――『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』鑑賞記――
2015年2月1日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)は通りを埋め尽くすほどの観客が黒山を成していた。
同館にて1月24日から封切られている『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』だが、公開初日の山田火砂子監督に続いてこの日は主演の内藤剛志さんの舞台挨拶が執り行われたのである。
「僕の母は甚目寺町(現:愛知県あま市)の出身で、84歳になります。父は名古屋に転勤してきて母と知り合って結婚したんです。そんな両親から生まれた僕は、今年で還暦になりました。山田火砂子監督が83歳で一つ下……監督も両親も戦時中に青春を過ごし、父は戦争に行ってるんですね。そう言う世代から生まれる子どもとしては、僕くらいが最後の世代だと思うんです――実際に戦争の匂いをちょっと感じることができると言う――。なので、僕はこのお話を監督から頂いた時「是非に」とお受けしました。戦争の話って本当に難しくて、例えば百人に聞いたら百通りの言い方になると思うんです。“戦争反対”は当たり前ですが、なかなか伝え難い。僕らが、たくさんのストーリー、たくさんのドラマを作り続けることは、戦争について考えることになるんじゃないかと思います。この映画も、そんな一つの考え方だと思ってもらえれば嬉しいです」
上映前、壇上に立った内藤さんは、こう切り出した。
『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』は、中国残留孤児の肉親探しに尽力し「中国残留孤児の父」と呼ばれた実在の人物・山本慈昭の波乱万丈の人生を映画化した作品である。
『山本慈昭 望郷の鐘 満蒙開拓団の落日』Story:
山本慈昭は長野県下伊那郡会地村にある長岳寺の住職であり、国民学校(現在の小学校)の先生でもあった。
昭和二十年五月一日、敗戦間近に三つの村の村長に説得され、一年だけと言う約束で満州へ渡る。 八月九日に、日ソ不可侵条約を破ってソ連軍が一方的に攻めてくる。八月十五日の敗戦もわからずに逃げ廻るが、女子供を抱えてシベリア国境近くの北哈嗎の町より逃げても、なかなか先に進まない。
列車もなく、橋は関東軍が逃げる時に壊して行き、平原を歩くとロシア兵に捕まるので山の中を歩き、食料もなく死の旅であった。
「かなりヘビーな内容ではあるんですが、監督が撮ってる最中によく「私はね、映画って言うのは楽しくなければいけないと思うの」って仰ってたんですね。これから観ていただくお客様に「お楽しみください」という言い方にはなりませんけど、2時間弱の時間が特別のものであればいいと僕は思っています。演じてる時も、そう言う思いでやっておりました。皆さんに、楽しんでもらおう、と。楽しむと言うのは、決して笑ったりすることだけじゃないですよね。心を動かすことを楽しむと申し上げているので、皆さんの心が少しでも動いてくれることが、僕を含めたキャストが一番願うことです。映画と言うのはエンドマークが出てから、そこから始まる物だと思うんです。『望郷の鐘』が皆さんの心の中で育っていくと、本当に嬉しく思います。感動って言うのは“感じて動く”ことだと思いますので、この映画を御覧になったことが何かの切っ掛けになれば嬉しいです」
――ヒサコさん(山田火砂子監督)とは初日にお会いしましたが、本当にパワフルな方でした。撮影現場では如何でしたか?(シネマスコーレスタッフ・立松智香氏)
「映画のスタッフ・キャストは何を見てるかって言うと、監督を見てるんですよね。監督がどんな表情でいるか……全員が監督を意識してます。監督のパワーみたいなものは作品に伝わるから、山田監督の「戦争を伝えたい」と言う想いが『望郷の鐘』では直接的に伝わってくると思うんですよね。撮影は長野の阿智村でやらせてもらったんですけど、村の方々が協力していただいて……映画って、気持ちが写るんですよね」
――最後に、これから映画を御覧になるお客様に一言お願いします
「この映画で僕、そしてスタッフがやりたかったことは二つあると思ってます。一つは――短く言いますね――“戦争反対”です。もう一つは――ちょっと矛盾しますが――“戦争状態であっても、人間は負けない”ってことです。人の命は戦争で奪えるけれど、気持ちまでは絶対に奪えないってことです。この作品が切っ掛けになれば……別に、世界平和だけじゃなくて……何かの切っ掛けになれば、本当に嬉しく思います。僕たちはカメラの向こう側でお芝居をしていて、こうして実際に観ていただく方と近い距離でお会いできる機会は少ないので、今日は本当に僕にとっても嬉しい日になりました。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
「“今”伝えなければならない」と言う、山田監督の“想い”が――
その想いに応えたいと願う、スタッフ・キャストの“気持ち”が――
『望郷の鐘』撮影に協力したいと思う、阿智の人々の“情熱”が――
カメラを、映写機を通し、102分の“激情”となって、スクリーンに映し出される。
私たち観る者が心を動かされるのは、銃弾では、爆弾では決して奪うことのできない“人間の尊厳”を銀幕に観ているからなのかも知れない。
取材 高橋アツシ