きみに捧げる、ファンタジー『酒井麻衣監督特集』鑑賞記
きみに捧げる、ファンタジー ――『酒井麻衣監督特集』鑑賞記――
2015年1月10日、シアターカフェ(名古屋市 中区 大須)の上映スペースは、満席の観客でごったがえしていた。
名古屋を舞台にしたショートストーリーのコンテストを行い受賞作品を映像化する事業「ショートストーリーなごや」の第7回受賞作『笑門来福(しょうもんらいふく)』(原作:いとう菜のは)短編映画化の監督に選ばれたことを記念し、『酒井麻衣監督特集』が組まれたのだ。
酒井監督は、長野県出身。京都造形芸術大学在学中に『彌勒』(2013年/87分)助監督など林 海象監督に映画を学んだ新進気鋭の23歳である。今回の『酒井麻衣監督特集』ではA・Bプログラムで長短編3本の作品を観られるとあって、映画ファンの耳目を集めていた。その上1月10日~12日までは酒井監督自身が舞台挨拶に登壇するのだから、盛況でないはずがない。
今回、舞台挨拶とは別に監督ご自身の口から作品のお話を伺うことが出来たので、作品解説と併せてご紹介したく思う。
Aプログラム
『棒つきキャンディー』(2012年/28分)
監督・脚本・編集:酒井麻衣 出演:小幡咲月、渡邉公喜、仲野安紗
Story :少女漫画で成功している千歳は、担当者に少女漫画の原稿を預ける。担当者は手直しを提案するが、千歳は納得しない。千歳がこの物語にこだわる理由とは?現実と漫画の世界が融合する青春ファンタジー。c酒井麻衣
酒井監督「失恋した二人が大人になって出会う話なんですが……運命だったら失恋しても出会えるんじゃないかと言う希望を残すための映画です。……高校2年生の時失恋をした、私自身のための(笑)。
普通の回想だと短編映画として面白くないので、“昔こう言うことがあったんだ”と言うシーンは漫画として描いてます。大人になった二人が漫画を通して「あの時どう思ってたの?」って話をしてる物語です」
『神隠しのキャラメル』(2013年/35分)
監督・脚本・編集:酒井麻衣 出演:松本大地、杉原 凛、平田千華
Story :主人公の海は家庭の事情で、妹を一人で面倒みている。そんなある日、妹が神隠しにあってしまう!海は、親友と一緒に咲を探しに出掛ける。辿り着いた先は、売れっ子 子役が支配する「こどものくに」だった…。これは、子どもは普通に見れて、大人は痛い?ダークファンタジー映画。永瀬正敏さん友情出演作!
酒井監督「私は中学1年生から3年生まで部活と勉強と友達を取って、妹を構ってあげられなかったんです。妹は6歳下なんですけど、私が中3で受験が終わって落ち着いた頃には「あれ、こんな子だったっけ?」って感じで……気付いたら大きくなってたんですよ。妹にずっと「遊ぼう、遊ぼう」って言われてたのに邪険にしてた“空白の3年間”を後悔して……妹に向けての懺悔の映画ですかね、『神隠しのキャラメル』は(笑)。
永瀬正敏さんは、私が助監督をしてた林海象監督の『彌勒』の現場で永瀬さんが「麻衣ちゃん、映画監督になりたいの?だったら、映画に出るよ」って仰ったのを間に受けて、脚本持っていったら決まっちゃったって言う(笑)。しかも友情出演で、ノーギャラで。もちろん東京から京都に来ていただくので交通費とホテル代はお渡ししたんですが、後日返ってきたんです……「麻衣ちゃんは未来の映画人なんだから、このお金は今映画の為に使ってください」って!」
記者「『棒つきキャンディー』に、『神隠しのキャラメル』……タイトルにお菓子が出てきますね?」
酒井監督「お菓子は、子どもの象徴なんです。って言うか、お菓子に魅力を感じなくなってしまったら、その人はもう大人なんです。お菓子と言っても、おせんべいやポテトチップス、アルフォートなんかではなく、駄菓子ですね。グミとかラムネとか……どう考えても着色料たくさん入ってるし、食べてもお腹の足しにも栄養にもならないお菓子を、子どもの頃にワクワクして大事に大事に食べてたじゃないですか?そんな、子どもの気持ちの象徴だったりします」
Bプログラム
『金の鍵』(2014年/61分)
監督:酒井麻衣 脚本:堀 千夏 出演:水本佳奈子、黒田将史、泉 翔竜
Story :植物学を学んでいるクロは、ある日森の中で道に迷ってしまうが、光る鈴蘭の花に導かれ、不思議な家に辿り着く。そこで不老不死の身体を持つ螢(ほたる)という少女に出会い、不思議な日々が始まるが…。グリム童話の終幕を飾る謎の物語、「金の鍵」を基としたファンタジー映画。京都造形芸術大学卒業制作作品。
酒井監督「劇中の木のオブジェが完成した時、主演の黒田くんが撮影でもないのに落ちて、しかも足を折っちゃったんですよ。学生ですし、作品自体が無くなるかも……と皆で話してたんですが、撮影自体は続行できました。ただ主演の子が居ないと撮れないので、快復を待つことになったんですが……その間に、オブジェは無くなったんです……台風が来て、流されちゃったんですよ。もう一回皆で作りました、初めから(笑)。
映画を作る時はいつもターゲットを決めてるんですが、『金の鍵』はこの映画を機に親友になった堀千夏(『金の鍵』脚本)のために撮った映画です」
話し好きな上に話し上手な酒井監督の話題は、最新作であり今回のシアターカフェ特集上映の切っ掛けになった作品『笑門来福』についても及んだ。
酒井監督「ちなみに、『笑門来福』は、いとう菜のはさんに捧げて撮った映画です!」
いとう菜のは(『笑門来福』原作)「(笑)。舞台になってる大須演芸場が閉鎖されると言う……「どこで撮ったらいいの?」ってところからスタートした話で……。そもそも、大須演芸場のオーナーさんは最初映画に貸すなんて考えてなかったんですけど、酒井監督の師匠・林海象監督の縁があって実現した話なんです。そんな訳で、違う監督だったら貸してもらえなかったかも知れないんですよ。ゆくゆくはこの映画が起爆剤となって、演芸場が再開するお手伝いにもなればいいかな、と」
酒井監督「本当に、大須演芸場の神様が「今の私を撮ってください」って言ったようにしか思えないんです」
『笑門来福』は、2月4日の『ショートストーリーなごや 第8回コンテスト事業表彰式&第7回ショートフィルム完成披露会』でプレミア上映が決定している。今回は15分版だが、今後はロングバージョンの上映も画策中と言う。いずれのバージョンも、待ち遠しくて仕方がない。
最新作『笑門来福』に、更に始動中とウワサの次回作――酒井麻衣監督作品、俄然注目しなければならない……そう思う。
ただいま公開中の特集上映を観ていただければ、必ずやこの気持ちを共有していただけるはずだ。
『酒井麻衣特集上映』は、シアターカフェで1月16日まで。どうかこの貴重な機会を、お観逃しなく!
取材 高橋アツシ
『Theater Cafe』公式サイト
『ショートストーリーなごや』公式サイト