掴んで 決めて 嗅ぎとって『FORMA』鑑賞記


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掴んで 決めて 嗅ぎとって ――『FORMA』鑑賞記――

「『FORMA』が完成したのは2013年1月頃でした。物理的に完成して「これで完成した!」と思ったんですけど、沢山の映画祭を廻ったり、色々な方に観ていただいたり…多くの方を通過することによって作品が凄く成長していってるのを実感しているところです。私に馴染みのない…知らない街でお客様に観ていただけると言うのは自分にとってこれからの映画人生の糧になると切実に思っているので、今日皆様とこのような場を共有できたことを嬉しく思ってます」

2014年10月4日、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)に登壇した坂本あゆみ監督の第一声に、『FORMA』公開初日の座席を埋めた観客は、惜しみのない拍手を送った。(画像左より、坂本あゆみ監督、梅野渚)

「この映画は色々な映画祭を廻った後ようやく東京で公開されまして、こうやって名古屋でも公開されたことを…撮影が終わってから何年か経っているんですけれども…自分のことのように心待ちにしておりました。今日はとても嬉しく思います。本当にありがとうございます」

たった今『FORMA』を観終わったばかりの客席は、坂本監督からマイクが渡った梅野 渚さんに大きな拍手を送りつつも戸惑っているようだった。スクリーンの中で梅野さんが演じた金城綾子は、壇上の梅野さん自身とは驚くほど印象が異なるのである。

坂本「私は元々照明部と言う部署を経験して今に至ります…今も、仕事として照明技師をたまにやるんですが…前田弘二監督(『婚前特急』(2011年)『わたしのハワイの歩きかた』(2014年)監督)のインディーズ時代に私が照明を担当していて、梅野さんは短編に何本も出ていまして、私は彼女の大ファンだったんです。同じ作品に携わることになった時に実際の彼女のギャップに凄く驚きまして、とても興味を持ったのが先ず切っ掛けです。この映画を撮る時、どうしても演って頂きたいと梅野さんにホン(台本)を読んでいただいたんです。1ヶ月後くらいに会った時に「綾子の役って言うのは、所謂ステレオタイプの意地悪で演ってしまうと駄目ですよね?」って仰ってくださって…それ実は綾子に対して一番危惧していたことなので、自ら感じてくださったのが本当に嬉しくて…先ず梅野さんが最初に決まったキャストだったんです」
梅野「ホンを頂いた時…ちょっと映画から自分がかなり距離を置いてて…「役者って何だろう?」「映画って何だろう?」って考えてた時期で…「何だか、別にやらなくても良いのかな」と思っていた時期だったんです。現代をリアルに切り取った映画とかが沢山増える一方で、実際に普段会う人のリアルの方がよっぽどドラマチックだと感じてたので、“映画にする意味”って言うものを凄く考えていたんですね。そんな時、まさにそんな台本をもらって…上っ面で演ってしまうと“映画にする意味”も無いし、出来たとしてもとても面白くない物になるなと言うのがあって…。でも、それを今の自分でやれるんだろうかと言う不安な気持ちで監督に会ったんですけれど、考えを凄く共有できたし、この人とだったら一緒にやれるなと言う自信が付いて…それで出演を決めました」OLYMPUS DIGITAL CAMERA

『FORMA』Story:
ある日、金城綾子(梅野 渚)は同級生だった保坂由香里(松岡恵望子)と再会する。綾子は由香里を自分の会社に誘い、由香里は綾子の会社で働くようになる。しかし、綾子は徐々に由香里に冷たくなり、奇妙な態度を取りはじめる。次第に追いつめられる由香里。
綾子には、ある思いがあった。積み重なった憎しみが、綾子の心の闇を深くする。ある思いを確認するため、綾子は由香里を呼び出す。
交錯する、それぞれの思い……。
そして憎しみの連鎖は、どのような結末を迎えようとしているのか。

坂本「この映画は、リアリティをとことんに追求したかったんです。芝居なんですけど、その場に於いてはもう芝居ではなくて、その人たちが“居る”…現実になってしまう瞬間を撮りたかったんです。その為には、役作りが重要だと言うことは本当に感じてました。梅野さんと、“綾子”が生まれた時から…また、そのお父さんとお母さんの出会いの時から…本当に細かい、実際全然関係ないだろうと思われるようなことまでも集めていったりしたんですけれど…その辺を、じゃあちょっと語っていただこうか、と…(笑)」
梅野「(笑)。本当、実際に重箱の隅をつつくような作業で(笑)…“どっちでもいい”ようなこと…例えば会社での服装が、ストッキングか?タイツか?とか…タイツも、80デニールって言う設定にしたんですけれど…」
坂本「60(デニール)ですね…」
梅野「(笑)…80か?60か?で迷って…“どっちでもいい”んですけど、細かくやっていったことが後々結構大きなことに繋がっているなと、作品が出来上がってから思いました。衣装については、先ず自分でどう言う物を着ているかって言うことを考えて、それを度々監督と会って一緒に二人で買いに行ったり探しに行ったりして、時計だったり色々な物を相談して決めました。そのことが、とても役作りに活かされてると思います」
坂本「“ドグマの十戒”って皆さんご存知だと思うんですけど…私が二十歳くらいの時にとても衝撃を受けた『セレブレーション』(トマス・ヴィンターベア監督/1998年)と言う映画がありまして、それがその“ドグマ”の第1回作品なんです。自分が漠然と抱えていた映画への疑問…映画の表現と言うのは何なんだろうと言う事を“ドグマの十戒”追及をしていて、とても感銘を受けました。真似と言えば真似なんですけど、幾つかの決まりごとをやってみようと…自分たちで「やってはいけない」と言う色々な決まりごとを作ったことにより、表現の幅が広がるんじゃないかなと言う事を追求しました。それから私が影響を受けたイラン映画も、宗教などの関係で規制が凄く厳しく…男女が愛し合ってるシーンで手と手を取れなかったり、憎しみのシーンで人を殺せなかったり…凄い制約がある中で、人間を、世界のことを奥行きを以って表現している作品が沢山ある。それは何かと考えた時、やっぱりある種の規制と言いますか…何かを求めるが故に、何かを縛ると言うか…“表現の自由”って色々言いますけど、自分たちでもっともっとそこを追求していくべきかなって言うのが凄くありました。そんな縛りの一つが、『衣装部やメイクさんを付けない』でした。(役者さん)本人に「この日にはこれを着る」って言うのを全部考えてもらったんですけど、「綾子って、こう言う服を着そう」って言うのを梅野さんは裏切ってきたんですよね。二人で買い物に行くと「あ、その服着たら“由香里”と同んなじ色になるな…」とか思いつつ…」
梅野「(笑)」
坂本「でも、実生活でOLさんが二人グレーの服を着るなんてよくあることなんで…きっと衣装部があったら、ちょっと色を変えたりするんでしょうけど…」
梅野「撮影前にロケハンに連れてっていただいたんですけれど、実際にその会社で働いてる会社員の方が「会社員ってこんな感じ」って自分が勝手に決めてたイメージと違い、「あ!こんな感じなのか!?」と(笑)。カチッとしてなくて割りとラフだったり…実際に見た人から参考にすることが多いですね。凄く拘って監督と探しに行ったベージュのコート…」
坂本「そうそう…」
梅野「ピンクベージュのダウンはあの当時凄く流行ってたんですけど、どう言う感じのベージュのダウンかって言うのを凄く拘ったのを今思い出しました(笑)。立川とか行って…」
坂本「恵比寿も…」
梅野「恵比寿は違いましたよね、ああ言うとこは1着も無かったですよね…かと言って、ユ○○ロも(綾子は)意地張って買わないタイプ…なんだけど、たまに買う、みたいなね(笑)。黒は着ないって言うけど、たまに着る、みたいな(笑)…そんな風に拘って、二人で選びに行きましたね」
坂本「はい(笑)。メークは、どうでした?」
梅野「他の現場で撮影してて、夜お風呂入った後なのに化粧されてることに凄い違和感があって…すっぴんじゃアレなんで綺麗にしてくださるのが普通なんでしょうけど…塗られたまま寝たりとか、違和感を感じてたんですよね。普通に家に居るシーンでしっかり化粧をされて髪もちゃんとされたりすることは、凄く芝居にも影響してくると思ってたんです。そんな時に坂本監督と会えて、本当に自分の理想の形で撮影が出来たと思います」
坂本「それは監督としてもとても有り難くて…やっぱり女優さんってすっぴんは殆どの方が拒否をされるので、価値観が同じ女優さんに会えたことは凄く『FORMA』にとって良かったと思っています。余りにもリアルに綾子を演じてるので、梅本さんはああ言う人なんじゃないかって思われることが結構あって。映画祭や色々な所に行っても誰にも気付かれなくて、「本当は可愛いんだね!」と言われてしまうほど、綾子はブスって言うか本当に嫌な女なんですけど…美しい女優さんをあんな美しくなく撮っちゃうと言う…(苦笑)」

監督が口にされた“ドグマの十戒”とは、デンマークの4人の映画監督(ラース・フォン・トリアー、トマス・ヴィンターベア、ソーレン・クラーク=ヤコブセン、クリスチャン・レヴリング)によって始められた映画運動『ドグマ95(Dogme95)』で提唱された“純潔の誓い”10項目を指す。
坂本監督は、“純潔の誓い”を遵守したかった訳ではない。『FORMA』のカメラは手持ちではないし、フィルム撮影でもない。また、“純潔の誓い”に『衣装部、メイクを付けない』と言う項目は無い。監督が目指したのは、『ドグマ95』やイラン映画に存在する精神性の継承なのだ。

永吉直之(劇場スタッフ:司会進行)「映像を観ていると、深い所にある感情を抑えながら行動する場面が延々と続きます。この辺り、如何でしたか?」
梅野「綾子の一番大変な部分は、誰もが心に持っているけど言葉に出来ないことを言葉に出して言うって所でした。「私だったら、思うけど相手には言わないよな」って事を言う人に自分がなるには、綾子の過去に遡るしかなくて…。綾子の台詞にも色々あって、自分で意識して真反対のことを言う場合と、言いたくなかったけどつい言っちゃった場合と、色々微妙なニュアンスをちゃんと芝居にすることは大変でしたね」
坂本「人間みんなそうだと思うんですけど…殆どの人物の台詞と感情が違うので、それを捉える為に監督として行きついたことは“カットを割らない”ことでした。彼女たちの背景には何層もの思いが成っているので、それを単純にテンポ良くカットを割りたくなかったんです。微妙な間とか、目には見えないものって絶対映画に刻まれると私は信じているので。皆さんが「長い!」と思うであろうカットの中にも実は色々な空気が流れていて、そこを私たちは提示をしないけれど観てくださる皆さんが自分たちで距離感を掴んで、決めて、嗅ぎとってくださればと思います」OLYMPUS DIGITAL CAMERA

坂本監督が言及した長回しのシーンは、目を見開いて、耳を研ぎ澄ませて、とにかく集中して観賞されるが吉である。
火口(ひぐち)2つを使いこなし慣れた手つきで夕飯を作る綾子の背中を、お互いを見つけ邂逅する由香里と田村(仁志原 了)が再び群集に戻る様を、見逃してはいけない。
まるで自身の心情のように公園の遊具で揺れる綾子と由香里の会話を、小さく小さく積み重なる利隆(光石 研)の嘆息を、聴き漏らしてはいけない。
さもないと、必ず、必ず、後悔することになる。
因みに、『FORMA』は、ほぼ全編が“長廻し”で構成されている。

梅野「この映画は、もしかしたら観るのは1回でいいやって思われる疲れる映画かも知れませんが(笑)…また思い出していただけて、機会があれば観ていただきたいと思います。今日は本当にありがとうございました」
坂本「『FORMA』は、もう一度観ても楽しめるように、色々な遊び心が詰まってます。画面の奥に実は長田(ノゾエ征爾)が通っていたり、実は自分の尊敬するキェシロフスキ監督の名前が出たり…後、これ初めて言うんですけど…殆どのシーンはカメラ1台で撮っているので、その為に繋がってないシーンがあるんですね。フレーム外に聞こえるエキストラの台詞の語尾が、実はちょっと違うんです。変えることも出来たんですけど「映画ってこう言う風になるんだ」って戒めの為に敢えて残しているので、そんな超マニアックな楽しみもあるので(笑)…2度3度と観ていただけたらと思います。今日は本当にありがとうございました」

長尺の『FORMA』本編(145分)に負けぬほどの45分を越える長い舞台挨拶を終えたお二人の背中に、観衆に埋められた客席から割れんばかりの拍手が降り注いだ。そして、『FORMA』と言う素晴らしい作品に出会えた喜びを存分に伝えようとする大勢の観客で、劇場ロビーで行われたサイン会は大混雑となった。
長編デビュー作でこれほどまでの傑作を撮りあげた坂本あゆみ監督には大変な重圧が待ち受けているだろうが、きっと軽々と撥ね返してくれるだろう。次回作が楽しみで仕方が無い。

いつまでも語りたくなる『FORMA』であるが、これ以上の繰言は反って作品の魅力を削ぐ……ネタバレに直結する恐れがあるので、自重することにする。せっかくの魅力溢れる傑作、これから観賞する方の楽しみを少しでも奪うことになっては万死に値する。
第26回東京国際映画祭2013 日本映画スプラッシュ部門 作品賞受賞
第64回ベルリン国際映画祭2014 フォーラム部門 国際映画批評家連盟賞受賞
第38回香港国際映画祭2014 ヤング・シネマ・コンペティション部門 スペシャルメンション
第19回ヴィルニウス国際映画祭(リトアニア)
ムーヴ映画祭(ベルギー)
チョンジュ国際映画祭(韓国)
サブヴァーシブ映画祭(クロアチア)
日本コネクション(ドイツ)
クリティバ国際映画祭(ブラジル)
台北映画祭(台湾)
…etc.…スクリーンを飾る10個もの月桂樹は、伊達ではない。

なので最後に、控えめに一言。
1度の観賞では受け止めきれないほどの傑作なので、なるべくなら2度3度観られるスケジュールを組むと良い。それが適わぬならば……凄まじく集中して観ることをお奨めする。

取材 高橋アツシ

『FORMA』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト

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