美しき、天然『色道四十八手 たからぶね』レビュー


takarabunemain
――美しき、天然―― 『色道四十八手 たからぶね』レビュー

約200作品のピンク映画を撮りあげた巨匠・渡辺護監督が「四十八手」「春画」と言う日本独特のエロティシズムを題材に企画した“ピンク映画五十周年記念作品”――それが、『色道四十八手 たからぶね』である。

ところが、製作準備中に渡辺監督は急逝……作品は幻のピンク映画となりかねなかった。
そんな危機を救ったのは、『色道四十八手 たからぶね』の脚本家――渡辺監督を師と仰ぐ、井川耕一郎氏であった。「井川が撮れ。映画を完成させろ」は、渡辺監督の遺志だったのだ。井川監督にとっては、これが初めて取る商業監督のメガホンである。映画美学校で教鞭を執る井川監督は、講師仲間から「レクチャー博士」と呼ばれるほどの理論派で、『色道四十八手 たからぶね』でもその演出手腕が如何なく発揮されている。

『色道四十八手 たからぶね』Story:一夫(岡田智宏)は、千春(愛田奈々)と結婚し、幸せの絶頂。ところが、千春には別の顔があった。一夫の叔父・健次(なかみつせいじ)敏子(佐々木麻由子)夫妻を巻き込み、物語は思わぬ展開に――。

千春はとんでもない悪女だが、それが堪らなく愛おしく思える――思えてしまう、心の動き……理性を凌駕し、感性をも超越する直感……“皮膚感覚”が、この作品の生命線である。視覚・聴覚は言うに及ばず、皮膚もやはり人間の感覚器であったと否が応でも再認識させられる――それは、やはりピンクならではの映画体験であろう。35mmフィルムでしか表現できない肌の色に目を奪われ、高貴と下賤の狭間で鳴り響くジンタの音色に耳を震わせ、悲劇をも笑い飛ばす人間の“業”に心を動かす。takarabune_2

『色道四十八手 たからぶね』は、まさに“ピンク映画五十周年記念作品”と名乗るに相応しい快作である。ジャンル映画ならばこその懐深さ、哀しさ、可笑しさ、潔さを存分に味わえる本作は、ピンク映画ファンはもちろんのこと、ピンク映画初心者――特に、女性にお奨めしたい。
春画から抜け出てきたような妖艶な男女(ほたる・野村貴浩)に導かれるまま作品世界を彷徨えば、映画とは桃源郷だと――夢の世界そのものだと気付くだろう。弁天様を乗せた“たからぶね”を見送り“地獄唄”を聴いたなら、現実世界へ元気に戻るも好し、夢の世界で揺蕩い続けるもまた好しである。

『色道四十八手 たからぶね』は、10月4日(土)よりユーロスペース(渋谷区 円山町)にてレイトショー上映となる。
特別上映『渡辺護 追悼 そして『たからぶね』の船出』として、渡辺護レトロスペクティブ+渡辺護自伝的ドキュメンタリーと滅多に観られないプログラムが上映されるので、ピンク映画好きに限らず全ての映画ファン必観だ。
以後、第七藝術劇場(大阪市 淀川区)、京都みなみ会館(京都市 南区)、神戸映画資料館(神戸市 長田区)と順次公開予定なので、どうか御観逃し無く。

ライター 高橋アツシ

『色道四十八手 たからぶね』
キャスト:愛田奈々/岡田智宏/佐々木麻由子/なかみつせいじ/ほたる/野村貴浩 監督・脚本:井川耕一郎
(C)PG ぴんくりんく R-18
公式サイト:http://www2u.biglobe.ne.jp/~p-g/takarabune/index.html
ユーロスペース公式サイト:http://www.eurospace.co.jp/
2014年10月4日(土)より公開

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で