彼の暴走ばい、彼女の始末 ―『ライヴ』アンコール上映!『変態団』ワールドプレミア―


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彼の暴走ばい、彼女の始末 ――『ライヴ』アンコール上映!『変態団』ワールドプレミア――

シネマスコーレ(名古屋市 中村区)では、2014年7月より『ファンタスティック・レボリューション』と題した企画が組まれ、独自セレクトでレイトショー枠に上映されている。8月からは『ファンタスティック・レボリューション vol.2』となり、『パズル』(監督:内藤瑛亮/2014年/85分)そして『ライヴ』(監督:井口昇/2014年/105分)のアンコール上映が始まった。

『ライヴ』の井口昇監督が舞台挨拶に登壇すると言う驚愕のインフォメーションが出された為、8月2日は早朝から多くの映画ファンが列を作った。しかもこの舞台挨拶、シークレット上映があると言う。シネマスコーレの公式ブログに踊る「深夜0時を過ぎる可能性大です。交通手段を確保するなどの心構えをお願いします!」なる文章は、観衆の期待値を上げるのみであった。(画像左より、井口昇監督、衣緒菜、正村正太郎、ぺろぺろ(優)、わだいつお、イガリタケユキ)

坪井篤史(司会進行:シネマスコーレ・スタッフ) 「面白いのは「『パズル』と『ライヴ』をやらせてください」ってお願いした時、電話で「ロードショー上映は、あれイベントですので」って言われたんです。皆さん、『パズル』と『ライヴ』は、今日からが名古屋初日ですので!」

この第一声に、観客席は大いに沸き立った。『パズル』も『ライヴ』も再鑑賞と言う極めて熱心な映画ファンが数多くシートを埋めており、恐らくはその全員がシネマスコーレのスクリーンで両作品を観たいと熱望していたのだ。

井口昇監督 「スコーレさんのご厚意で、『ライヴ』をスコーレさんのスクリーンで上映することができて…本当に嬉しく思います」

井口監督は、なんと『ライヴ』出演者さながらの黄色いランニングウェアで登場した。OLYMPUS DIGITAL CAMERA

井口 「『ライヴ』と言う作品は“山田悠介フェア”と言う企画で、実は『パズル』と姉妹作品なんですよ。大人が観る“ヤバい山田悠介”って映画を作ろうってことで、内藤さん(の『パズル』)が鬱々としたヤバさで、『ライヴ』はちょっと躁状態みたいな、そう言うヤバさです(場内笑)。実は、一人だけ同じ登場人物が出てて、それが佐々木心音さんなんです。『パズル』と同一人物の安田先生って言う役なんですけど、注目して欲しいのは、それを仄めかす台詞がちゃんとあるんです。今日、初めて明らかにされた事実ですが…『ライヴ』って、実は『パズル2』なんですよ(場内爆笑)」

井口監督のトークを堪能した上で鑑賞する『ライヴ』は、一味違ったものであった。

井口 「この『ライヴ』はKADOKAWAさんの映画なので、角川映画へのオマージュを実は色々と詰め込んだ映画なんですよ。いつも音楽を作ってもらってる福田(裕彦)さんも頑張ってくれました。大野いと(室田ルミ役)さんがやたら目を見開くんですけど、あれは『野獣死すべし』(1980年)で松田優作さんが「リップ・ヴァン・ウィンクルの話を知ってますか?」って言う時の眼つきを再現したくて。普通なら角川映画のオマージュって言うと、セーラー服着て「カ・イ・カ・ン」とかやると思うんですけど、さすがに松田優作さんの『野獣死すべし』の眼つきはやんないだろうと思って(場内爆笑)。そんなコアなオマージュなので、なかなか解ってくれる人がいなくて困ってます。ラストシーンも、実は薬師丸ひろ子さんの『探偵物語』(1983年)のパロディなんです。これもなかなか解ってくれる方が居ないので、言うんですけど(場内笑)」

坪井 「役者さんは、どうですか?拘りのキャスティングなのでは?」

井口 「実はこれも角川映画のオマージュで…若い役者さんの中にベテランの俳優さんも交じってるって感じの…色んな人を入れたかったんです。その中に、村杉(蝉之介)さんが居たり、亜紗美さんが居たり。ある意味『戦国自衛隊』(1979年)みたいな…バラバラなキャスティングにしたかったんですよ。千葉真一さんの横に、かまやつひろしさんと、渡瀬恒彦さんと、薬師丸ひろ子さんが居て…みたいな感じにしたかったんです。若手の役者さんは、かなりの率でオーディションです。2000人の中から選んでるんですよ。山田(裕貴)くんもオーディションで抜擢されたんです。他の役者さんがチャラい芝居になるシーンで一人だけ違ったんで、凄く目立ってました。そして、大野(いと)さんのオーディションが凄く衝撃的で…ルミの設定を改変してでも出てもらったんです(笑)」

井口昇監督にしか産み出せなかった方法論で、“原作モノ映画”なる固定観念を易々と打ち破った『ライヴ』。
未観の方は、ゆめゆめお観逃し無きよう。そして観了した方も、今回の井口監督の解説を頭に入れた上で再観すれば、新たな発見が溢れるに違いない。
『ライヴ』アンコール上映は、シネマスコーレで8月8日(金)まで連日19:55より。
名古屋に来られない映画ファンの方は、『ライヴ』DVDが9月2日に発売なので要チェックだ。

“ここだけの話”も多数飛び出し『ライヴ』の作品世界を更に反芻し大満足の観客であったが、本当に度肝を抜かれる衝撃的な話はここからが本番であった。

井口 「これからいよいよスペシャル上映をやって行きたいと思います。実はこれ、一般のお客さんにお観せするのは初めての、ワールドプレミア上映です(場内拍手)。今日の反応を見て今後も上映するのかお蔵入りにするのか決めたいと思いますので、皆さん凄い責任を負っていただきます(場内笑)。僕、今年の春から『ワクワク映画塾』と言うワークショップの講師をやってたんですよ。ワークショップと言うと漠然としたエチュードとかが多いんですけど、僕の所は役に立つことしか教えないんです。とにかく、役者さんとして目立つ、売れてほしいんです。その卒業制作として作った映画を、これからお観せいたします」

客席に、どよめきが走る。たった今『ライヴ』本編を観たばかりの観衆は、疲れも見せずに期待に胸を躍らせた。

井口 「普通ワークショップの映画って言うと、綺麗な恋愛物とか、そう言うのが多いじゃないですか。でも、そう言うのは目立たないし…あと、僕も商業作品を10年やって自分の中で抑制してることが多いんで、たまには羽目を外したい、と(場内爆笑)。尖んがった内容の物って今なかなか企画が通りにくいので、もうだったら自分で作っちゃえと思いまして」

坪井 「素晴らしいですねえ」

井口 「僕、こう見えても変態的な嗜好があるので(場内笑)、そう言う映画を作ってみようかなと思ったんですよ。題して…『変態団』(場内拍手)!!今、何故こんな映画を作るかって言うもう一つの理由は…2年くらい前から巷で「変態、変態」言うじゃないですか。「頭にパンツを被れば変態なのか?違う!」と(場内爆笑)。そんな単純じゃない変態の愛と苦悩について、映画を撮ってみようと思ったんですよ。その中には僕の今までの体験や色んな人から聞いた“ホントにあった変態あるある”を全部入れ込んでますので、それを生徒たちにやってもらいたいと。AからB、そしてC・Dと順々に学んで行くよりも、AからいきなりZ行こうぜ!そうした方がいいんじゃないかってことを、ワークショップを受けに来た生徒たちに教えたかったんですよ。ある意味、社会派の映画なんです」

こうしてサプライズ上映――『変態団』(監督:井口昇/2014年/45分)ワールドプレミアが行われた。
そして、更なるサプライズ……『ワクワク映画塾』受講生の方々、即ち『変態団』出演者の皆さんがサプライズ・ゲストとして登壇したのだ。OLYMPUS DIGITAL CAMERA

井口 「現代、色々事件が起こるじゃないですか。欲望が振り切ってモラルを破ってしまったがために色んな悲劇を起こしてる事件が多いので、問題提起を…たまには、真面目なことを思ってるんだと言う事を出そうと思いまして」

『変態団』上映後、井口監督はお道化半分にこう切り出したが、観客席は笑いが起きなかった。『変態団』は、衝撃作だった。

井口 「“変態”の人って、本当に地道な苦労をしてるんですよね。関係を保つために欲望を抑えたりしてるのを、振り切っちゃうと社会が崩れてしまったり、色んな事件が起こってしまうと言うことで。そう言う事を色々見せたくて、皆悩みながら頑張って演じたと思います」

わだいつお 「普段会社員をやってまして、過去に演劇もやったことがない本当に初めての体験でした。大ファンの井口監督がワークショップをやると言う事で、40を越えたんですけど新しく何か始めたいと挑戦してみました。私なりにいい映像が撮れるように頑張りました」
わださんが作中で参加した撮影会は、物語のターニングポイントとなる。

晴野未子 「それぞれ明確な変態があるんですけど、私だけ明確な変態じゃないので…淋しいな、と思います(場内爆笑)。でも、可愛く撮ってくださって、とても嬉しかったです」
晴野さん演じる女子高生は、交際相手の異常性癖を目の当たりにする。そして、物語が動き出す。

伴秀光 「(アレハンドロ・)ホドロフスキー監督が、未完の大作『DUNE』を撮った際に「スタッフや役者は要らない。俺は魂の戦士が必要なんだ」と言ってまして…この『変態団』も、それに通ずるものがあるんじゃないかと思いました」
伴さん演じるカメラマンは、モデルと交際するうちに自分自身のフェティシズムに気付いてしまう。

イガリタケユキ 「「ああ言う役は抵抗なかったの?」って聞かれたんですが、むしろ脚本が素晴らしすぎて…僕が失敗したら、映画全体が駄目になるって、勝手に怖くなっちゃってました」
劇中でのイガリさんの性癖は凄まじく、そこに性差は存在しない。

優 「名前を、今回“優(まさる)”ってなってるんですけれど、変わりまして…今後“ぺろぺろ”って言う名前で(場内笑)役者として活動していきたいと思っていますので、宜しくお願いします」
劇中の“ぺろぺろ(優)”さんは、歪んだ愛情表現しかできない自分に生命を賭して苦悶する。

正村正太郎 「見せ場のシーンは、相手役のあやな(れい)さんと監督と3人だけで…濃密な時間を…ちょっと、PLAYでしたね(笑)。凄い貴重な時間で、何分経ったかも分からないくらいでした」
登場人物の中では突出した変態性を持たないと思えた劇中の正村さんだったが、凄まじい“見せ場”でその印象を覆す。

衣緒菜(いおな) 「私の役は、多分いちばんファンタジー要素かなって思うんですが…どうでしょう?私、見た目がキツいんで攻め役とかが多かったんですけれど、終始柔らかい感じで…普段は血塗れの役が多くて、一時期「臓物のバーターやります!」って言ってたくらいだったんですが…今回は何も“汚れ”が無くて、凄い新鮮でした(笑)」
衣緒菜さん演じるOLは、同僚から求愛を受ける。だが彼女は、まともな人間を愛することが出来ない。OLYMPUS DIGITAL CAMERA

皆、“変態”について、激しく煩悶している。
井口昇監督の衝動をダイレクトに具象化した『変態団』と言う映画は、“ワクワク映画塾”メンバーにより傑作となった。

井口 「実は僕自身、今起こってる犯罪に対して凄い怒りがあるんですよね。欲望を抑えられない身勝手な犯罪者に対しての怒りみたいなのが。そう言うのを…「園(子温)さん以外でも、俺も出来るんだぞ!」ってことですね(場内爆笑)」

監督は「反応を見て今後も上映するのかお蔵入りにするのか決めたい」と言っていた『変態団』。名古屋では絶賛を以て迎えられたので、必ずや上映されることを固く信じている。

また、井口監督の名誉の為にも深夜シネマスコーレを埋めた映画ファンの名誉の為にも申すが、『変態団』は一部の特殊な性的嗜好を満たすための作品ではない。誰しもが持つ人間の“業”を広く世に問う、社会派の作品である。
そして、エンドロールで更に驚くことになる。目を疑う名前を見付け、同姓同名の別人かと思うだろうが……ご本人だそうだ。その辺りも、どうかお見逃し無きよう。

『変態団』――今後は全国で上映されると思うと、愉しみで仕方が無い。津津浦浦でコメディだと思って観始めた観衆の度肝を抜き続けることを想像すると、愉快で仕方が無い。

取材:高橋アツシ

『ライヴ』公式サイト:http://www.live-movie.jp
『井口昇のワクワク映画塾』公式サイト:http://www.iguchi-noboru.com
シネマスコーレ公式サイト:http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htm

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