考えるな、蹴りとばせ!『ハイキック・エンジェルス』鑑賞記
考えるな、蹴りとばせ! ――『ハイキック・エンジェルス』鑑賞記――
2014年6月28日早朝、シネマスコーレ(名古屋市中村区)には開館前から行列が出来た。
この日は『ハイキック・エンジェルス』(監督:横山一洋)の封切初日。舞台挨拶に主演の宮原華音さん、プロデューサー・脚本の西冬彦さんが登壇すると聞きつけた映画ファンは時間を追う毎に増え続け、16:30の上映時間には立見を出す大入りとなった。
西冬彦 「熱気が凄いですね…ありがとうございます。プロデューサーの西と申します。以前『ハイキック・ガール!』(2009年/監督:西冬彦)で武田梨奈を見付けて、名古屋でも公開しました。本日、新たに発掘した素晴らしい才能を連れてきました」
宮原華音 「宮原華音です。宜しくお願いします!」(場内拍手)
西 「宮原華音とは、ちょうど1年前…6月に出会ったんですよ。『ハイキック・エンジェルス』は、アクション練習を1年間やったんです。青野楓(赤城マキ役)とか川本まゆ(近藤アスカ役)とかが毎回4時間・週4回の練習を半年以上してる、その途中で現れたんです。彼女との出会いは、ちょっと面白くて…」
宮原 「はい。私、武田梨奈さんが…『ハイキック・ガール!』が大好きで、梨奈さんがテレビに出る度にブログに書いてたんですね。そしたらファンの方が梨奈さんに伝えてくださって、なんと梨奈さんからTwitterのフォローがキターーー!ってツイートしたらリプしてくれて…空手やアクションの話を2人でツイートしてたら、急に『西冬彦』って人が…(場内笑)。『ハイキック・ガール!』は大好きでずっと憧れたんですけど、西さんが作ったって知らなくて…ヤバい人が来たのかなぁって(場内大笑)」
西 「(笑)。青野楓も、ブログで見付けたんですよ。空手着を着てY字バランスでポーズ取ってる写真なんて見たら、どうしたって会いたいじゃないですか」
『ハイキック・エンジェルス』 ストーリー:アクション映画部の女子高生たちが新作映画『ハイキック・エンジェルス』の撮影のため廃校にやって来ていた。彼女たちの夢はブルース・リーやジャッキー・チェンみたいな本格的アクション映画を作ること。ラストバトルの撮影に向けて盛り上がるメンバーたち。そんな時、誰もいないはずの廃校に大勢の男たちが侵入、あっという間に校門は封鎖され外部との通信も絶ち切られた。電話もネットもメールも使えない―。慌てふためくアクション映画部メンバー。5人の女子高生vs100人の悪人たち。逃げ場は無い。さあ、どうする―?
西 「宮原華音は、前から知ってたんです。空手のチャンピオンで、三愛の水着のイメージガール(2012年)をやってるんだって。映像も見て気になって事務所に連絡を取ったんですけど、最初は断られたんですよ。「空手で全国目指してるから、とにかく空手に集中したいんで芸能活動はしたくない」って。去年の6月に僕はキャスト“サクラ”を演ってくれる子を探していて、そう言う時に武田梨奈とのやり取りを見てTwitterで聞いてみたら、「映画、出たいです」って言うんでもう一回事務所に連絡してもらったんです。実は、大怪我して空手を諦めた頃だったのかな?」
宮原 「そうですね。高校1年生の頃まではバリバリやってたんですけど…」
西 「とにかくこの子、ジャッキー・チェン並に全身怪我してるんですよね」
宮原 「そんなに怪我してないですよ(笑)!えっと、腰椎2本疲労骨折と…疲労骨折なんで、全然大したことないんですよ!(場内笑)それから、両膝半月板損傷と…内側側副靭帯損傷と…あと、首もちょっと怪我してて…まあ、後いっぱい折れたりはしてるんですけど…(場内爆笑)」
西 「(笑)。空手の実績も凄いんですよ」
宮原 「空手は、小学校2年生からずっと続けてるんですけど…全国大会三連覇と、世界大会にも出ました」
西 「彼女が大好きな『ハイキック・ガール!』は、空手の映画です。空手の形とか精神性を凄く大事にした映画なんです。「そう言う映画に出れる!」と思って現場に来た彼女だったんですが…何て言われたんだっけ?」
宮原 「「空手をやらないでくれ」と言われました(苦笑)。ショックでしたね…私の空手、魅力ないんだ、って…」
西 「そんなことないよ…テーマが違っただけ。今回の映画はアクション・エンターテイメントにしたかったんで、カンフー・アクションとか色んなアクションを覚えてくれって頼んだんです。とにかく彼女は運動神経が凄く良くて…陸上もやってて、スポーツテストも凄かったんでしょ?」
宮原 「スポーツテストって8種目で80点満点なんですけど、78点…長距離だけがダメで(苦笑)…東京都で1位でした」
西 「『ハイキック・エンジェルス』でも、走る姿が凄いんですよね。アクション映画で一番難しいのって、走るシーンなんですよ。トム・クルーズやメル・ギブソンみたいに走る姿が格好いい俳優って、日本には中々居ないです。女性で格好良く走る人なんて、殆ど居ないですね」
“ハイキック・エンジェル”たちは、とにかく躍動する。
サクラ(宮原華音)は、中庭を、廊下を、屋上を駆け回る。怪鳥音を響かせ、五獣拳を繰り出し、三角蹴りで敵を薙ぎ払う。
マキ(青野楓)は、沈着冷静な空手チャンピオン。脚技は冷酷な凶器そのもので、振り下ろす踵は死神の鎌の如し。
アスカ(川本まゆ)は骨法の達人なのだが、泣き虫。憧れの存在に近付きたくて、弱い心を振り払う。
ミク(長島弘奈)は、絶叫担当。しかしバレエで鍛えた両足は、意外な武器を隠し持つ。
宮原 「足場が道場と違って、ガタガタだったり滑ったりするのが大変でした。一番得意としてた蹴りで、まさかの失敗をしたり…。お尻から落ちちゃって、ビックリしました」
西 「道場は裸足ですしベストな環境でやるんですけど、撮影現場は足場が悪くて滑ったりするので。激しい練習をして道場で120点を出しとかないと、現場で90点は出せないんですよね。しかも、この子、2日目に骨折したんですよ」
宮原 「折れたとか、分かってなかったんですよ。腫れてたんで皮膚科に連れてってもらったんですが、「これは整形外科に行ってください」って言われました(場内大笑)」
西 「私プロデューサーだから、真っ青ですよ…事務所がなんて言うのか、ご両親がなんて言うのか…。そしたら、親御さんは「別にいいんじゃないですか?」って」
宮原 「「痛くないんでしょ?」みたいな感じで(笑)」
西 「彼女は元々全身骨折だらけだから、ご両親も慣れてらっしゃるらしく…」
宮原 「そうですね。骨折れたって、“試合に出ない”って選択は無かったんで(笑)」
西 「本当に、根性がある子で。去年2週間、静岡県で撮影したんですけれど、素晴らしい仕上がりになりました。メインの女の子たちが全員可愛くて、綺麗で、技も凄いんです。けれど…ライバル心も凄くてね…」
宮原 「そうですね、やっぱり負けたくなくて…」
西 「一番負けん気の強いのはこの子なんですよ(笑)。半年遅れて(現場に)やってきて、相手は19・20才の年上の人たちで物凄くアクションやるのに、17才で来ましたから。今は18だよね…今の宮原華音の、最大のウリは…?」
宮原 「“高校生ってこと”ですっ!(笑)」
『ハイキック・エンジェルス』は格闘シーン満載の痛快アクション娯楽作品であるが、根底を流れるのは情熱であり、友情である。『ハイキック・エンジェルス』は、青春映画なのだ。
挫けそうな主人公を奮い立たせるのは、アクション映画への愛であり、大切な仲間たちとの絆である。フユミ(伊藤梨沙子)がエルモを回し「アクション!」を掛ければ、“ドラゴン・メイ”は決して負けない。劇場上映中はニコニコ動画でも本編を公開すると言う新機軸もユニークな『ハイキック・エンジェルス』。
新たなる“Tough Girl”の誕生に、胸に去来するのは「Don’t Think.Feeeeeeeeel!」の神託である。
取材:高橋アツシ
『ハイキック・エンジェルス』公式サイト: http://highkick-angels.com
シネマスコーレ公式サイト: http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htm