おかえりなさい、スクリューボーラーズ -前田弘二監督・宇野祥平 ミニシアターへ帰る-
おかえりなさい、スクリューボーラーズ --前田弘二監督・宇野祥平 ミニシアターへ帰る--
2014年6月21日、シネマスコーレ(名古屋市中村区)は最終上映が終わった21:30になっても熱心な映画ファンが列を作っていた。それもそのはず、この夜は特別プログラム「『わたしのハワイの歩きかた』公開記念 前田弘二監督・宇野祥平さんトークショー」が開催されたのだ。(左より、シネマスコーレ・スタッフ 坪井篤史、宇野祥平、前田弘二監督)
坪井篤史 「6月14日から前田弘二さんの最新作『わたしのハワイの歩きかた』が上映になりました。今日のお昼に前田弘二監督と宇野祥平さんは舞台挨拶を(名古屋)ピカデリーでやっていただいて、夜はシネマスコーレでざっくばらんにと行きたいところなんですが…宇野さん、「15分しか時間が無いから、そんなに喋るな」って顔ですね?」
司会は御馴染み、シネマスコーレ・スタッフ坪井篤史さんである。
大変残念なことに、主役のお一人・宇野祥平さんは帰りの新幹線の時間が迫っているとの事。
宇野祥平 「いやいや、違いますよ(笑)。さっきピカデリーの舞台挨拶で、坪井さんワイシャツのことを“カッター”って言ってましたよね。カッターって言う表現、僕、久しぶりに聞いたなと思って」
坪井 「時間の無い時に、それですか?(笑)…今回スコーレでのお祭り企画と言う事で『鵜野』を上映するんですが…前田さん、これ何年前でしたっけ?」
今回のトークショーで特別に上映される『鵜野』は2005年に公開された26分の短編映画だ。宇野祥平さんの怪演が炸裂する前田監督の出世作で、この作品が無かったら白石晃士監督の『オカルト』(2009年)も無かったかも知れないと言われるほどの重要作である。
前田弘二監督 「『鵜野』は10年前ですね。撮ったのがちょうど6月の梅雨でした。で、今年ちょっと続編を…」
坪井 「済みません、皆さん…今これ制作発表と言うことで(笑)…なんと今年、『鵜野2』が誕生するんですね?(場内拍手)」
宇野 「今日ちょっと二人で話してて…15分くらいで(笑)」
前田 「話が着いちゃったんですよ(笑)。『鵜野』は一回続きをやろうとしたんですけれど、その時は全然思い付かなかったんです。でも今日、宇野くんと喫茶店でコーヒー飲みながら話してたら…「コレ行けるね!」って(笑)」
宇野 「一番最初にシネマスコーレさんでやらせてもらえたら、ありがたいな、と(場内拍手)」
『鵜野』が撮影されて、ちょうど10年。果たしてどんな続編が出来るのか、今から完成が待ち遠しくて仕方がない。
坪井 「『鵜野』は、どんな経緯で撮られたんですか?」
前田 「内容の前に撮ることが決まってたんです。2日くらいで撮ってるんですけど、何も考えずに台詞書きながらババッて書いたら行き着いた、みたいな…「よし、出来たから撮ろう!」って急いで撮った感じだから、あんまり記憶が(笑)…タイトルも、当時は何でもよかったんですよ。その前撮ったのは『女』(2005年)ってタイトルだったり、その後は『ラーメン』(2006年)とか。なんか、考えてないような感じのタイトルばっかりを付けてたような気がするんですよね」
宇野 「僕は、台詞が多くてちょっと大変だなあって…(笑)」
坪井 「何カットでしたっけ、カット数は?これ、支配人が一番詳しいんですよね…何カットでしたっけ、支配人?」
木全純治(シネマスコーレ支配人) 「10カットですよ」
前田 「いや、10カットも無いと思います…6、7、8…8カットですね」
宇野 「もし間違ってたら、(監督が)全裸になりますんで(場内大笑)」
今回のトークショーはタイトル通り、前田弘二監督最新作『わたしのハワイの歩きかた』公開を記念して企画された。
『わたしのハワイの歩きかた』は『婚前特急』(2011年)と同じく脚本家・高田亮氏とコンビを組んだオリジナル作品で、前田監督の劇場公開作品としては2作品目のメジャー作品となる。榮倉奈々が主人公みのりを演じ、高梨臨・瀬戸康史・加瀬亮が脇を固め、宇野祥平さんは実に“美味しい役”で出演している。現在、全国200館で上映中である。
坪井 「『わたしのハワイの歩きかた』では“本間ちゃん”と言う、前田さんからの愛がたっぷりの役で…如何でしたか?」
宇野 「それ、昼間の舞台挨拶で森さん(ピカデリー森裕介支配人)が仰ったことをそのまま言っただけですよね(場内笑)。そりゃあ、嬉しかったですよ。ハワイには28日間くらい行かせていただきました。海外で映画撮影って言うより海外に行ったのが初めてでしたが、前田組なので全然違和感は無かったです」
坪井 「これで、前田組は何本になるんでしたっけ?」
前田 「14本目です。宇野さんが出てない作品は、1本だけですね」
宇野 「今撮ってるので15本目で、『ラーメン2』が16本目ってことですね」
坪井 「『ラーメン』じゃなくて(笑)…」
宇野 「ああ…『鵜野2』です(笑)」
坪井 「ちなみに、『ハワイ』の本間ちゃんって、年齢設定は?」
前田 「46歳ですね」
坪井 「宇野さんって、今…」
宇野 「36です」
坪井 「前田さん、本当鬼ですね(場内大笑)」
前田 「いや、年上で行けるのが幅だと思うんですよね。その分色々な役が出来るんで面白いなあって」
遂にここで、宇野さんがタイムアップとなった。
宇野 「ありがとうございました。週末の忙しい時に、本当にありがとうございました」
銀幕の中さながらに観客のみならず同列者をも翻弄するトリックスター・宇野祥平のトークと言う名の幻術がこれにてお開きになるのは残念至極だが、制限されていたからこそ濃密となった貴重な時間を座席を埋めた全員が満喫した最高の一時であった。それは、退場する宇野さんの背中に送られた割れんばかりの拍手がいつまでも鳴り止まないことが、何よりも雄弁に語っていた。時を置かずして待ちに待った『鵜野』を鑑賞し満足度がいや増すばかりの観客は、前田監督と坪井氏のアフタートークを待ち侘びた。ちなみに、記憶していたカット数により前田監督が全裸になる破目になったか否かは、ここでは敢えて書かないことにする。親愛なる読者の皆様が次回『鵜野』を鑑賞される際、ご自身でカット数をカウントされる楽しみを奪う訳には行かない。
坪井 「前田さんはメジャーとインディーズ両方出来る人だと思うんですよ。『婚前特急』も今回の『わたしのハワイの歩きかた』もちゃんと配給・制作会社さんが付いてる所で勝負してて、ドラマ2本(『太陽は待ってくれない』(2012年)・『ラブ・スウィング』(2012年)も冠がちゃんとあって、新しい映画(『夫婦フーフー日記』)も来年公開が決まってます。先ほど皆さんの前で『鵜野2』をやろうって言ってもらったんですけど、もしインディーズでまた撮るとしたら『先輩の女』(2008年)以来6年振りです。自分の中で感覚的に変化は無いですか?」
前田 「元々宇野くんと「暇だから映画でも撮る?」って自主映画を始めて、『鵜野』は3作目の作品です。そんな感じでずっとやってきて、『婚前特急』も最初は自主映画でやろうかなと思ったくらいで。『わたしのハワイの歩きかた』も、自由に企画させてもらいました。あんまり「商業(映画)だから」とかは無いですかね。ただ、今自主(映画)をやったらどうなるのかな、と。『鵜野』でも、ちょっと気持ち悪さがあるじゃないですか。今なら色んなアプローチがあるのかなとか、どう見えるか観てみたいなと思って。役者じゃない人にやってもらったりだとか、変な欲とか上手く見せたいとかも無い人にスポット当ててみたりとか…歩いてて「あの人いいんじゃない?」ってその場で交渉して出てもらうとか(笑)。商業じゃ絶対出来ないことをやってみたいなと思ってますね」
坪井 「前田さんの人間学は映画を撮る上で素晴らしい素質だと思うので、それがまた自主って所から見れるんだとしたら凄く面白いものになると思います」
前田 「『ハワイ』でも、実際お酒飲んで芝居してもらったりしました。酔っ払いの演技をしてもらうよりも、酔っ払った上で普通に演じてもらうと顔も違いますし。芝居としての表現じゃなくて、自分でも気付かないイレギュラーさが生まれる瞬間が面白いので」
坪井 「最後の質問です。どんな映画監督になって行きたいですか?」
前田 「僕は宇野くんに「映画撮ったら?」って言われて撮り始めたくらいで、映画監督を志してたって訳じゃないんですよね。なんでやってるかって言われたら、面白いからなんです。映画は何本作っても、満足行かないんですよね。僕、普段凄く飽き性なんで、「あ、いつもの映画だね」みたいに言われてると嫌だなあと思って…違うのをやろうとして、結局は似ちゃったりするんですけど…色々挑戦して行きたいと思ってます。その一つとして、『鵜野2』(笑)」
坪井 「それは本当に最高だと思いますよ。宇野さんとの最強コンビだと思います。是非このスクリーンで前田さんに会えることを、僕は映画館でお待ちしてますので。では、最後に一言を」
前田 「今日は遅くまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました」
深々と一礼する前田弘二監督に、宇野さんと同様の拍手の大音響が降り注いだ。
メジャー作品を撮っていても尚、自主映画を大切にしてくれる映画監督がいる。メジャー作品に出演していても尚、ミニシアターへ帰ってきてくれる映画俳優がいる。
そんな熱い映画人に感謝を示したくて、シアターの観客席からはいつも拍手の豪雨が降り頻るのだ。
取材:高橋アツシ
『わたしのハワイの歩きかた』公式HP:http://www.watashinohawaii.com/
シネマスコーレ公式HP:http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htm