目指せ!“金のキャベツ賞”!!シナリオ大賞2014締切迫る
目指せ!“金のキャベツ賞”!! --シナリオ大賞2014 締切迫る--
2014年6月6日から8日までの3日間、シアターカフェ(名古屋市中区大須)では『少年笹餅』・『貝ノ耳』と言う2本の短編映画が上映され、連日盛況となった。
『少年笹餅』(2005年/38分/監督・脚本:岩田ユキ)
STORY:都会から越してきた体の弱いのんちゃんとサッカー少年フックンの出会いと別れの食中毒青春物語。恥をかいてベソをかいても続いていく小学5年生の日常。
『貝ノ耳』(2004年/33分/監督・脚本・編集:杉田愉)
STORY:中庭でヴァイオリン二重奏を奏でている老夫婦。年齢からくる耳の衰えで演奏を断念した夫と寄り添う妻の姿を一切の台詞を排除し、映像詩的に淡々と綴った零度の物語。
さて、2本の短編作品の共通点に御気付きだろうか。 シアターカフェのプログラムを見れば、一目瞭然……タイトルは、『伊参(いさま)スタジオ映画祭セレクション Vol.1』である。そう、『少年笹餅』・『貝ノ耳』は共に、伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞受賞作なのだ。伊参スタジオ映画祭は、群馬県中之条町で毎年11月に行われる。2001年から開催されている“ご当地映画祭”の老舗的存在で、映画祭の看板となっている『伊参スタジオ』は、小栗康平監督『眠る男』(1996年)や篠原哲雄監督『月とキャベツ』(1996年)を始め、様々な映画・ドラマの舞台となっている。
『伊参スタジオ映画祭セレクション』で杉田愉監督の舞台挨拶があると聞き、記者もシアターカフェに駆けつけた。6月8日、日曜の夜だと言うのに満席であった。
赤羽健太郎 「杉田監督は、2003年の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞(短編の部)を受賞しまして、この『貝ノ耳』でデビューされました。この作品の制作の経緯をお願いします」 司会進行は、『桜トイレ』(2012年)の赤羽健太郎監督だ。赤羽監督も、『金糸雀は歌を忘れた』(2008年)でシナリオ大賞2007(短編の部)の大賞を受賞した“伊参出身監督”である。
杉田愉 「伊参スタジオとは、“スタジオ”と言っても廃校を利用した宿泊施設なんです。お風呂なんかもあって、撮影スタッフが合宿できる環境なんですね。そこで行われている『伊参スタジオ映画祭』第3回の時、新たにシナリオのコンペ『シナリオ大賞』が開設されました。ご覧になっていただいた岩田ユキ監督の『少年笹餅』と私の『貝ノ耳』が、その『第1回シナリオ大賞』を受賞したんです。この伊参スタジオ映画祭の面白いのは、賞金が映像化しないと一切出ないんです。とにかく翌年の映画祭に映画作品を完成させることが条件なんです。僕は助監督の経験も全く無く、専門学校や大学で映画を学んだことすらありません。映画評論家になりたかったんです…映画はたくさん観ていたんで。当時20代で、映画を語ることには興味があったんですが、映画を作ることはまだずっと先のことだろうと思っていて。受賞したことで撮らざるを得ない状況に追い込まれて、1年間必死になって撮ったのが『貝ノ耳』です」
“映像化が前提のシナリオコンペ”とは、随分ユニークなシナリオコンクールである。だが、この恐ろしく厳しいと思われる条件を、今年で14回を数える中ただの一度も違えた作品が無いと聞き、更に驚愕した。 伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞受賞作と言えば、第35回PFFぴあフィルムフェスティバルでアワード22013映画ファン賞・観客賞(名古屋)を獲った『震動』(2013年/監督・脚本・編集:平野朝美)が記憶に新しい。
赤羽 「『貝ノ耳』の撮影は、最初何から始めたんですか?」
杉田 「全くノウハウが無いので、審査員をされてた豊島圭介監督に「映画を作るのは何からスタートすればいいんですか?キャスティングですか?制作資金を集めることですか?ロケハンですか?」と聞いたんですね。豊島監督は気楽に煙草を吸いながら、「全部。全部、一緒」って言うんです。全然親身になってくれないのかと、その時は思いましたよ。ですが…今お蔭様で10年間かけて5本くらい映画を撮ったんですが、まさにその通りで。全部同時にやってるんですね、今。その真意が自分なりに凄く分かりました。何かから始めてクリアしたら次に行こうとか、そんな風に出来るほど生易しいものではないな、と」
赤羽 「意外でした…確固たる姿勢で撮られたんだと思っていたので」
杉田 「いやぁ…この映画は、登山に例えると軽装備で山に登った感じがしますね。ただ、今だから言えるんですけど、この一本が遺作だと…これが最初の監督作品であり、これ以降は撮れないだろうと思って撮ってました。僕は映画を観て泣くタイプではないんですが、現場では一度泣きました。あるシーンで時間も押してまして、具体例を挙げて演出したんですよ。僕は子役の子にも「体温を2〜3℃下げてくれないか?」ってわざと抽象的なことを言うくらいでして、具体では絶対演出しないんです。それをやっちゃったら、もう監督失格…お終いだろうなと思ってるくらいなんですよ。それを、あの現場では言ってしまって…後悔して、切なくなってきて…」
赤羽 「僕も現場で泣いたことありますけど…そんな高尚な理由で泣いたことはないです(笑)」
『貝ノ耳』の撮影現場で杉田監督は1番目か2番目に若い存在で、監督どころか助監督も全部務める感じだったそうだ。 一番最初に起きて、厳冬の伊参スタジオを監督自ら石油ストーブで暖めることもあったとか。
赤羽 「そもそも、なぜ伊参に応募しようと思ったんですか?」
杉田 「とにかく『貝ノ耳』を世に出したかった…たくさんの人に読んでもらいたかったんですね。僕、テレビのドラマって観たことがないんです。テレビで物語を観る習慣がなかったんです。近所の…今はもう無いですが、新潟県に柏盛座(はくせいざ)と言う映画館があって…子供の頃から通ってると言うか、映画館に集う人達を見るのが凄く好きだったんです。大人達が真昼間から、涙を流して映画館から出てくるのが。ガラスケースに入った“ロビーカード”を見て、その5~6枚のスチル写真から自分なりに勝手に物語を考えてたんですよ」
杉田監督を突き動かすのは、自作を真摯に愛する情熱なのであろう。ロビーカードの静止画から物語を紡ぐ映画少年は、自ら生み出した作品とストイックに向き合う映画監督となった。『貝ノ耳』は杉田監督が真っ先に観せたいと願ったアンジェイ・ズラウスキー(ポーランドの映画監督・代表作『ポゼッション』(81年)など)の目にも止まり、ズラウスキー監督が審査委員長を務めたヴロツワフ国際映画祭で“最優秀剣士賞”を獲得した。
赤羽 「杉田監督は、今年の伊参で二次審査に携わるとか。シナリオ大賞を目指す方に、何かアドバイスをお願いします」
杉田 「偉そうな事は言えないんですけれど…脚本の気配を消してるような脚本を書いて欲しいな、と。技術的に洗練されたものより、「これ、本当の話なのかな?」って思うような物語を。ドキュメントってことではなく。書かれた台詞を生身の人間で一回話したことがあるような脚本が読みたいと思います。在り来たりなんですが、その人にしか書けない…その人が書かざるを得ない…書いてしまった、そんな作品を読んでみたいですね」
『伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2014』は、作品を募集している。 “書いてしまった”物語を映像化するため、東奔西走する……そんな幸せな一年を次に過ごすのは、もしかしたら貴方かも知れない。 締切は6月30日(月)……まだ、間に合ってしまう。
取材 高橋アツシ
伊参スタジオ映画祭 公式サイト:http://www8.wind.ne.jp/isama-cinema/
シアターカフェ 公式サイト:http://www.theatercafe.jp