映画小僧に あったかい 「小坂本町一丁目映画祭」レポート


kozaka1映画小僧に あったかい --「小坂本町一丁目映画祭」レポート--

毎年愛知県豊田市で開催される、「小坂本町一丁目映画祭(こざかほんまちいっちょうめえいがさい)」。今回で12回目となる映画祭は「小坂本町一丁目映画祭vol.12」と銘打ち、2014年5月4日「三河メディフェス2014」の一環として愛知県刈谷市の刈谷文化センターで開催された。“小坂本町一丁目”を出たとしても市内で開かれるのが常であった映画祭が、今回はじめて豊田市を離れたのだ。

“こざほん”の愛称で親しまれる「小坂本町一丁目映画祭」は、コンテストでも賞レースでもない。審査員がいないのはもちろん、客席からの投票もない。観客はただ作品の感想を書くのみで、アンケート用紙は制作者に届けられ創作の糧となる。 「小坂本町一丁目映画祭」は、自主映画が広く人々に観られる事を目指し、主催の「M.I.F.(=ミフ:Mikawa Independent movie Factory)」は地元作品の制作・上映も積極的に行っている。そして、創り手と観客との交流の場として、地元の映画ファンに親しまれている。(左より、清水雅人監督、堀芳樹さん(ホーリー役) 、Star☆T(豊田市のご当地アイドル))

開催回数に合わせて……と言う訳ではないだろうが、「小坂本町一丁目映画祭vol.12」では12作品が上映された。 制作者より生の声を聴けるのも映画祭の醍醐味だが、そんな登壇者の貴重な発言を作品ごとに紹介したい。 司会進行は、倉橋健さんと齊藤千絵さん。お二人共、地元で役者をされている。kozaka2

『キスナナ the Final』(15分・真田幹也監督)※「ショートストーリーなごや」作品※ 吉田祐治氏(名古屋市市民経済局) 「「ショートストーリーなごや」は、名古屋を舞台にした短編小説を毎年公募してまして、次の年に選ばれた優秀作品の映像化をここ何年か続けてます。『キスナナ』は、その着想にビックリしました」

『チクタクレス』(40分) 齋藤新監督 「時計や時間をテーマにした映画と言うことで書いた脚本です。時計って止まったら普通捨てちゃう物なんですけれど…例えば、原爆資料館の止まった時計…震災の時に止まった時計…時が止まることによってむしろ語りだす、それが逆に強く心に刺さってくるって言う物を描こうと思いました」 (左より、古本恭一監督、下向拓生監督、小林勇太監督、谷口雄一郎監督、中屋充史監督)

『愛し夜明け』(18分) 小林勇太監督 「友人の結婚式の映像を頼まれた時に友達のふたりがしてた話がきっかけで、色々調べて映画にして色んな方に観ていただこうと思いまして。映画を創るに当たって色んな方に意見を伺ったんですけれど、男性と女性で大きな違いがあって…その両方の意見を入れたいな、と言うのがありました」

『スモールワールド』(21分) 中屋充史監督 「(劇中の展開は)丸々実体験って訳ではないです(笑)。元々、一つの部屋で成立する物語が出来ないかなと言うのがありまして。タイトルは、“一つの部屋”と、あと“世間は狭い”って言う意味でストレートに付けました」

『ラストムービー』(34分) 古本恭一監督 「戸田誠二さんのインディーズ漫画をネットで見つけて「映画化してもいいですか?」と10年前に言ったんです。なかなか進まなくて、やっと完成したこの34分の中に、6~8年くらいの映像がいっぱい入ってます。仲間が誰もドロップアウトしなかったんで、本当に感謝です」

『ゆびわのひみつ』(16分) 谷口雄一郎監督 「実は僕の中で3部構成にしてまして、『ゆびわのひみつ』は第1部です。2部まで完成してますが、第2部の方でもちょっとだけ(『ゆびわのひみつ』の登場人物が)どうなったかが出てきます」

『菊とサカツキ』(20分) 下向拓生監督 「一番最初にラストを思いついて、そこからどう生かすかを考えました。一緒に映画をやってる仲間で別の道に行った奴が“キクちゃん”と言うので、タイトルの“菊”にはそんな由来もあります。キクちゃんは、この映画を観てないんですけどね(笑)」

『公務員探偵ホーリー3~でも、主役はStar☆Tだけどね~』(45分)※M.I.F.作品※ 清水雅人監督 「最初に創った映画が『公務員探偵ホーリー』で、3作目が『ホーリー2』なんです。長年やってきまして、再び自主映画の原点を…創る喜びを噛み締めて創ってみたいな、と言うことで。笑いっぱなしの現場で、凄く楽しかったです」

また、来場できなかった監督からのメッセージも紹介された。

『上にまいります』(23分) 「この映画は、私の介助経験を基に企画したものです。外出介助で遭遇する非常識な健常者の多さに愕然として、障がい者の方がもっと外出しやすい街にしたいと言う思いで映画化しました。私が登録しているヘルパー事業所の職員さんや、利用者さん、ヘルパー仲間みんなが、バリアフリーの問題を共有して制作を開始。しかし、そのことだけを映像で表現してしまうと、今度は健常者批判に繋がったり、一方的な見方になってしまうので、障がい者も健常者もお互いのことをより理解できるよう、ラブストーリーをベースに展開していく作品にしました(抜粋)」(堀河洋平監督)

『ネジとねこ』(10分) 「この『ネジとねこ』と言う作品は何を伝えたかったのか、と言うことをよく聞かれます。まず、テーマは何か?働くと言うこと。物作りの大切さ。人に感謝されること。他人と比べての自分。裏方で活躍すること。などなどです。皆さんは、どのように感じましたでしょうか?実は、この作品に「これがテーマです」と言う明確なものはありません。いつもと同じ景色が色んな経験をしたことで今までと違って見えたと言う瞬間を、映像で表現できたらいいなと思い制作しました。内容は、私が育ったのがここ愛知であり豊田の街なので、このよう話になったのではないかと思っています(抜粋)」(馬場美紀監督)

作品はこの他、『ネオ桃太郎』(20分・小田学監督)と、招待作品『彩~aja~』が上映された。 監督を務めたふるいちやすし氏はプロの映像作家だが、『彩~aja~』は自主映画である。こんなところにも、「こざほん」の拘りが垣間見える。

koza3『彩~aja~』(48分) ふるいちやすし監督 「紙の上では自由であってほしいが、有名になったらゴシップの無い聖人のような存在であってほしい…そんな“アートとは高尚なもの”って考えは、基本的に矛盾があるなと思ってまして。僕は音楽家からスタートしてるんですが、人生を重ねていく中でジレンマに陥ったことが何度もあります。今日お越しの創り手の方も一度ならずそう言う経験ってあると思うんですね。登場人物の蒼も彩も、どこか自分を投影してるところがあると思います。皆さんの中でもどこかの部分に響いてくれたらな、と思って創りました。ちょっと気障なことを言うと、役者さんに「役を演ってくれ」とは言わないんですよ。「成ってくれ」とも言わないんです。「生きてください」って言うんですよね。言ったからには、必要な時間と僕の労力って言うのは湯水のように使うんです。これを言うって、監督としてプロデューサーとして凄く責任があることですから」(左より、倉橋健、齊藤千絵、ふるいちやすし監督)

“日本一あったかい映画祭”を標榜する「こざほん」vol.12が閉幕すると、会場を移して交流会が行われた。作品談議に花を咲かせつつ肩を並べる映画監督と映画ファンは、爽やかな初夏の風に優しく背を押されながら街を歩いた。「来年も、絶対来ます!」一人の監督の宣言は映画祭スタッフや観客の心にも広がり、あったかい西三河の空気が全員の胸を満たした。

取材:高橋アツシ

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