Moosic、研究室を出る!--『Moosic in 中川運河』鑑賞記--
Moosic、研究室を出る!--『Moosic in 中川運河』鑑賞記--
名古屋港管理組合において中川運河の魅力を向上させることを目的として平成24年10月に策定された「中川運河再生計画」、その活動の一環「中川運河再生文化芸術活動助成事業」の一つとしてシネマスコーレが携わった短編映画製作・公開プロジェクト、それが短編4作品から成る『Moosic in 中川運河(ムージック・イン・なかがわうんが)』である。
『運河の伝説』(監督/ジョン・ウイリアムズ(『SADO TEMPEST』監督))
中川運河の活性化事業に協力しようと集まる市民たち。ある者は運河に纏わる伝説を紐解き、ある者は舞踊を創作する。だが参加者の一人が持ってきた古い写真により、活動は思いもよらぬ方向へ。ゆるキャラ製作、絵画コンクールなどイベントが計画され、ロックバンド“JITTERBUG(ジルバ)”のMVまで製作される。会議は踊る、されど進まず。……それはまるで、映画製作にも似て。
『NOBIDORANDO』(監督/宮本杜朗(『太秦ヤコペッティ』監督) 主演/TADZIO)
リーダー(G,Vo)・部長(Dr,Vo)の爆音ガールズハードコアデュオ、TADZIO(タッジオ)の素顔に迫った異色作。フィリピンで流血沙汰を引き起こした部長、中川運河に王国を建てたリーダー。そんな彼女らの過去を、関係者への突撃インタビューが赤裸々に暴いていく。だがTADZIOのサウンドを浴びた者は、虚と実のボーダーの無意味さを思い知らされる。……それはまるで、洪水にも似て。
『はこぶね』(監督/安藤愛子(『switch(スイッチ)』監督) 主演/中川亜音)
高校生・ソラ(中川)の悩みは、長年親しむバイオリンを譜面通りに弾けなくなっていること。頭で考えると、手が止まってしまうのだ。橋の上で小舟を見下ろし悲嘆にくれるソラは、中川運河沿いで音に親しむ人々と出会う。ソラは自らと向き合い、どんなセッションを奏でるのか?人々は楽器を通じて、音を、心を運ぶ。……それはまるで、運河にも似て。
『いきもののきろく』(監督/井上淳一(『戦争と一人の女』監督) 主演/永瀬正敏(『私立探偵 濱マイク』シリーズ) 水本佳奈子(『モーニングセット、牛乳、春』))
運河で“生活の一部”を集め、廃工場でイカダを組む一人の男(永瀬)。元看護師(水本)が現れたことにより、誰も居ないとも思われた世界は少しずつ変わり始める。モノクロ・無声でスクリーンに映し出される“この世の終わり”は単なる記号としてのディストピアでは無い事が、そのストイックなスタイルゆえ観る者の心を強烈に打つ。録り下ろされた『時代はサーカスの象に乗って』のPANTA節も、お聴き逃しなく。……それはまるで、現在を“いきる”私たちにも似て。
総上映時間150分、観客は充実した時間を過ごすこと請け合いである。
『Moosic in 中川運河』一般公開初日の平成26年2月22日、監督・出演者多数が舞台に登壇することも相俟って、シネマスコーレは立ち見を出すお祭り騒ぎとなった。
ジョン・ウイリアムズ(『運河の伝説』監督)
「この作品、役者さんは一人も出てないんです。今後、中川運河で本格的なモンスター映画を撮る話があるんです!……飲みながらの話ですが(笑)」
アイルランド出身ブライアン・カレン(『運河の伝説』音楽・出演)は、劇中でも歌われた人魚伝説を詠った『Song of the Storm』を生演奏。客席もコーラスする盛り上がりを見せた。
安藤愛子(『はこぶね』監督)
「楽器は、自分だけでは音を出せません。人も、楽器がなければ音楽を奏でることが出来ません。『はこぶね』は、そんな“繋がり”を表現したくて撮りました」
中川亜音(『はこぶね』主演)
「(撮影の)一ヶ月前に声を掛けていただき、不安でいっぱいだったんですが……無我夢中で頑張りました」
井上淳一(『いきもののきろく』監督)
「前作(『戦争と一人の女』)から、こんなに早くここ(シネマスコーレ)へ帰ってこれたことを嬉しく思います。その『戦争と一人の女』の舞台挨拶の時、食事中に木全(純治)支配人がいきなり「永瀬さん、監督で映画を撮りませんか?」って言ったのが、『いきもののきろく』の始まりです……そんなこと言うなんて、大変なルール違反なんですが……ところが永瀬さん、「監督は無理ですが、出るならいいですよ」って言ってくれたんです……しかも有り難いことに、監督は僕(井上)でって言ってくれて。で、2回目の舞台挨拶が終わったら、車が用意されてまして……訳もわからず乗り込んだら、そのままロケハンだったと言う(笑)」
水本佳奈子(『いきもののきろく』主演)
「もう、恥ずかしくて……何度目を逸らしたことか(苦笑)いつかは通ることだと思い、やるからには全力で……出し切りました」(筆者注:水本さんは、観客と一緒に最前列で全作品を鑑賞)
また、この日シネマスコーレにはレッドカーペットが敷かれた。当作品(複数作)出演の酒井裕介氏が、監督や他の出演者を迎える為なんと自前で用意したそうだ。シネマスコーレのスタッフに話を聞いてみると、「こんなこと(レッドカーペット設置)、初めてです!」とのことだ。
上映後、足取りも軽く赤い絨毯を闊歩する製作陣。そして、そこかしこで自然発生するフォト・セッションやサイン会。シネマスコーレに溢れた笑顔の輪は、しばらく解けることがなかった。
ちなみに“Moosic”とは“Movie”と“Music”から成る造語。
SPOTTED PRODUCTIONSが手掛ける『Moosic Lab(ムージック・ラボ)』により、映画ファンには耳馴染みのある単語であろう。 “Lab(=研究室)”を離れた“映画+音楽のコラボレーション”は、一体どんな広がりを見せるのか……
『Moosic in 中川運河』、お観逃しなく。
取材 高橋アツシ
公開情報
2/22~3/7 12:10より、3/8~3/14 14:30より
上映館:シネマスコーレ (公式HP:http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/)