『山形国際ドキュメンタリー映画祭2013』受賞結果
1989年より隔年で開催され、今年で 13回目を迎えた『山形国際ドキュメンタリー映画祭2013(YIDFF)』の受賞結果!
今年は、映画祭全体で123の国と地域から1761本の応募があり、その中からおよそ209作品が上映され、各賞が決定した。
部門別には、インターナショナル・コンペティションは、117の国と地域から1153本の応募があり、15本の上映作品から選ばれました。アジア千波万波は、63の国と地域から 608 本の応募があり19 本の上映作品から選ばれました。 インターナショナル・コンペティション、アジア千波万波の定例のプログラムでは、山形で、ニュースだけではわからない世界各地の“今”を感じることができました。昨年多くの人々に惜しまれ他界したクリス・マルケルの特集、連日ニュースの流れるアラブの春の特集であるそれぞれの「アラブの春」では、観客の方々の関心も高く、まさに今年開催されるドキュメンタリー映画祭としての、役割を果たせたと感じます。6つの眼差しと 《倫理マシーン》やヤマガタ・ラフカット!そして批評家ワークショップでは、ドキュメンタリー映画を鑑賞するだけでなく、映画祭ならではの議論の場を持つことができました前回映画祭から継続して行われた「ともにあるCinema with us」では、東日本大震災から時が経ち、震災後を生きるという、これからのことを改めて考えていく機会となりました。
《インターナショナル・コンペティション》より
●ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)『我々のものではない世界』 マハディ・フルフェル監督
パレスティナ、アラブ首長国連邦、イギリス
●山形市長賞(最優秀賞) 『殺人という行為』 ジョシュア・オッペンハイマー監督 デンマーク、インドネシア、ノルウェー、イギリス、
《アジア千波万波》より
●小川紳介賞 『ブアさんのござ』 ズーン・モン・トゥー監督 ヴェトナム
山形国際ドキュメンタリー映画祭2013受賞作品
《インターナショナル・コンペティション 》
・ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞) 賞金200万円
・山形市長賞(最優秀賞) 賞金100万円
・優秀賞(2作品) 賞金各30万円
・特別賞 賞金 30万円
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞) : 『我々のものではない世界』 マハディ・フレフェル監督
2012年 / パレスティナ、アラブ首長国連邦、イギリス
審査員講評:私たちは現実を、記録や記憶、ましてや追憶という便利なシステムを都合よく使って生きています。いや、そうやって嘘の記憶でぬり固めながら生き延びているとさえ言えます。この作品は、記録することによって、自らの命と人生を、愛や友情や家族を、そして、生きる望みを懸命にたぐり寄せようとした物語であり、ドキュメントです。それは、同時に、占領と虐殺、抑圧と貧困という歴史の中で忘れられようとする人間の悲劇について、圧倒的な不正義としてのイスラエルの占領下に置かれ、難民となって生きる事を強いられたパレスチナの人々の悲惨と苦悩を通して、もっと深く、広く、忘却という私たちの記憶システムを告発しているものです。ロバート&フランシス・フラハティ賞は「我々のものでない世界」に授与する。
山形市長賞(最優秀賞) : 『殺人という行為』 ジョシュア・オッペンハイマー監督
2012年 / デンマーク、インドネシア、ノルウェー、イギリス
審査員講評:ある国の闇の奥を、大胆に、挑発的に探究する想像力豊かなこの映画の演出は、必要なカタルシス効果を追い求める熱意に裏づけられている。市長賞を『殺人という行為』に授与する。
奨励賞: 『リヴィジョン/検証』 フィリップ・シェフナー監督 2012年 / ドイツ
審査員講評:この作品は、過去の刑事事件を検証することで、現在における途方もない重要性を掘り起こす。同時に、私たち観客を証人として立ち合わせることで、ドキュメンタリー映画製作における「真実」の意味を検証する。
優秀賞 : 『サンティアゴの扉』 イグナシオ・アグエロ監督 2012年 / チリ
審査員講評:この作品のストーリーが基とする明快かつ輝かしいアイディア、それはいまだ誰も発想しなかった シンプルながらたぐいまれなものである。卓越した手法で撮影された無条件の厚情、それは人間誰にも差し出されるべきものである。
特別賞 : 『蜘蛛の地』 キム・ドンリョン、パク・ギョンテ監督 2013年 / 韓国
審査員講評:この作品の厳格な映像には、ある種の異様さとともに、メランコリーと詩情に満ちた強い謎めかしさがある。
同時に、簡潔で力強い政治的観点が、映画を真に意味深いものにしている。特別賞を『蜘蛛の地』に授与する。
《アジア千波万波 》 ・小川紳介賞 賞金50万円 ・奨励賞(2作品)賞金各30万円
●アジア千波万波審査員 フィリップ・チア監督 Philip Cheah(シンガポール) 崟利子監督(日本)
●アジア千波万波 審査員総評 : 選考は、スムーズに進んだ。19本観て、すべての映画にこの思いを伝えたいという、すごいエネルギーに圧倒されました。私は作る側ですが、映画を観るということは、エネルギーと智恵がいる。こんなにしんどいのに、なぜ映画とを作るのか、見せるのか考えさせられる4日間だった。
小川紳介賞 : 『ブアさんのござ』 ズーン ・モン・ トゥー監督 2011年 / ヴェトナム
審査員講評:苦しみの記憶と歴史を、簡潔かつ鋭い表現で果敢に示したことに対して。
監督受賞コメント : まったく受賞するなんて想像できなかった、映画を作った時に、受賞を狙って申し込んだのではなく、ベトナムの戦争で今まで知られなかったことを知らせたかっただけです。今回の、映画祭にエントリーした時に、世界の方々に見ていただきたいというだけで申し込みました。スタッフにこの喜びを持ち帰ります。
奨励賞 : 『怒れる沿線:三谷(さんや)』 陳彦楷(チャン・インカイ)監督、菜園村の人々 2011年 / 香港
審査員講評:市民の権利と発展は両立しないと主張しつつ強権的に政策を進める国家を前に、住民たちの土地への愛情、故郷がなくなることへの恐れを見事に描いたことに対して。
監督受賞コメント:ありがとうございます。山形でいい経験をさせてくれた、いい勉強になりました。
『モーターラマ』 マレク・シャフィイ、ディアナ・サケブ監督 2012年 / アフガニスタン
審査員講評:アフガニスタンにおいて抑圧を受けている女性の権利を扱いながら、当地の父権制や保守的な宗教観へ果敢にまなざしを向けたことに対して。
特別賞 : 『戦争に抱(いだ)かれて』アッジャーニ・アルンパック 2013年 / フィリピン
審査員講評:ひとつの家族の中、また国家の中でイスラム教とキリスト教を対置させ、なぜ家族には平和が存在し、なぜ国家にはそれがないのかを、興味深く描いたことに対して。監督受賞コメント:ありがとうございます。作品の中に出てきた人が、来られなくて残念。彼らは、私が、撮ったことに感謝してくれている、そして、観客の皆さんから力を得られることを願っています。一人のドキュメンタリー製作者として小川紳介さんから、影響を受けていたので、この山形に来られてうれしい。そして、多くの人との交流ができてよかった。
《市民賞 》
映画祭期間中に募った、観客によるアンケート集計の結果、授与する。 ・記念品を授与
『パンク・シンドローム』ユッカ・カルッカイネン、J-P・パッシ 2012年 / フィンランド、ノルウェー、スウェーデン
『標的の村』三上智恵 2013年 / 日本
《コミュニティシネマ賞》 Community Cinema Award 一般社団法人コミュニティシネマセンター
多様な映画の上映を通して、地域社会に豊かな映像文化を根付かせるため各地での活動を支援する コミュニティシネマセンターによる賞。地域で上映活動を行う人たちが審査員となり、「いちばん観客に見せたい映画」を選ぶ。 受賞作品には、国内上映を支援する経費として副賞が授与され、国内での上映に対する協力も行う。 ・賞金30万円
『何があったのか、知りたい(知ってほしい)』エラ・プリーセ、ヌ・ヴァ、トゥノル・ロ村の人々 2011年 / カンボジア
《日本映画監督協会賞 》Directors Guild of Japan Award 日本映画監督協会
70年の歴史を持ち、1960年から協会新人賞によって国内の未知の才能を発掘・応援し続けてきた日本映画監督協会が、 映画の可能性を示す国内外の新しい力とのさらなる出会いを願って設置した賞。
この賞は、日本映画監督協会が独自の視点で「アジア千波万波」「日本プログラム」の作品を審査対象として選ぶものである。 その選考基準は、現在置かれている様々な国の状況や困難を乗り越え、完成させた熱意ある作品であり、次回作に期待が持てる監督であること。受賞監督には日本映画監督協会賞の賞状、トロフィーおよび金一封を贈る。 今年の審査員は、原一男(審査委員長)、すずきじゅんいち、山本起也、関口祐加、入江悠。 ・賞金30万
『標的の村』三上智恵 2013年 / 日本
Special Mention 『愛しきトンド』ジュエル・マラナン 2012年 / フィリピン
《スカパー! IDEHA賞 》Sky Perfect IDEHA Prize スカパーJSAT株式会社
スカパーJSAT株式会社がドキュメンタリー映画作家の育成を支援し、新作の制作を奨励する賞。
日本の新進ドキュメンタリストで次回作が最も期待される監督に賞金を授与する。 インターナショナル・コンペティション、アジア千波万波、日本プログラムの各プログラムで上映される日本映画の監督を対象とし、 日本映画が世界に羽ばたくきっかけとなればと願う。今年の審査員は、パオロ・ベルトリン(ヴェネチア映画祭、ヴィジョン・デュ・レール)と映画監督の梁英姫(ヤン・ヨンヒ)。 ・賞金100万円
『オトヲカル』村上賢司 2013年 / 日本
『うたうひと』酒井耕、濱口竜介 2013年 / 日本
YIDFF 2013 インターナショナル・コンペティション審査員
足立正生 (日本、映画監督) Adachi Masao
ラヴ・ディアス(フィリピン、映画監督) Lav Diaz
ジャン=ピエール・リモザン(フランス、映画監督) Jean-Pierre Limosin
アマール・ムハマド (マレーシア、映画監督) Amir Muhammad
ドロテー・ヴェナー (ドイツ、映画作家・キュレーター) Dorothee Wenner
●インターナショナル・コンペティション 審査員総評
選考は、スムーズに進んできました。審査の基準があるわけではないが、いかにこの作品に向き合い、真面目に作り上げていたかをみてきた。
『山形国際ドキュメンタリー映画祭2013』
2013年10月10日-17日
公式サイト http://www.yidff.jp/home.html