『さすらいの上映会』@名古屋シネマスコーレ


みんな、ここから覗いたんだな
--『さすらいの上映会』鑑賞記--

2013年5月13日PM6:40、名古屋シネマスコーレのシートは半数が埋まっていた。
無名に近い若手監督だけで呼べる人員ではない。

「ひょっとすると将来、「あの有名な監督がまだ駆け出しだった頃、俺名古屋で観てやったんだ」って言える、かも知れない…そんな上映会です」

壇上で快活な笑い声をマイクに通すこの人がいてこそ、平日の夕方わざわざ映画ファンが劇場に集まったのだ。かつての“ミスター文部省”、近作では『戦争と一人の女』を制作した映画評論家、寺脇研その人である。(画像:上)

『さすらいの上映会』……京都造形芸術大学のOB2名が撮った短編映画を上映する、一夜限りの特別プログラムである。
寺脇さんは、京都造形芸術大学の教授でもあるのだ。

「大学3年生の時から『月世界旅行社』って言うチームを組んで、自分達でつくった映画を映画館に営業かけて1週間興行したりしていました。京都での上映イベントに『神戸100年映画祭』のご年配の関係者の方々が来てくれて「自分たちの映画祭にも若い人を呼び込みたい」と相談されまして、「ぜひ一緒にやらせてください!」と。最初は自分たちが過去撮った作品を上映するだけだったんですけれど、映画祭で新しい作品を生み出してみようかって企画が走り出しまして。僕の作品は、そんな経緯で撮り始めた映画です」

寺脇さんに促され話し始めたのは、『さよなら、さよなら、さよなら』の片岡大樹監督(画像:中央)だ。神戸と言えば、かの淀川長治氏の出身地。『神戸100年映画祭』でも、淀川氏ゆかりの企画上映が組まれている。
…なるほど…このタイトルの由来は…。

「シナリオも自分で書きました。スタッフはほとんど人がいなかったので、装飾もロケハンもほぼセルフでやりました(笑)神戸に乗り込んで撮っていたので機材もなくて…夜のシーンは車のハイビームを銀の板で返したり、みんなで懐中電灯たくさん持ち寄ったり…」片岡監督は笑ってみせた。制約が多い中、『さよなら、さよなら、さよなら』を練られたシナリオ構成がキラリと光る好篇に仕上げてみせる手腕は、注目に値する。片岡さんは監督業に拘らず映画を生業としていきたいそうで、話題作『彌勒 MIROKU』では配給宣伝の代表を務める。

「キャラクターを考えてるうちに西部劇になっちゃいまして、あんまり大変な企画やから卒業制作にしようと思いまして。一年ぐらいは放っておいて…温めておいてたんです(笑)主演の牛丸亮さんは『戦争と一人の女』に出られてて、出番を観ながら「いいなぁ」って思ったんです…僕は4th助監督だったので。すぐに控え室に行ったんです…で、出演交渉を(笑)」

『さすらいのジャンゴ』の並河真也監督(画像:下)は、そんな裏話を明かしてくれた。なんとこの作品、西部劇なのだ。しかも、海外ロケを敢行しているのだ…アリゾナ州トゥーソンで!

「スタッフが優秀だったんで、何もやらなくても進んでいく感じで(笑)ちゃんとした劇映画の監督は初めてで、あんなにたくさんスタッフが付くのも初めてだったんですけど、人数の多さを気にしたことはなかったですね」並河監督の言葉に、寺脇さんは「なかなか監督の器じゃない!」と茶化してみせたが、本気半分の台詞だったと思う。『さすらいのジャンゴ』は、並河監督の自由闊達な発想を投映した怪作となっている。そんな監督は、現在アルバイトで凌ぎつつ次回作を企画中だとか。

「若い人は、映画をつくると出来ただけで満足しちゃう。…で、そのまま消えてしまう。それじゃ、いかんのですよ」寺脇さんは、上映会の趣旨を熱っぽく語る。それは、若い二人だけでなく、客席を埋める観衆をも巻き込む一陣の熱風となった。

「色々な形式で実験的な上映会をやりたいと思ってまして…次は、お金を観た後に払ってもらうようにしようかな…100円単位くらいで、「いくらの価値があった?」って(笑)」
この上映会は名古屋の後も地方を巡るそうなので、今後の予定を要チェックだ。

「名古屋では時間的な制約があって出来なかったんですが、もう一本ドキュメンタリーがあるんですよ。実はこれを合わせて観てもらうのが一番いいバランスなんで、今後の上映会は3本でプログラムを組む予定になってます」

嗚呼…寺脇先生、それは観客の前で言って欲しくなかったです(笑)
今後の上映会が、本当に羨ましい限りである。

取材・文 高橋アツシ

・月世界旅行社 公式HP http://gessekai-ryokousya.com/index.html
・『彌勒 MIROKU』http://0369.jp/
・『さすらいのジャンゴ』予告編 http://youtu.be/Ys1Y9dxUtQM
・京都造形芸術大学 映画学科 公式HP http://www.kyoto-art.ac.jp/production/?author=9

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