誰もがのぼってゆく、大人の階段『まく子』レビュー



昨日まで好きだったことが今日には興味を失ってしまったり、何とも言えない違和感や煩わしさが心身を襲う。大人になりたくないという叫びに逆らうかのごとく、アイツは容赦なくやってくる。そう、人はそれを思春期と呼ぶ。

温泉街で旅館を営む両親の息子・サトシ(山﨑光)は小学5年生。浮気をしている父(草なぎ剛)を軽蔑する一方で、自身に起きている変化に葛藤の日々を送っている。ある日、住み込みの仲居として入ってきた女性の娘・コズエ(新音)と出会い、同じ学校に通うことになる。友達からは冷やかされながらも、あまりにも馴れ馴れしいコズエが気になってしまう。学校帰りに「ある星から来た」と秘密を打ち明けられ、驚くサトシだが――。

直木賞作家・西加奈子の著書の中でも、異色と言われている同名小説を実写化した本作は、山と川に囲まれた自然豊かな群馬県の四万温泉で撮影。のどかな温泉街で繰り広げられるファンタジーであり、どこかノスタルジックな雰囲気のなか、子供だってあたり前のように悩んで迷って、懸命に生きている姿が描かれている。

悪い見本となる大人への苛立ちをぶちまけ、成長に戸惑う主人公・サトシを演じるのは『真夏の方程式』で好演を見せた山﨑光が堂々とやり遂げ、役者としての今後がさらに楽しみな逸材と言えるだろう。また、天真爛漫でミステリアスな少女・コズエ役の新音(にのん)はモデルとしても活動しており、独特なたたずまいが役と見事にマッチしている。

さらには、サトシの父・光一を演じている草なぎ剛は、女好きで無頓着な父親という役柄で新たな境地に挑んでいるが、サトシに嫌われながらも男同士だから理解できる感覚で絆を保ち、不思議と憎めないキャラクター。言うまでもなくスクリーンで圧倒的な存在感を放っている。そのほかにもベテラン勢の須藤理彩やつみきみほに加え、村上純(しずる)が風変わりな青年役で脇を固めている。

「ある星から来た」と言われて、馬鹿げていると軽くあしらうことが当然のようだが、その感覚はきっと大人。大人になってしまったことでいつからか疑いが先行し、すんなり受け入れる素直さを忘れてしまっただけと痛感する。そんな忘れ物が劇中のあちらこちらにまき散らされており、まるで子供だった時代に巻き戻される錯覚に陥るだろう。

文 南野こずえ

『まく子』
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)
2019年3月15日(金) テアトル新宿ほか全国ロードショー

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