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I Love You…OK!『モヒカン故郷に帰る』レビュー


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『南極料理人』(2009年/125分)『横道世之介』(2013年/160分)『滝を見にいく』(2014年/88分)の沖田修一監督待望の新作『モヒカン故郷に帰る』がいよいよ公開となる。
軽妙な会話劇“沖田節”は今作品でも健在で、笑って、苛立って、泣いて、ほっこりする……心が満腹になる、ハートフル・ヒューマン・コメディだ。
今回、沖田監督が物語の舞台として選んだのは、広島県。『モヒカン故郷に帰る』は、瀬戸内海の四島を架空の離島“戸鼻島(とびじま)”として撮影されたオール広島ロケのリージョナル・ムービーである。

広島名物と言えば……牡蠣、もみじ饅頭、お好み焼き、厳島神社、宮島の鹿、しゃもじ、広島東洋カープ……そして、矢沢永吉!

『モヒカン故郷に帰る』Story:
酒屋『田村商店』の店主・田村治(柄本明)は、広島カープ狂の妻・春子(もたいまさこ)と瀬戸内海に浮かぶ戸鼻島で暮らしている。中学校の吹奏楽部のコーチをしているが、77年日本人初の武道館ライブを観に行くほどの矢沢永吉ファンが高じて、演奏させる楽曲は自ずと“YAZAWA”である。
緑色のモヒカンがトレードマークの田村永吉(松田龍平)は、東京でバンド【断末魔】のボーカル(デスボイス)を担当している。同棲している彼女・会沢由佳(前田敦子)の妊娠を機に、7年ぶりの故郷・戸鼻島へ帰ってきた。
父母、そして自立したものの永吉と違いちょくちょく帰郷している弟・浩二(千葉雄大)と久しぶりに再会し、由佳との結婚を報告する永吉。碌に定職にも就いていない永吉の様子に治は激怒、大喧嘩となる。どうにか酒を酌み交わす運びとなるものの、宴会の最中に父が倒れてしまう。担ぎ込まれた島の病院で、医者・竹原(木場勝己)は治の肺癌を告げる。
永吉と由佳はしばらく島に滞在し、店を手伝いつつ治の望みを聞くことにする。「なんでも来い!」と言いながら、「髪を切れ!」と言われると断固拒否する永吉だったが、父が書いたメモを見て絶句する。
「えーちゃん
 にあいたい」
さあ……どうする、モヒカン――!?

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親との別れと言う重いテーマを扱っていながら、沖田修一監督の脚本はどこまでも軽妙だ。沈みすぎず、さりとて浮かれすぎず、恰度いい深度で物語は進む。そして、笑いに流されず、さりとてお涙頂戴に偏らず、恰度いい位置で物語は漂う。この“恰度よさ”、バランス感覚こそが沖田監督の真骨頂である。広島が舞台となっている『モヒカン故郷に帰る』だが、この浮遊感はまるで瀬戸内の海のようだ。
そして、出演者が熱演を以って全力で応える。松田龍平は『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』(監督:松尾スズキ/2015年/121分)の時も思ったのだが、コメディでも輝く。父・松田優作の『家族ゲーム』(監督:森田芳光/1983年/106分)を髣髴とさせる、素晴らしい飄々とした演技を見せる。“親父”だって負けてはいない。白のスーツで「Why、何故に?」「YAZAWAは、広島県民の義務教育です」なんて台詞、柄本明でなければ様にならない。また、前田敦子ともたいまさこの嫁姑関係は、この作品の裏テーマだと思う。この二人の距離感、空気感を、是非お観逃し無く。更に、吹奏楽部員の中学生たちにもご注目を。いつしかモヒカンを“慕う”ようになる野呂くん(小柴亮太)など、若き演奏家たちの変化は、作品のクライマックスとも言える。

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音楽にも、ご傾聴を。数々の永ちゃんサウンドは言わずもがな、モヒカンが所属するデスメタルバンド【断末魔】の本格的な演奏を聴き逃しては勿体ない。劔樹人(【あらかじめ決められた恋人たちへ】)のベース、大竹康範(【あらかじめ決められた恋人たちへ】)のギター、矢澤孝益(【sajjanu】【LAGITAGIDA】)のドラム……本格的なのだ。ここに松田龍平のデスボイスが、意外や意外、ハマるのである。そして、クリテツ(【あらかじめ決められた恋人たちへ】)の演奏をお聴き逃しなく。楽器は、なんとテルミンである。
また、エンディングテーマにも耳を傾けてほしい。沖田監督のメモ書きを原作詞に、細野晴臣が書き下ろし自らが歌唱する『MOHICAN』。波を割って進むスロー・ボートのような楽曲に、永吉が頑なにモヒカンを切りたがらない理由めいたものを想像させる歌詞が乗る。まさに、この映画に相応しい名主題歌だ。

“見る”、“聞く”だけでなく、春子から由佳へ伝授される家庭の味(想像を誘導する台詞が心憎い!)を“味わう”ことが出来て、柑橘系の果実の匂いを運ぶ瀬戸内からの潮風を“嗅ぐ”ことが出来、愛する人の中に宿る生命の胎動に“触る”ことが出来る。
沖田監督の作品は――勝手に命名してしまうが――“脳内補完4DX”である。

親とお別れした人、お別れ出来なかった人、これからお別れする人――即ち、全ての人たちに、お薦めしたい映画『モヒカン故郷に帰る』は、3月26日(土)より地元・広島で先行公開が、4月9日(土)より全国ロードショーが始まる。
見て、聞いて、味わって、嗅いで、触って……125分、極上のハートフル・エンターテイメントを“感じて”ほしい。

文 高橋アツシ

©2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会
3月26日[土]広島先行、4月9日[土]テアトル新宿・センチュリーシネマ他にて全国拡大公開

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