小さな町から“世界”を垣間見る『牡蠣工場』初日舞台挨拶


IMG_0026『牡蠣工場』の初日舞台挨拶が行われ、想田和弘監督が登壇した。(2016年2月20日 シアター・イメージフォーラム)

想田和弘監督の観察映画第6弾は、瀬戸内海にある美しい町、岡山県・牛窓(うしまど)が舞台。日本でも有数の牡蠣の生産地だが、近年は過疎化による労働力不足で、中国人労働者を迎えた工場もある。牡蠣工場という視点から、グローバル化や少子高齢化、過疎化、東日本大震災の影響など、さまざまな問題が浮き彫りとなって見えてくる作品だ。

なぜ、今作では牡蠣工場が舞台なのか。その理由について想田監督は、「プランせずに行き当たりばったりで撮るのが観察映画のスタイル」。そのため、牡蠣工場を撮る予定はなく、「最初に興味を持ったのは漁師の世界だった」と話す。kaki_main
想田監督の妻・柏木規与子の実家が牛窓にあり、夏休みなどで遊びに行くなかで、漁港で漁師たちとの交流がはじまった。漁師の多くは70〜80代の高齢者が多く、後継者がいないどころか魚も減少しているという話を聞く。そうした牛窓の現状を知った想田監督は、「10年、20年後には牛窓から漁師がいる風景が失われるのではないか」と思い、“いまを撮っておきたい”という気持ちが今作を撮影するきっかけになったと話す。そして、これは牛窓に限った話ではなく、日本全国で漁師という職業が“絶滅危惧種”になりつつあるのではないか、と考えたのが作品の着想になる。

そのときに話を聞いた漁師が撮影を許可してくれて、2013年11月から撮影を開始。11月は牡蠣をむくシーズンだったため、漁師から牡蠣工場を案内された。当初は船で魚を獲る漁師をイメージしていたが、想田監督の観察映画は「アクシデントを歓迎して撮る」スタンス。牡蠣工場を観察したときに一体何が見えてくるのか、という順番で撮影が進められた。kaki_sub2

想田監督作品のアイコンでもある「猫」は今作でも登場。「猫が来たら、撮らないという選択肢はない(笑)」と話すほどの愛猫家で、最初は可愛いと思って撮っていただけの猫も、徐々にその猫がメタファー(暗喩)としての存在に見えてきたと話す。
「よその飼い猫なんだけども、別のお家に入ろうとする。猫が来てくれるのはとても嬉しいが、うちの子になってもらうのは困ってしまう。それが、牡蠣工場で出会った中国人労働者と重なって見えてきた」と、作品中に登場する猫の思いがけない重要な役割を語る。IMG_0016

撮影後に編集をしていると、想田監督は現代社会の「歪んだ価値観」について気づいたという。
想田監督の父は栃木県足利市でマフラーやストールを作る会社で働き、想田監督はその会社を継ぐつもりがなく、父からも継いでほしいと言われたことがなかった。「僕たちは子どもの頃から、いい学校、いい会社に入ってホワイトカラーになりなさい、という一つのメッセージを社会から受け取り続けてきたのではないか」。本来なら漁師や農家、マフラーを作る仕事など、さまざまなメッセージがあってもいいはずなのに、そうしたメッセージを受け取ってこなかった気がすると過去を振り返る。第1次・第2次産業は待遇や社会的ステータスが低く、第3次産業はそれらがなぜか高いのが現状。しかし、社会にはさまざまな職業が必要とされ、待遇や社会的ステータスも同様でなくてはならないはずだが、現状はそうなっていない。IMG_0015
そうした「歪んだ価値観」の構造のなかで、無自覚に自分自身も生きていたことに気づき、想田監督はショックを受けたという。これは日本だけの話ではなく、「文明の病と言えるのではないか」。自戒を込めながら、グローバル化が急速に進む現代社会の影を指摘した。

舞台挨拶には、想田監督の『選挙』『選挙2』にも出演した元市議会議員の山さんこと、山内和彦が息子の悠くんとともに花束を持って“乱入”し、会場を賑わせた。山さんは「今作もみなさんの口コミだけが頼りなので、よろしくお願いします(笑)」と笑いを誘った。

取材 吉田遊介

『牡蠣工場』
監督・製作・撮影・編集:想田和弘 製作:柏木規与子
配給:東風+gnome 2015/日本・米国/145分/DCP
2月20日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開中、ほか全国順次公開
(C)Laboratory X, Inc.
公式HP:http://www.kaki-kouba.com

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