地方議会のある実態を描いたドキュメンタリー『能登デモクラシー』レビュー


能登半島中央部の石川県穴水町。人口減少が進んでいる、7000人に満たない限界集落だ。元・中学校教師の滝井元之さんは穴水町在住。2020年から手書きの新聞『紡ぐ』を発行している。町が推し進める利益誘導型政策や未来に警鐘を鳴らすことを目的として。

本作『能登デモクラシー』は、石川テレビの五百旗頭幸男監督にとって、『はりぼて』『裸のムラ』に続く劇場公開3作目。前2作同様、誰もが触れなかった地方政治の闇に迫るドキュメンタリー。滝井さんへの密着取材によって浮かび上がる、正常な民主主義とはほど遠い町議会の現実をしっかりと映している。

滝井さんは妻と7匹の猫たちと暮らす、穏やかな人物。カメラが回っていないところでも、あまり変わらなかったという。町長や町議会議員に意見する際、喰ってかかるような態度は取らない。能登半島地震によって断水が起こったときでも、町役場が動き出す前に、住民たちと黙々と工事に取り組んでいた。滝井さん曰く、「(穴水町には)待ちの文化が根強くあるように思います」「流れにまかす消極的な生き方とも言えます」とマイペースを貫いている。

登場人物である歴代町長や議員なども、滝井さん人同様にマイペースというか掴みどころがない。町議会議員の平均年齢は72.9歳。県内最高齢の議員もいる。ほとんどの議員からは覇気が感じられない。

五百旗監督が町長や議員に疑問を投げかけても、のらりくらり。指摘された間違いを認めても、どこかとぼけた対応。この過疎の町では、得体のしれない暗黙の了解がまかり通っている気がしてならない。
監視するべきメディアや町民の関心が薄い点も問題だ。それでも滝井さんと五百旗監督は、無関心という民主主義の敵と相対峙する。映画で描かれているふたりの奮闘ぶりには、心を揺さぶられるであろう。同時に歯がゆさを感じながらも。

文 シン上田

『能登デモクラシー』
配給・宣伝:東風
2024年5月17日(土) ポレポレ東中野、5月24日(土)シネモンド、6月21日(土)キネマ旬報シアター他
全国順次公開

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