感涙必至の老夫婦ドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』レビュー
認知症の母親と耳が遠い父親の暮らしを、東京で働くひとり娘の信友直子監督が描いたドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』。2018年に劇場公開されると、異例のロングランを記録。約100館まで上映館が拡大し、動員20万人を超える大ヒットとなった。
その続編となる『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』。信友家に起こるさまざまな試練、コロナ禍における介護、90歳を過ぎた夫婦間の物語などが描かれた秀作である。
前作がヒットした大きな要因は、信友家を通して認知症、介護といった誰の身にも起こり得る問題が普遍的な物語として受け入れられたからだ。さらに本作では、終活、看取り、延命治療などのテーマが加わる。
2018年公開後、認知症がさらに進んだ母は、脳梗塞を発症。入院生活を余儀なくされた。その最中に起こったコロナ騒動によって、2020年3月以降、母との面会は難しくなり、やがて延命治療に直面する。
突きつけられた現実はとても厳しく、重苦しい場面も出てはくるが、後味の悪さは不思議とない。むしろ反対である。父の存在が何よりもそう感じさせてくれるのだ。
ひとり暮らしとなった父は、入院している母を励ましに片道1時間かけて通った。そして、
母が帰宅する日に向け、98歳にして筋トレを開始したのである。2020年時点、父は98歳。父はひたむきで明るい。前向きに生きる姿勢が、作品に希望をもたらしたといえよう。
物語の柱に認知症による老々介護問題があるため、深い悲しみを禁じ得ないだろう。同時に、長年連れ添った夫婦の強い絆に心打たれるに違いない。月並みな台詞だが、ハンカチはお忘れなく。
文 シン上田
『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』
配給:アンプラグド
©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会
2022年3月25日(金)より全国順次公開