夏の終わりは秋のはじまり『東京の恋⼈』レビュー
コロナの影響で外出自粛が続き、家で過ごす時間が多くなった。普段はしなかった料理に挑戦したり、ストレッチをやったりと、限られた空間の中でできることを探しただろう。そして、断捨離をした人も多いはずだ。クローゼットをひっくり返し、写真や手紙を見つけては忘れていた思い出に浸り、箱に戻すのではなくゴミ袋へと入れる。言わば、過去との小さなお別れ。
昔の恋人から写真を撮ってほしいと連絡があった立夫(森岡龍)は、甘い誘惑に期待を抱きつつ、スーツを着替え、結婚指輪を外し、東京へと向かう。大学時代にお世話になった先輩に会い、映画を撮っていた頃の話に花を咲かせながらも、互いに結婚した近況も報告する。今はサラリーマンだが、脚本コンクールで入選するほどの腕前だった立夫。ベロンベロンに酔っ払った先輩を担いで街を歩く。
翌日、昔の恋人・満里奈(川上菜々美)と再会し、車で海へと向かう。まるで2人の夏の終わりを告げるように、ひと時のアバンチュールがはじまる――。
なんとなく90年代の雰囲気と哀愁を漂わせる本作は「東京60WATTS」が奏でる楽曲たちの存在が非常に大きい。シーンを色鮮やかに発色させ、より一層の深みと心地よさを生み出している。それもそのはず、音楽と映画の祭典「MOOSIC LAB 2019」にて松永天馬賞を受賞し、さらには満里奈を演じた川上菜々美が最優秀女優賞に輝いている。
どこか腑に落ちずにいた未練と罪悪感の決別のために、秘密の時間を惜しみながら過ごし、現在と過去の交錯の隙間で男女の違いを垣間見る。物は捨てることで清算できるが、気持ちの清算ほど厄介なものはないと改めて感じる。メガホンを握った下社敦郎監督は「『東京の恋⼈』は敗残者の映画であると思う」と語っており、その言葉に妙に納得した。
昔の仲間に会うと、普段は意識していなかった瞬間的な感情や記憶の波が余韻のごとく押し寄せる。夢を追いきれずに向き合った現実のなかで、どの選択が正しいかなんて誰も教えてくれやしないが、それでも先へと進まなければならないことを見せつけられるだろう。
文 南野こずえ
『東京の恋⼈』
©2019 SALU-PARADISE/MOOSIC LAB
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
6月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー