長澤まさみ、演じた役は“本当にひどい人”『MOTHER マザー』完成披露舞台挨拶
社会から取り残された親子を残酷に描いた『MOTHER マザー』の完成披露舞台挨拶に、主演の長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、大森立嗣監督が登壇した。(2020年6月15日 スペースFS 汐留)
シングルマザーの秋子は息子の周平と暮らしているが、実家に金をせびりに行ったりと、まともに働く気がない。さらにはゲームセンターで出会ったホストの遼と意気投合し、周平を置き去りにしたまま帰ってこない日々。そんな中、秋子の妊娠が発覚すると、リョウは去ってしまう――。
救いようのない身勝手な男女と、歪んだ環境の中で育っていく子供の成長を描く本作は、「第43回日本アカデミー賞」にて最優秀作品賞をはじめとした3部門に輝いた『新聞記者』の河村光庸プロデューサーが、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」から着想を得て制作した物語となっている。
秋子を演じた主演の長澤は「久しぶりの公の場ということで、とても嬉しい気持ちです」と挨拶し、オーディションで選ばれ、映画初出演となる現役高校生の奥平は「すごい緊張するのかなと思っていたら思った以上に緊張しなくて。逆に困ってます」と大物ぶりを発揮。
ようやく映画館も再開しはじめ、本作でメガホンを握った大森監督は「僕は映画を作るしか能がないので何もできないのですが、映画も生き延びていくしかないなと思って自粛していました。このまま公開が無事できることを願っています」と切実な思いを語った。
秋子の内縁の夫であり、ホストの遼を演じた阿部も「嬉しいですね。外に出られることが嬉しくなってきた時期だったので。人と会うのってほんといいな」と心情をあらわにした。また、今回のイベントはソーシャルディスタンスを用いており、登壇者はもちろん、一定の距離を保った形で客席がマスコミだけで埋まっているため、「こっち(壇上)から見る景色を一生忘れないと思いますね」と続けた。
長澤は「映画が公開できると聞いてとても嬉しかったです。もしかしたら、今年公開できないんじゃないかなと思っていたので。この映画は、沢山の方に待っていてもらっているということを実感していた作品だったので、こんな時期ですけど、映画館も開いてきましたし、ぜひ映画館の方で。もちろん自分の体調と相談しながら映画館で観てもらえたらいいなと思っていますね」と呼びかけた。
ステイホーム中の過ごし方を聞かれた阿部は「ラーメンの作り方とかを勉強してました」と言いつつも「続かないんですよ。続くタイプではないことがわかりました。『鬼滅の刃』も4巻で止まってます」と流行に乗ったものの、長続きしないタイプと自覚したようす。さらには「続いたものは?」と長澤から問われると「煮卵の作り方」と答えて笑いを誘った。いっぽう、長澤自身は「映画を観たり、ドラマを見たり。料理もしました。いつもより丁寧に料理を作っていました」と明かした。
実際に起きた事件から生み出され、重い題材の本作だが、出演しようと思った理由について「私自身も母から受けた影響がとても大きいなと感じるところがありまして。親が子を作るということをすごく考えさせられたし、大人には責任があると考えた時に、ひとごとに感じない思いが生まれて演じてみたいなと私は思いました」と役を引き受けた思いを吐露した長澤。
また、演じてみての感想を「本当にひどい人なんで。こんな人いたら嫌だな」と長澤が自身の役を振り返って話すと、阿部も「僕も今まで、こんなひどい人をやったことがないなって。この役に関しては、ふざけんじゃないという人になりたいなって思った。秋子役が長澤さんということで、長澤さんもこういうイメージがなかったから、秋子って人の側に行ってみたいなと思ってやりました」とコメントした。
初共演となる2人だが、共演の感想を「すごいですね、長澤まさみって。最後のシーンの長澤さんの顔が怖くて印象に残ってます」と阿部は話し、長澤は「いつか共演してみたいと思っていた1人なので、夢が叶ったという感じでとても嬉しかったです。阿部さんは何でもできるスーパーマンという感じです。私にとっては。そんなイメージないですか?」と述べると、阿部が奥平を見て「いや、若い俳優が笑ってる」と突っ込みを入れた。
秋子に忠実な息子・周平を演じた奥平は、自身だけが映っているシリアスなシーンで「阿部さんが笑わせようとしてきた」と暴露すると、「そういうことをする俳優はあまり好きじゃないから。やってないと思う」と阿部の無理な弁解に会場はどっと沸き、また、長澤の印象を「実際会った時にすごい顔が小さくて、かわいかったんで、まともに目を合わせられなかった。すごい緊張した」と奥平は興奮気味に話した。
最後の挨拶では「久しぶりの映画館で映画鑑賞がこの『MOTHER マザー』という作品になればいいなと思っています。もちろん無理ない程度に映画館に行って少しでも気分を変えてもらえればいいなと思いつつ、なかなかハードな作品なので、観た後に何か感じ取ってもらるようなメッセージのある作品に仕上がったと思います。ぜひ映画館の方に足を運んでください」と長澤は語った。
阿部も「コロナがあって、人が人を救うには簡単なことで、ステイホームで家にいれば人を救えるというのがありましたけど、ちょっとしたことで人を救えるんだなというのが分かるような映画だと思うんですよね。この機会にぜひ観ていただきたいと思います」と呼びかけた。
取材・撮影 南野こずえ
『MOTHER マザー』
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(C)2020「MOTHER」製作委員会
7月3日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開