衝撃のラストとしか言えない『横須賀綺譚』大塚信一監督インタビュー


ラーメン屋で働いて家族を養いながら、1本の映画を完成させた大塚信一監督。遅咲きではあるが、人としての責任と映画への信念を持って挑んだ『横須賀綺譚』がいよいよ公開となる。本作には『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督も監督補として関わっており、撮影現場でのエピソードや作品に込めた深い思いをうかがうことができた。何よりも公開後の反響が非常に楽しみな作品。予想外の結末を、ぜひ目で耳で確かめていただきたい。

Q. 『横須賀綺譚』制作の経緯や理由を教えてください。
大塚監督 映画学校には通っていないのですが、長谷川和彦監督の助監督を数年やりました。助監督といっても、何しろ20年間映画を撮っていない監督の助監督だったので(笑)、現場経験はありません。人の紹介で一度だけ制作進行として参加したことくらいです。過去に1本撮ったのですがお蔵入りになってしまい、その後5年ほど前に短編を撮ろうと思い、それが膨らんで今回の長編になりました。制作理由としては色々ありますが、子供が生まれることも1つのきっかけとして、映画を撮ろうと思いました。

この映画はSFなのか社会派なのか、どのジャンルとして観ればいいのかが不安定なので、面白い試みだと思ながら制作していました。撮影自体は2018年で、1年後の2019年の3月に追加撮影をしました。同年の7月にカナザワ映画祭で初上映しました。

Q. ラーメン屋で働きながら映画を制作したとのことですが、どのようなスタンスで挑みましたか?
大塚監督 今さら映画だけでは食べていけないですし、生活費を稼ぐのとは別のところで映画を撮ることが出来るので、どうせ撮るのならこころざしの高さはだけは持っていたいと思います。その心構えは、長谷川監督の撮りたいと思った物へのこだわりやこころざしから学びました。

Q. 40歳という節目になりますが、宣言したいことはありますか?
大塚監督 映画を撮り続けることですね。家族を養う責任もあるので頻繁には撮れないですけど、数年に1本は撮りたいです。これを撮ったから終わりではないですし、撮り続けることは大事かなと思いますね。

Q. 『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が監督補として関わっていますが、経緯を教えてください。
大塚監督 シナリオを学びたいと思ってシナリオ講座に通ったんですけど、そこで知り合いました。上田君は『カメラを止めるな!』 、僕は『横須賀綺譚』の脚本をその時に書いていました。喫煙所で「映画学校に通っていないから、助監督とか制作関連の知り合いがいない」という相談をしたら「僕、やりますよ!」と言ってくださったんです。

本作の撮影が2018年の3月で、6月に『カメラを止めるな!』が公開して、瞬く間にヒットして。あれだけ大きな功績を残したので、きっと色んな大人が近寄ってきたと思いますが、その後の作品でも自分のやり方を通したのは上田君らしいですし、人間としても素晴らしい方です。

Q. 撮影現場では、上田監督はどのような動きをされていたのでしょうか?
大塚監督 助監督をやっていただいたんですけど、撮影現場が上手く進まない時に、隅っこで僕が悩んでいると上田君が近づいてきて。僕の考えを話すと「いいと思います!」と言ってくれて。話を聞いてくれることで考えがまとまるという場面が多々あり、精神的なフォローをしてくれました。本当にいい方なんです。

Q. 烏丸せつこさん、川瀬陽太さんといったベテラン俳優が出演していますが、キャスティングについて教えてください。
大塚監督 基本的には、ひとりひとりと直接交渉をしました。以前の撮影でお世話になった烏丸さんは、僅かな役にもかかわらず「いいよ!」の一言で快諾してくださって。

川瀬さんは昔からの知り合いなんです。川瀬さんが『ヘヴンズ ストーリー』のチケットを手売りしていて、チケットを渡しにラーメン屋に来てくれたことがあるんですけど、僕とパートの女性が仕事をしていたんです。入店してきた川瀬さんが僕に話しかける前に「大塚君と話がしたいので、お時間をもらっていいですか」とパートの女性に許可を取っていて。人を選ばずにきちんと筋を通す姿に感激しましたし、尊敬しています。

Q. 冒頭で主人公の春樹(小林竜樹)は、恋人の知華子(しじみ)から別れ際に「愛のない、薄情な人」と言われますが、その言葉とは裏腹な行動を取りはじめます。キャラクター設定を通して訴えたかったことはありますか?
大塚監督 30代半ばの設定なんですけど、男性は自分がこれからやれることがだいたい見えてきて、青年から中年に差しかかり、立ち止まって振り返る時だと思うんです。本作のコピーに「~幽霊に会いに行く~」とありますが、幽霊って亡くなった人だけを表している訳ではないんですね。

別れた恋人が震災で死んだという設定ですが、「あの時、一緒にいたらどうなっていたのか」といったような、様々な場面での「違う選択の可能性」も含めていて。そう考えると僕たちは無数の幽霊に囲まれて生活をしているし、幽霊という可能性があるからこそ、人との共感が生まれると思うんです。

Q. ラストについてですが・・・とにかく驚きましたし、正直戸惑いました。次の作品が観たいと思いました。多くは語れないと思いますが、ネタバレにならない程度にヒントをお願いします。
大塚監督 うーん、難しいですね。コロナの影響による自粛期間中って、予想していなかった現実がいきなり訪れて、色んなことがあやふやになり、境界がわからなくなりましたよね・・・。という感じで、ネタバレなしでは表現できないので、ラストに関してはもう衝撃のラストとしか言えないですね(笑)

Q. これから作品をご覧になる方々へ、メッセージをお願いします。
大塚監督 面白い仕掛けをたくさんしている映画です。もちろんラストも。コロナの影響で映画の意味合いが変わってきましたが、観る価値のある映画だと思います。公開後のみなさんの反応が楽しみです。ぜひSNSなどで感想を書いてください!

取材・撮影 南野こずえ

『横須賀綺譚』
2020年7月11日(土)より新宿K’sシネマにてレイトショー

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