目の玉、舐めるや、舐めざるや『眼球の夢』鑑賞記


_1120034『眼球の夢』ストーリー:
若手女流カメラマン・城所麻耶(万里紗)は通行人の眼球をゲリラ撮影することに偏執しており、空間プロデューサー・紙谷リエ(桜木梨奈)の協力で、撮り溜めた眼球写真の展示会『視叛-SIHAN-』を開催している。個展の客として訪れた脳神経外科医・佐多邦夫(中野剛)は、右の目が義眼であると語る麻耶の言葉に強く惹かれる。インディペンデント映画の監督でもある佐多は、彼女を被写体としたドキュメンタリー作品を撮りたいと告げる。
ある夜、麻耶は黒尽くめでサングラスの男(PANTA)に暴行される。薬品で自由を奪われた上に男の凌辱的な愛撫を受け失神した麻耶が目覚めると、冷凍ケースの中に男の“コレクション”を見付ける。コレクションの中に自分が探し求めていた物を見出した麻耶は、未だ嘗てない恍惚感に身を委ねる。
佐多の診察を受けた麻耶は、自身の日常が過去のトラウマに起因する可能性が強いことを示唆される。症状的に、“幻影肢(Phantom Limb)”に近いと。益々創作意欲を募らせた佐多は、夏目祐一(小林竜樹)を撮影助手に、ドキュメンタリー映画の制作をスタートさせる。カメラに密着される中、徐々に明らかになるトラウマの全貌……車のトランク、ドライバー、返り血……麻耶の網膜に映し出されるフラッシュバックの正体とは、果たして――。

「7月の『華魂 幻影』の時は上映前のご挨拶だけでしたが、今日は色々とお話したいと思います」

2016年9月10日(土)夜、『華魂 幻影』(2016年/83分/R18+)から2ヶ月、“ピンク四天王”の一角・佐藤寿保監督の再来名を待ちわび名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)レイトショーに詰めかけた観客は、『眼球の夢』終映後万雷の拍手を以て監督の登壇を迎えた。

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_1120033――作品の成り立ちの経緯を教えてください。(司会進行:名古屋シネマテーク支配人・平野勇治)

佐藤寿保監督 『リヴァイアサン』(2012年/87分)という海洋映画を撮ったハーバード大学のルーシァン(・キャステーヌ=テイラー)とヴェレナ(・パラベル)がピンク映画に興味を持ちまして、ピンク映画の映像として佐藤の現場を撮りたいということで、作品は自由、費用は用意するからという話が来たんです。彼らから提案されたアイデアもあったんですけど、そこにはピンと来るものがなくて、元々眼球フェチなんで(笑)こんな作品になりました。大元になった作品も10年くらい前にあったんだけど、ピンクに当てはまらない題材で中々実現せず……今回「とにかく、佐藤の撮りたいものを」と彼らも言ってくれたんで、内容については今のこの御時勢で良く出来たと思ってるんです。

――大元の作品は、脚本として出来ていたんですか?

佐藤監督 “女流キャメラマンで眼球写真を撮ってる”っていうのは、大元としてあったんですよ。自分自身も写真学校でスチールとムービー両方やってた経緯もあって、今回の作品もデジタルはムービーの御木(茂則)がやってるんだけど、フィルム写真は自分が撮ったんですよね……そもそもが眼球フェチですし。かなりの数の眼球の写真が必要だということで、人を集めて、35mmのフィルムとデジタルで撮りまくりました。久しぶりにフィルムのカメラを扱うと、マクロレンズは距離感が離れててイメージと違うんですよね。研究に研究を重ねたと言うか、色々自分でも新たな発見がありました。“目は口ほどにものを言う”ではないですが、光の当て方ひとつでも丸きり違うものが映像になったりして、自分自身も非常に刺激的だったんですよね。

_1120032――何ゆえそんなに眼球に惹かれるんですか?

佐藤監督 何と言うか……子宮の中から覗いてたんじゃないか、みたいな(場内笑)。テレパシーなのかな、みたいな……デジャブーの如く浮かび上がってくる感覚と言うか。今回の映画をやろうと言ったのは、テレビは勿論シネコンでは観られない、自分のガキの頃に観た刺激的な映画をこの世に新たに出したい!っていう部分があったんですよね。映画は目を介して楽しむものなんだけど、目そのものを愛でるような映画、丸きりスクリーンが自分の眼球と言うか鏡のように感じる映画、ガキ的感覚で観てもらいたいと思って撮った作品です。胎内から見た眼球……夢野久作『ドグラ・マグラ』の『胎児の夢』的な(笑)。

――監督が“ガキの頃に観た刺激的な映画”とは、例えば?

佐藤監督 『M』(フリッツ・ラング監督/1931年/117分)や『カリガリ博士』(ローベルト・ヴィーネ監督/1920年/71分)だとかをやっぱり意識してますね、観直したら。巷には余りにも色が溢れて、余計なものが目に飛び込んできてしまう……映画っていうのは余計なものがとにかく写りやすいんだけど、印象的に余計なものを排除していくような映画表現、カラー映画でありながらモノクロ映画的な表現が出来たら面白いかなって感覚でトライしてみたんですけどね。賛否両論が起こるのは当たり前だと思ってます。自分は静岡生まれで静岡小劇場っていうのがありまして、学校の教室を半分にしたくらいでスクリーンがちょうど黒板くらいの大きさですけど、そこは名画座で週替わりで日本映画の特集をやってました。1週目は黒澤明特集、2週目はロマンポルノ特集、3週目はATG特集、4週目は若松(孝二)特集、とか。中・高くらいから18禁の映画も関係なく授業サボッて観に行って、非常に刺激的……エロ以外でも刺激的だったんですよね。元々ピンクをやろうとしたのも、ハリウッド映画よりも小劇場で掛かる映画の方が自分にとっては刺激的だったっていうのがあったからなんです。映画館でやる映画とは何ぞや?みたいな問い掛けは前作『華魂 幻影』でもちょこっと言ったんですけど、より刺激物としての映画っていうのが今の世の中にあっても良いかなって感覚で。特に今回は、よりディープに、深く、感じていただけたら、作り手としては凄く嬉しいんですよね。

_1120031――プロデュースしたハーバード大学の感覚民族誌学ラボの方々は、この映画を観てどんな感想を?

佐藤監督 驚愕してました(笑)。今のこの世で、CGを使わず血糊にしても特殊造型にしても現場で全部撮ってることに対して、驚愕だと言ってました。彼らは現場で僕らの撮影の様子をずっとソニーの一眼レフのムービーで撮ってたんですけど、何を撮ってるのか分からないんですよね。僕も、「監督役を演じなければいけないのかな?」と思ったり。彼らの映画も近いうち出来ると思うんで、またこれと合わせて観てもらえれば別の感覚や発見もあるかと思うんですけどね。僕は昔から撮る方は好きなんですけど、キャメラ向けられると「ケンカ売ってんのか、こいつ!?」って感覚が非常にありまして(笑)。最初はもう煩わしくて駄目でしたね……ほとんど街場の狭いロケーション場所でやってたこともあって。現場に於いては彼ら2人「邪魔だったら、邪魔だと言ってくれ」って言うんだけど、もう「存在自体が邪魔だ!」って感じで(笑)……でも、お金出してくれてるしね(場内大笑)。

――キャストについて教えていただけますか?

佐藤監督 『名前のない女たち』(2010年/105分)以降、オーディションをやることにしてます。『名前のない女たち』は企画物のAV女優の話で、事務所にオファー出してもイメージが付くからってオファーが来ないんです。だったら、一般公募でオーディション方式でやろうかと。今回に於いても、麻耶役とリサ役、女優2人に関してはオーディションで募集したんですよね。万里紗は割りと大手の事務所なんですけど、彼女も変わってて、この手の映画が好きだということはマネージャーが知ってたらしく、台本だかプロットだかを「あなた、絶対これ気に入るわよ!」って言ってくれたそうです。だから、最初からやる気が違ってました。三人一組でやってたんですけど、最初見た時「あ、この子かな」って思いました。桜木梨奈は第一弾の『華魂』(2013年/106分/R18+)の主役で、その時もオーディションで選んだんですけど、組み合わせって言うのもバランスがあるんで、「万里紗だったら桜木かな」って選んだんですよね。PANTAさんは、【頭脳警察】パンクロッカーっていうか本当のロッカーとしてのPANTAさんしか知らなくて、芝居はちゃんと見たことはなかったんです。会ってみたら、ガタイはモンスターなんですけど、非常に繊細というか優しいんです。閉所恐怖症らしいんですよ。特殊メイクをする時に何時間か目を塞がなければいけないってことで、落ち着かせようとクラシックを流しながら僕が右手を握ってたんですよ(場内笑)。映画のことも良く分かってて、衣装合わせの時「監督、これ『カリガリ博士』だね」なんて言ってました。動きも、ミュージシャン独特のリズム感というか見せ方を知ってる感じで、良かったです。公開記念のライブで新曲2曲作って、元々ミュージカル出身の万里紗とデュエットしてましたが、凄く良かったですよ。

『眼球の夢』は、今の御時勢では滅多にお目に掛かれない怪作である。
劇中の重要アイテム・合成麻薬ではないが、人によっては劇薬、毒薬の類でもあるし、人によっては良薬、特効薬でもある。
PANTA演じるサングラス男のように、それは自分の身で試すより他ない。
102分の刺激物、否、“刺劇物”……あなたにとって、快作たるや、魁作たるや、それとも――。

取材 高橋アツシ

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