3人の小説家によるオムニバスドリップ映画『ぼくたちは上手にゆっくりできない。』アフタートークイベント


bokutachi_173人の小説家によるオムニバスドリップ映画『ぼくたちは上手にゆっくりできない。』の公開を記念して、監督の安達寛高、桜井亜美に加え、ゲストに岩井俊二監督を迎えたアフタートークが行われました。(2015年3月29日 渋谷ユーロスペース)

Q:初めに本作を観ていただいた感想をお願い致します!
岩井監督:「僕も楽しく見させていただいて、凄く素敵な三作品だなと。安達作品は、とてもシンプルなストーリー運びで、さりげなく度胆を抜いていくといいますか。一体この話はどこに進んでいくんだろうと思うと、あぁ!ってなる意外なクライマックスの映画で、今回もそういったワールドが遺憾なく発揮されている、不思議な魂と魂の触れ合いのような物語が、凄く素敵でした。音楽の使い方はちょっと大胆で、往年のイタリア映画をみているような感じでして、こだわりがあったんですか??」
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安達監督:「もう四苦八苦しながら、手探り状態でやっていきました」
桜井監督:「安達さん、岩井さんと話す時、凄い緊張してますね(笑)」
安達監督:「今にも食べたものが出てきそうで、大変な事故を起こしてしまいそうな・・・」
岩井監督:「そしたら、あまり突っ込まない方がいいですかね??(笑)
桜井作品は、本作が一番、すとんと直球で入ってきたんですが、最初(の作品)からの、この成長ぶりというか。最初の頃は、ストーリーもほとんどない状態で、何かイケメンだけが出ていて、カメラがズームインしていくと、ピントがぼけていくっていう(笑)。それは最初にピント合わせておくんだよっていうことを、教えるところから始まったんですけども、どんどん技術が上がっていって、今回はそういう次元から、一皮むけたなっていう気はしました。役者さんの力量が、凄く大きかったんじゃないかと思うんですが、主役の小松(彩夏)さんの存在感というか、『美少女戦士セーラームーン』に出てた子ですよね??」
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桜井監督:「愛野美奈子!セーラーヴィーナスの愛野美奈子役です」
岩井監督:「あの頃はティーンな女の子で、今回みたら、往年のメリル・ストリープのような、迫力が出てましたよね。更に目がみえなくて、声が軽くしゃがれ声になっていて、あれは花粉症だったのか、それともそういう風だったのかは分からないんですけど」
桜井監督:「違う(笑)!(普段は)もうちょっと、可愛いくて高い声なんですけど、ちょっと気が強そうなドスを利かせてもらったんです。彼女はご存知のように儚げな美人なので、当然、そのキーワードが凝縮されたような役が多かったみたいです。ご本人的には、自分で運命を変えていくような役がやりたかったと言っていて、この脚本を読んでやりたい!と強く思っていただいたと。すごくうれしかったです。その意志が現場をものすごくいい方向に引っ張ってくれましたね。オーディションの時から、ずば抜けて素晴らしかったです」
岩井監督:「知らぬ間に、ここまで成長してたんだなと驚きましたね。
三作目の舞城(王太郎監督)さんのは、凄く面白かったです。凄い力技で面白かったけど、最後、どういった話だったのか、まだ分からず、今日聞かなきゃと思ってたんですけど。もの凄い展開で、ハラハラドキドキしながら、全部夢なのかな?とか、なんだこりゃーって思いながら、とても楽しませてもらいました。結局、インターベンションっていうのが、いまいち見識がなくてよく分かんなかったのですが、セラピーみたいなことですかね??」
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桜井監督:「私たちも最初何だか分からなくて。でも、インターベンションは、アメリカでは一般的な治療みたいです。あの映画(『BREAK』)って、とても演劇的ですよね。」
岩井監督:「お葬式のシーンも、あれは妄想なのか、夢なのか」
桜井監督:「あれは妄想と、私は解釈してますけど」
安達監督:「僕もみている時に、どっちのシーンが先で後かを、ぐるぐる考えさせられて。何回かみてると、なんとなく喪服で動いている方が心の中なのかなと、ぼんやり推測していましたが、どうなんでしょうか??」
岩井監督:「どっちが夢なんだかわからない、怖くなってくるあの感じが、凄くたまらないですね。普通の住宅地を、ハンディカメラで動き回っているだけなんですけども、ぞわぞわしてくる感じね!以上、三作品の感想でした」

Q:お三方が、それぞれの出会ったきっかけや、関係性をお伺い出来ますでしょうか??
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岩井監督:「安達さんは、小説家の乙一さんとして出会って、10年以上になりますかね??共通の映画プロデューサーがいて、一緒に何か出来たらって感じの会食があって、それが最初だったと。合ってます??」
安達監督:「合ってます!大分うる覚えなんですけど、ちょうど幻冬舎から出た『小生物語』という本を、これ新刊本ですってお渡しした記憶があって、なんか凄く懐かしいです!」
岩井監督:「ただの思い付きで、タイトルを送った記憶があるんですけど、覚えてます??乙一さんが書いたら面白いんじゃないかと思って、“フランケンシタイ”っていう、漢字で『腐乱検死体』っていうタイトルで(笑)」
桜井監督:「ホラーなんですか??」
岩井監督:「(タイトル以外)後は、ご自由にって感じで、お題だけ投げた記憶が!仕事と関係なく、ただ思い付いたので(笑)」
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安達監督:「ありましたね(笑)。でも脚本かプロットを、岩井監督にお送りした記憶があります!」
桜井監督:「『腐乱検死体』の??」
安達監督:「全然関係のないSFの」
岩井監督:「そうですね、途中まで何か動いていたことありましたよね?」
安達監督:「でも有耶無耶になって時間が空き、ある日岩井監督の事務所に呼ばれて行ったら、そこに桜井亜美さんがいらっしゃって、その時初めて桜井さんとお会いしたんです」
桜井監督:「岩井さんとは、結構昔から知り合いで、岩井師匠にいわれると、何でも土下座したくなるような(笑)私の先生なんですよ!そんな感じで岩井さんが、安達さんも映画作っているんだよって教えてくれて、その時の作品が簡易の3Dメガネでみる『立体東京』っていう珍しいもので。じゃ、一緒に上映しましょう!ってことになって。安達さん、自分が編集で苦労した時に、岩井さんが“編集を死ぬほど重ねていくと、映画になるんだよね”みたいなことを聞いて、凄く励まされたっていってました」
安達監督:「以前に岩井監督が、“自分も撮ったものを最初に編集した時、本当に大丈夫なのかと思うことがある”って仰っていて、岩井監督でもそんな風に思うんだって、撮る時に、全部頭の中で計算して、その通りに作る訳ではなくて、編集の段階で、色々と手を加えていって、洗練されたものにしていくんだって、それを励みに、編集をやっている気がしますね」
桜井監督:「岩井さんにとても影響を受けていますよね??私は、岩井さんに出会ってなかったら、映画はやっていません。最初に、映画を撮ってみたら?っていってくれたのが岩井さんでした」
岩井監督:「で、撮らせなかったのも俺だしね(笑)」
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桜井監督:「私、監督をちょっとやりたかったんですけど、岩井さんがまだ早いよ!って」
岩井監督:「そしたら、凄く怒ってね(笑)。自分が撮れると思っていたのに、撮れなかった想いが、次のモチベーションに、爆発的に繋がったんじゃないかと思っているんですけど」
桜井監督:「私は、絶対嘘って思ってたんですけど、岩井さんが“映画って、誰でも撮れるんだよ!”って、教えてくれたんです。私は、本当に確かな才能と、映画監督っていうワッペンみたいなものがあってそれがないと、映画は撮っちゃいけないと、ずっと思ってたんです。そしたら岩井さんが、“そんなものなくても、シナリオさえちゃんと書ければ、誰でも形にしていけるんだよ!”っていってくれたから、そうなんだって思って。やっぱり岩井さんがいなかったら、撮ってないですね」
岩井監督:「撮影現場って、スタッフや役者さんがいてくれて、色々助けてもらえるんですよ。でも、本書くのは、誰も助けてくれないでしょ?自分で地獄をみる訳ですよね。それに比べたら、色々な人が助けてくれる現場だから、撮ることは、間違いなく撮れるって思いますよ」
桜井監督:「岩井さんの言葉で、凄く心に残っているのは、シナリオを書くのは、修行みたいな感じで、撮影現場はバカンスだって(笑)」
岩井監督:「そのくらい、しんどいですよね」

Q:最後に一言ずつお願い致します!

岩井監督:「去年の11月から、季節を飛び飛びと跨いで撮影している映画があって、5月に残りを撮って完了するんです。
黒木華さんが主役!ということまでは情報流していいということで、それ以上はなにも言えないんですけど、どんな内容か楽しみですよね??楽しみにしていてください!」
桜井監督:「岩井さんと話をしていると、素になってしまうもので、すみません。本当に素晴らしい師匠であり映画監督で、映画というものを、私たちにこういうもんだよ!って魅せてくれる方に、私たちの映画をみていただいて、こんな素晴らしい感想いただけて、本当に光栄です。ありがとうございます」
安達監督:「今日は、映画を観に来て下さってありがとうございました。まだまだ、これからも精進したいと思います!おつかれさまでした」

眠りたい、笑いたい、休みたいのに、上手く出来ない時が必ずある。
そんな時はきっと、失いたくない何かに執着しすぎているのかもしれない。
大切な何かを想う時にリフレインするのは、決してひとりでは描けない8ミリフィルム映像のようだったりする。
あなたとコーヒーを飲む度に、少しずつ苦みが増して、上手に笑うことが出来なくなってゆく。
けれども、その苦みの答えを知っている人だけが、楽しむことが出来る、蜜の味があったりするのだ。

取材:佐藤ありす

【STORY】
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稀代の小説家三人が三つの物語をドリップ。“上手に何かをできない”ぼくたちの人生のある1ページ。ペンを目がフォンに持ち替え、紙から映像へ。苦くて優しい芳醇なアロマが漂う【観る小説】三本立てのオムニバス映画が完成!

・『Good Night Caffeine』 監督・脚本・編集:安達寛高
恋人の手術が終わるのを待っていた青年は、深夜の病院で長い黒髪の少女に出会う。彼女はお父さんが飲んでいたコーヒーをこっそり飲んでしまい、眠れなくなったのだという。青年は、少女が眠くなるまで、暇つぶしにつきあうことになるが・・・。
・『花火カフェ』 監督・脚本・編集:桜井亜美
染谷は、自分の部屋に通ってくる宮本との関係に小さな溝を感じる。宮本は世界と彼女を繋いでくれた無二の存在だった。離れてしまった心をとり戻すために、大切な思い出である花火をもう一度しようとせがむ染谷。だが、彼が彼女に告げた言葉は・・・。
・『BREAK』 監督・脚本・編集:舞城王太郎
ある日、会社の応接室で大けがをしているのを発見された黒須だが、休日だというのに仕事をし続けている。同僚の濱崎が出す意味不明なちょっかいを鬱陶しく思いながら。だが次第に、現実と非現実を行き来する黒須の心が揺さぶられ始めて・・・。

製作・制作・配給:リアルコーヒーエンタテインメント
©2015 REALCOFFEE ENTERTAINMENT
3月28日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!
http://www.realcoffee.jp/bokutachi/
※上映期間中、来場者限定で監督作家陣が書き下ろした特別短編小説集をプレゼント!

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