EVOLUTION?EBOLUTION!『ENOLA エノーラ』鑑賞記
EVOLUTION? EBOLUTION! ――『ENOLA エノーラ』鑑賞記――
『ローン・チャレンジャー』(2012年/82分)、『岸部町奇談~探訪編~』(2012年/105分)、『怪特探 KAITOKUTAN 岸部町奇談』(2013年/96分)――名古屋には、インディーズ映画界を席巻する鬼才がいる。監督のみならず、企画、脚本、撮影、編集は基より出演、アクションをもこなしてしまうマルチな俊英は、林 一嘉と言う。
同じく名古屋に縁の深い堤 幸彦監督をして“愛知インディーズムービーの雄”と言わしめる林 一嘉監督最新作が、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)にて3月28日より一週間レイトショー公開された。それが、『ENOLA エノーラ』(2015年/83分)である。
『ENOLA』は、瀬戸市、名古屋市を中心とした愛知県で撮影された。また、金城学院大学 後藤ゼミの学生たちが林監督に全面協力し、同ゼミの後藤昌人准教授がプロデューサーに名を連ねている。
「学生たちには、映像を製作するだけでなく上映してお客様に観てもらう段階まで体験させたかったんです」
後藤准教授がそう言うように、レイトショーには『ENOLA』に携わったゼミ生たちが足を運び、受付から開場まで自らの手で行った。興行は大成功で、 連日補助席まで完売となる盛況ぶりとなり、記者も公開最終日の4月3日にようやく鑑賞することができた。
『ENOLA』Story:
名古屋市を中心に数万人が突然死するという怪事件が起きた。原因は謎のまま名古屋市に避難命令が出され、非常事態に対応する特殊機関が設立、銀色マスクの工作員が街を徘徊する。
数ヶ月後、ごく少人数となった市内には大学教授の平良(林 一嘉)と義理の妹のハヅキ(広瀬咲花)がいた。幼い頃から飛び抜けて第六感が優れ工作員にマークされていたハヅキは、ある日遂に追い詰められてしまう。逃げ場を失ったハヅキは近くにいた不良少年三人組の一人でもある健太(阿知波良祐)に自分の魂を移す。突然強い衝撃波に打たれた健太は呆気に取られるが仲間のコウセ(元井康平)とアズマ(里中ユウスケ)に助けられ、その場から立ち去った。
ハヅキの魂を移された健太は恐るべき超能力に目覚めてしまう。大人しいハヅキだからこそ制御されていた超能力が、ごく普通の人間の健太に移されたため暴走が始まる。
元井康平(コウセ役)「スタッフの皆様、そして会場に来てくださったお客様に、感謝の気持ちで一杯です。映画は、本当に色んな方々が裏方で支えてくださってくれるからこそ出来るものなんだと実感する次第です。そして、自分たちも知恵を結集すれば、こう言う作品が作れるんだと、色んな人に伝えて話が出来たらなと実感しております」
加納理伸(工作員 役)「僕は映画に出させていただいた事は初めてだったんですが、スタッフもやりまして、この映画があったからこそ本当に色々な良い経験が出来たと思います」
石上 亮(天野 役)「『ローン・チャレンジャー』出演から数年が経ちまして林監督と久々に再会した際、何やらちょっと燻ぶってる感じがしたので、「アクション撮りたいでしょう!?」とけしかけて撮ったんですけど……今回、僕は全くアクションしてません(場内笑)!」
鈴木ただし(正(セイ)先生 役)「この世界30年くらいやってるんですが、自主映画に嵌まりだしたのが7~8年前で、そこから大体80本くらい出させていただいてます。こうやって観ていただいて、やっと映画と言うのは命を吹き込まれるんです……撮るのは、誰でも撮れるんですよ。色々な想いを持ってくださったんだろうと、こうして皆様のお顔を見る事は凄くホッとする瞬間です。どんどん映画を好きになっていただいて、どんどん色んな映画を観てくださると有り難いと思います」
里中ユウスケ(アズマ役)「2011年、林監督の『ローン・チャレンジャー』を知って……インターネットの画面を見ながら「こう言うのやってるんだ……名古屋でこう言うの出たいなあ」と、ずっと思ってました。それから4年が経って、エンドロールに“里中ユウスケ”の名前を見つけた時、ちょっとウルッと来てしまいました。『ENOLA』は、キャストの皆さんだけでなく、監督や協力で入ってくれた金城学院大学の皆さやプロデューサーの後藤さんや、何より観に来てくださる皆さんあっての作品ですから、本当に皆さんに感謝したいと思います」
平井亜矢子(ルリ役)「声は後から録ってるんですけど、撮影の時は割りとシャキシャキした感じだったのが、声を入れる時は「落ち着いた感じでやろうか」と言う演出だったんです。ハマるのか心配だったんですけど……どうでしょうか?今日初めて完成を観たんですが、自分のことなので分からなくて(笑)」
林 一嘉(監督・脚本・撮影・編集・ビジュアルデザイン・平良 役)「買い物のシーンは、『俺たちに明日はない』(監督:アーサー・ペン/1967年/112分)に出てくる小道具と同じ小道具なんですよ。ルリは、フェイ・ダナウェイと同じ陶器の人形を持ってたんです」
里中「『エノーラ』あるあるなんですけれど、E・N・O・L・Aなんですよね、よくLをRと間違えられるんですけれど」
林「“ALONEの逆”と憶えていただくと良いですね……偶然ですが(笑)」
舞台挨拶を終え深々と頭を垂れる壇上の7人に、観客席から惜しみない拍手が降り注いだ。そんな熱気が冷めるに易いはずはなく、小雨降り頻くシネマスコーレの沿道では観客が出演者・林監督を取り囲み、学生スタッフも交えて1時間以上も大歓談会が繰り広げられた。
林監督の作品と言えばアクションが売りであるが、『ENOLA』はバイオレンス表現に偏ることなく、メリハリの効いた群像劇となっている。
そして林作品のもう一つの特徴である練りに練った脚本は『ENOLA』でも本領を発揮し、物語で明かされる事の顛末は『岸部町奇談』から共通するキーワード“魂”に関わるテーマで興味深い。そして、百人百様の解釈が取れる実に印象的なラストシーンで、観客は『ENOLA』の作品世界に浸ったまま鑑賞を終えることとなる。
「ラスト、あの2人が、実は繋がっていたとしたら……そんな風に観てもらっても、面白いかも知れませんね」
『ENOLA』の企画も兼ねる石上 亮さんが「飽くまでも個人的な見解」と前置きをしつつ、こっそり教えてくれた。なるほど……ラストあの人物の感情の発露は、そんな意味が――。『ENOLA』の鑑賞を終えた方は、解釈の一助にしてほしい。
さて、今回『ENOLA』を観ることが出来なかった映画ファンの方には、朗報がある。『ENOLA』は、DVDソフトの全国流通が決定となった。6月26日よりリリースとなるそうなので、是非ともお手に取っていただきたい。鬼才・林 一嘉のマルチな才能と金城学院大学の学生たちの情熱が完成させた映像を、是非ともその目に焼き付けていただきたい。
取材 高橋アツシ