真摯で 貪欲な しばてん『渡辺大知氏 自主企画 特別上映』鑑賞記


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真摯で 貪欲な しばてん ――『渡辺大知氏 自主企画 特別上映』鑑賞記――

2015年3月1日、上映1時間前だと言うのに刈谷日劇(愛知県 刈谷市)のロビーは人が溢れていた。この日、ミュージシャン・俳優・ムービーメイカーと幾つもの横顔を持つ若き天才が、刈谷日劇の舞台挨拶に立ったのだ。
天才の名は、渡辺大知。ロックバンド・黒猫チェルシーのヴォーカルでありながら、『大人ドロップ』(監督・脚本:飯塚 健/2014年/119分)『くちびるに歌を』(監督:三木孝浩/2015年(公開中)/132分)の演技が高い評価を受け、PFFアワード2014では監督作品が審査員特別賞を受賞した――まさに、天才である。
今回の企画は、黒猫チェルシーと刈谷日劇をこよなく愛する一人の音楽ファン・映画ファンの発案が、渡辺大知氏自らを動かしたと言うから驚きである。渡辺大知氏が刈谷日劇に持ち込んだ作品は、第33回日本アカデミー賞 新人俳優賞対象作品(主演)『色即ぜねれいしょん』、そして、PFFアワード2014審査員特別賞を獲得した監督作品『モーターズ』。かくして、『渡辺大知氏 自主企画 特別上映』は2本立て興行となった。

『色即ぜねれいしょん』(監督:田口トモロヲ/2009年/114分)
仏教系男子校に通う高校一年生の乾純(渡辺大知)は、ボブ・ディランに心酔する文科系男子。ロックな生き方に憧れながらも、現実は退屈で平凡な毎日。そんなある日、友だち(森岡 龍、森田直幸)から夏休みに隠岐島に行こうと誘われる。なんでもそこはフリーセックスの島らしい。こうして純はギターケースを片手に妄想ばかり膨らませ、フリーセックス主義者が集うという隠岐島のユースホステルへと向かうのだったが……。

『モーターズ』(監督・脚本・編集:渡辺大知/2014年/83分)
田舎の整備工場で働く田中(渋川清彦)は、うだつのあがらない日々を過ごしている。村田(川瀬陽太)から教育係を命じられた新入りのタケオ(犬田文治)もバンドがしたくて仕事をすぐ辞めることになるが、職場の面々(鹿江莉生・菅沼拓馬)は彼を優しく迎える。そんな中、一組のカップル(木乃江祐希・前田裕樹)が車の修理にやって来た。その彼女に淡い恋心を抱く田中だったが……。不器用だけど、愛らしい、そんな人間模様――。
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「舞台挨拶するってことで色々考えたんですけれども……今回、“一問一答式舞台挨拶”をやりたいと思います」

登壇した渡辺監督は、驚愕のプランをぶち上げた。観客全員の質問に全て答えるなど、前代未聞の舞台挨拶だ。
以下、出来うる限り再現してみる。

――渡辺さんは、音楽もやり、俳優もやり、映画も撮ります。そもそも、なぜ映画なんですか?(司会進行:亀谷宏司マネージャー)
「小さい頃から脚本家になりたかったんです。小2から中2までずっと脚本を書いてたんです……中学で音楽と出会ったんですけど、脚本はライフワークになってたんでずっと書いてました。その頃は、演劇の脚本でした。高校に入って音楽を本格的にやるようになっても、脚本は書き続けて発表してました。高2の時に『色即ぜねれいしょん』のオーディションに受かって、「映画って面白いな」と思いました。同じ高校の友だちで組んだバンドなんですが、映画の大学に行くことはメンバーにも言ってました」

(以下、客席からの質問)
――『モーターズ』はキャストに監督の名前もありましたが、どのシーンに出てるんですか?
「渋川さんがスーツ着てバイクに乗ってるシーンで、ワラワラ喋ってる中にいました。背中だけですけど」

――映像を作る上で心掛けてることは?
「学校へ行くと学問的なことや技術的なことを学ぶんですけど、そう言うことじゃなくて「何が観たくて撮ってるのか?」が大事だと思います。『モーターズ』は撮影10日間なんですけど、脚本に半年掛けました」

――『モーターズ』の撮影地は?
「埼玉と横浜です。架空の郊外として撮ってるんですけど、埼玉の“内陸感”に興味があって」

――『モーターズ』に出てくるニワトリのことを教えてください
「工場の象徴として、動物を入れたかったんです。何かを産み出して、壊れて、また産み出す工場を、卵を産むニワトリに……だからあれ、メスのニワトリなんですよ。養鶏所で借りてきたんですけど、撮影が終わって返しにいったら「菌が付いてるから戻せません」ってことになって………しばらく家の風呂場で飼ってたんです(笑)。……ずいぶん前に、死んじゃったんですけどね」

――『モーターズ』の渋川清彦さんは、当て書きですか?
「最初は自分くらいの年齢の男を設定してたんですけど、何かありきたりかなと思って……人間の情けないけど美しいところを描きたかったんで、より情けないことを考えた時に年齢がどんどん上がっていったんです。書いてるうちに渋川清彦さんの顔が浮かんで……ダメ元でオファーしたらOKを頂けたんで、そこからは当て書きです」

――最近、黒猫チェルシーのライブが名古屋で無いのは何故ですか?
「曲制作に専念してて、最近はライブ自体をやってないんですけど……名古屋でやらない理由は無いです、たまたま合わなかっただけで。今年はツアーをやるのが決まってるんで、宜しくお願いします」

――『色即ぜねれいしょん』で、臼田あさ美さんとのキスシーンは如何でしたか?
「あれ、初めて(のキス)だったんですよ!僕の人生で初めてのチューがいつでも見れる状態になってるので、50才くらいになったら見返そうと思ってます(場内笑)」

――『モーターズ』の音楽は、最初から決まってたんですか?watanabe2
「脚本を書いてる時から決まってました。テーマソングを聴きながら書いてました。だから、既存の曲が多いんです。バンド演奏のシーンの曲だけは、タケオ役の犬田文治くんに書いてもらいました」

――『色即ぜねれいしょん』には黒猫チェルシーのメンバーも出てましたけど、メンバーの前で演技するのはどうでしたか?
「嬉しかったです。それまで一ヶ月くらいメンバーに会わないのが初めてだったんで、「会いたかったー!」ってなりました(笑)」

――『モーターズ』で大知くんが歌ってた曲は、CDにしないんですか?
「CDにはしてないですけど、弾き語りのライブで歌ってます。」

――脚本を書く上で影響を受けた人は?
「小学生の頃は、唯一知ってるのが宮藤官九郎さんでした」

――好きな映画を3本挙げるとすると?
「エミール・クスリッツァ『黒猫・白猫』(1998年)、ジャ・ジャンクー『一瞬の夢』(1997年)、アキ・カウリスマキ『真夜中の虹』(1998年)、もう一本挙げるとしたら、マーティン・スコセッシ『ミーン・ストリート』(1973年)です」

――初めてお金を払って観にいった映画は?
「『リンダ リンダ リンダ』(監督:山下敦弘/2005年)です」

――『色即ぜねれいしょん』で共演された峯田和伸さんの印象は?
「凄くいい方でした。その当時、銀杏BOYZって聴かず嫌いだったんですが、20才くらいになって聴いたらメチャクチャ格好いいなと思って(場内笑)……そっからファンになっちゃったんで、峯田さんとは連絡が取れなくなりました。俺が格好よくなったら、見返してやろうと思って(笑)」

――『モーターズ』って、男は誰もが罹る麻疹みたいな印象を持ったんですが、監督の意図は?
「本当は、男とか女とか関係ないところが伝わればなと思いました。人間って、結局どんなに格好つけようと思っても格好悪いし……でも、それでいいんだよ、と」

――音楽と映画と、共通して拘ってることはありますか?
「“匂い”ですかね……空気のような。音楽は聴覚を、映画は視覚と聴覚を使っていて、嗅覚を使うことは無いんですけど、スクリーンとお客さんに流れている空気を揺らして、香りをどうにかして立ち込められないかと思っています」

――舞台挨拶の前の日って、どうなんですか?
「(笑)。昨日は割りと緊張してました。どれだけお客さんが来てくれるのか……2人とかは無くても、5人とかは有り得るな……と思ったんです。だから、これだけ入っていただいて本当に嬉しいです」

――『モーターズ』で「遊びが大事なんだ」って台詞がありますが、何か実体験はありますか?
「「ずっと遊んでる」って言って説得力あるくらい、遊びはマジでやらないとなとは思ってます」

――『モーターズ』で主人公の田中が狂気の様相で二人を連れて行くくだりは、どんな意図が?
「自分の言葉で伝えられなかった思いが、行動で溢れたって感じですかね。脚本でも、一番悩んだところです」

――これからも、俳優さんとか、音楽活動とか、監督とか、色んなことをやっていくんですか?
「色々やってるって意識は無いんですよね……僕の中では、時期は色々あれど、ずっと同じことをやってる気持ちなんです」

――『モーターズ』では情けないことを描きたいとのことですが、情けない実体験がもしあれば
「……逃げかも知れないんですけど映画に例えると、さっき言ったカウリスマキの『真夜中の虹』は“情けなさの美学”が存分に詰まった映画だと思います。同じ監督の『パラダイスの夕暮れ』(1986年)も」

――ところで、無事卒業は出来たんですか?
「(卒業)しました(場内拍手)!仕事の休みは全部大学に注ぎ込んでたんですけど、それでも中々行けなくて……6年生ですけど(苦笑)、卒業しました」

――個人的には、歌を唄ってる渡辺大知が一番好きです。俳優とか監督をしていると音楽に掛けられる時間が減ると思うんですけど、他のメンバーはどう感じてるんでしょう?
「(笑)……ファンの方の気持ちは痛いほど分かってるつもりではいて……そう言う気持ちにさせてしまっていると言う実感は正直あるんですけど……。メンバーの話としては、一時期僕は音楽だけをやって役者の仕事は全部断ろうかと悩んでた時期があったんですけど、「何言ってんねん、お前は映画がやりたいんやろ!お前の中にあるかも知れん才能を潰すな」って言われて……僕は、本当に嬉しかったです。もちろんメンバーとは毎日のように会ってますし、例えば僕が詞を書いてる間にメンバーで楽曲を作ってと言った、自分たちのペースでやっています」

――邦画で好きな作品をお願いします
「『竜二』(監督:川島 透/1983年/92分)、『豚と軍艦』(監督:今村昌平/1961年/108分)、『股旅』(監督:市川 崑/1973年/96分)です」

――「バシッと答えられるように用意してきたのに、この質問なんで来ないの?」って質問はありますか?
「凄い質問ですね(場内笑)。それは、無いです(笑)」

――死んだニワトリは……食べたんですか?
「いえ。庭に埋めました」

――脚本に費やした半年間のことを教えてください
「単純に、遡りました。「なんで脚本を書き始めたんだっけ?」とか、「俺が好きなもの、好きなことって何だろう?」とか……どんどん幼少期の記憶に遡っていきました。僕は『しばてん』(作・絵:田島征三)って言う絵本が僕を作ってると思っているんですけど……そう言うのに再び出会ったのも、この『モーターズ』の準備段階の時です」

――こうして話している大知くんと歌ってる時の大知くんって別人のようですが、歌ってる時ってどんな感じなんですか?
「黒猫を組む前、ドラムの啓ちゃん(岡本啓佑)に田島征三の絵本を見せて「俺、こんな感じがやりたい」って言ってたんです……そんな感じですかね。人間なんだけど、人間じゃない……そんな感じをやりたくて」

渡辺監督が全ての質問に答え終わると、図らずも満場の拍手が壇上に降り注がれた。
そこに居るのは単なる天才ではなく、真摯に観客の要求に応えようとする、貪欲な表現者の姿であった。
真摯で、貪欲な、天才――これはタチが悪い……オーディエンスは、視線を逸らすことが、出来ない。

実は今回上映された『モーターズ』は、渡辺監督曰く『残念ver.』なのだとか。前日の上映チェックで映像のノイズが気になったのだそうで、今回の入場券はそのまま『モーターズ完全版』の無料招待券となっていた。『完全版』は近々劇場に届けられると言う話なので、『残念ver.』、『完全版』両方を観たいと言うコアなファンは、刈谷日劇に急いだ方がいい。

取材 高橋アツシ

黒猫チェルシー オフィシャルサイト
刈谷日劇 公式サイト

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