大丈夫 ここからだよ 『サムライフ』レビュー


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――大丈夫 ここからだよ―― 『サムライフ』レビュー

ケンジ(加治将樹)は、肉体派。行動力抜群なれど、とても不器用。
タカシ(柾木玲弥)は、知性派。すこぶる弁は立つけれど、理屈屋。
ユミ(松岡茉優)は、天性のコーディネーター。だけど、少し短気。
ダイスケ(山本涼介)は、生粋の自由人。堪え性が無いのが玉に瑕。

映画『サムライフ』は、社会からちょっとだけはみ出している若者の群像劇であり、彼らに“居場所”を作った一人の教師の物語。

教師の名は、ナガオカ(三浦貴大)。情熱家だけど、超の付くほどの馬鹿。ウッカリ屋で、お人好し。

ナガオカの夢は、理想の学校づくり。勤務する高校を退職してまで夢に邁進するナガオカに、一人、また一人と力を貸す元教え子たち。“浪人”と言うのが相応しいような四人だが、“居場所”を見つけた彼らは違う――それは正に、“現代のサムライ”。一人ひとりを見れば欠点が目立つ若者達も、全員揃えば万夫不当。

『サムライフ』とはナガオカのモデルである長岡秀貴氏の著した自伝のタイトルであり、原作に恋をした森谷 雄監督の夢の結実である初監督作品である。“全財産725円の27歳”は、ノンフィクションなのだ。

“実話もの”作品にありがちな“お涙頂戴”映画に成らず、エンターテイメント溢れる軽快な青春群像劇に徹していることが『サムライフ』最大の魅力である。TVドラマ『天体観測』(2002年/フジテレビ)映画『シムソンズ』(2006年/佐藤祐市監督)『しあわせのパン』(2012年/三島有紀子監督)などを手掛けたベテランプロデューサーである森谷 雄氏が原作に惚れ込んで自らの初監督作品に選んだだけのことはある。
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「馬鹿なの?」
「いや、馬鹿なんだね?」
「今頃気付いた?」
ナガオカの夢に賛同する『Team West』の若者たちは、軽口を叩きつつ逆境を乗り越えてみせる。彼らは、“現代のサムライ”たちなのだから。

ケンジの役作りとして20kgの増量(!)をして撮影に臨んだ加治将樹は、観る者の眼を奪う。その存在感は、チームを支える“背骨”だ。
柾木玲弥が演じるタカシは、口だけの理論派からTeam Westの“頭脳”に生まれ変わる。そんな劇的な進化を、どうぞお見逃しなく。
ユミ役の松岡茉優は、若手とは思えない安定した演技で魅せる。安定感……否、安心感あふれる空気を纏う彼女は、チームの“心臓”である。
山本涼介の演じるダイスケは、思ったことを口にして波紋を広げる。だが、そんな素直な心が仲間を結びつける。彼は、“血液”なのだ。
ナガオカの元教え子たちは彼の夢を共に追うことによって成長し、同時にナガオカをも成長させていく。ナガオカの理想とする学校は、設立の過程から既に理想の教育――否、“共育”の場なのだ。

そんな『Team West』の仲間たちと共に、ナガオカは足掻く。学校に通いたくても通えない子どもたち(山田望叶、岸井ゆきの、蒼波 純)のために、親たち(岩井堂聖子、河井青葉)のために、支えてくれる人びと(大杉漣、マキタスポーツ、きたろう、佐藤めぐみ)のために、悪戦苦闘する。そして、挫けそうな時、胸に去来するのは恩師(渡辺 大)との約束である。
ナガオカ演じる三浦貴大は飾らないナチュラルな演技が魅力の役者であるが、何よりも声が良い。理想を語り夢の大切さを共に育む教師――それが、ナガオカである。発した言葉が恰かも具現化するような、不思議な説得力を帯びる優しく強い声の持ち主・三浦貴大は、ナガオカを演じるに相応しい俳優なのだ。

「大丈夫、ここからだよ」
ナガオカの台詞を発する三浦の声を特に魅力的に感じるのは、『侍学園』のモデルである『NPO法人 侍学園スクオーラ・今人』が実在する長野県上田市の澄んだ空気のおかげなのかも知れない。
信州・上田の風景が――千曲川の紅い鉄橋が、菅平の銀世界が、上田城跡公園の桜並木が――劇中のナガオカよろしく、微笑んだ気がした。

文・高橋アツシ

『サムライフ』
キャスト:三浦貴大、松岡茉優、加治将樹、柾木玲弥、山本涼介/大杉漣
監督:森谷雄  配給:ビターズ・エンド
(c) 2015『サムライフ』製作委員会
2月7日(土)TOHOシネマズ上田ほか長野先行公開!
2月28日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開!
『サムライフ』オフィシャルサイト

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