echo一箱分の一日を『花火思想』鑑賞記


hanabi0927echo一箱分の一日を ――『花火思想』鑑賞記――
「今日はご来場いただきまして、ありがとうございます。この映画は今年の1月に東京で上映して、その後に大阪、京都を回り、ドイツでも1回上映をさせていただきました。そして、今回こうやって名古屋で上映させていただけることになりました。完全自主製作・自主配給、宣伝も自分たちでやっていると言う、ちょっと今時あんまり無い映画をこうして皆さんに観ていただけるのは、凄く嬉しいです。今日は本当にありがとうございます」
2014年9月27日20時、スクリーン前の壇上に立った大木萠監督はこう切り出した。
その日、自身の初監督作品『花火思想』が名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)で初日を迎えたのだ。(画像左より、大木萠監督、櫻井拓也)
大木監督、そして主演・優介役の櫻井拓也氏が登壇されるとあって、熱心な映画ファンで観客席は埋まった。hanabi0927-3

櫻井拓也「本日は夜遅くにも係わらずお越しいただきまして、ありがとうございます。このシネマテークさんには3年前に井土監督の作品(井土紀州監督『犀の角』/2009年)で来たことがあるんですけれど、それ以来で非常に感慨深いものがあります。『花火思想』は2年半前…2012年2月くらいに撮影しまして、最初2週間くらいの撮影期間だったんですけど、延びに延びて1ヶ月越えくらいになりましたよね」
大木「そうですね」
櫻井「「金も無くなって」みたいな、そう言う中々悲惨な状況で撮って…。上映も決まってなかったんですが、半年後に完成させる!色々な映画祭に出す!って言ってたんですけれど…それも完成しなくて(笑)」
大木「(笑)」
櫻井「1年半後くらいでやっと完成して…「(完成したけど)じゃあ、どうする?」と1個1個やってきた作品ですので、今年の1月にユーロスペース(渋谷区 円山町)、大阪、京都…そしてこうやって名古屋まで来れたって言うのは、これは本当に感慨深いものがあります。今日も含めて色々なお客様に感謝の気持ちを持って、登壇させていただきました。ありがとうございます」

『花火思想』Story:
コンビニのアルバイトをしながらうだつの上がらない毎日を過ごしていた優介(櫻井拓也)は、夢に出てきた男のことが頭から離れずにいた。
ある日、昔組んでいたバンドのベーシストであった幸雄(勇人)が優介の前に現れる。その再会は、忘れようとしていたこととの再会でもあった。恋人・美音(富岡英里子)が拾ってきた不気味な人形の存在、ホームレスの船田(久保健司)、馬の面。次第に夢の世界と現実世界の境界線が不明確なものになっていく。そして優介は夢に出てきた男に導かれるように、此処ではない何処かへ旅立つのだったが……。hanabi0927-4

大木「名古屋は非常に思い出深い地なんです…全然、出身者とか居ないんですけれど…。大好きなフォークシンガー・友部正人さんに観てほしくて東京のライブにお邪魔して「『花火思想』を観る機会があったらお願いします」って話をしたんです。その次のライブが名古屋で…すぐそこの『TOKUZO』(名古屋市 千種区)ってライブハウスで…やっと出来たDVDを、『TOKUZO』まで追っかけて行って友部さんに「観てください!」ってお渡ししたんです。それがちょうど1年前くらいのことです。当時は『TOKUZO』のこんな近くに名古屋シネマテークさんがあるってことも全く知らなかったんで…今凄く感慨深いと言うか、不思議なことがあるんだなぁと思ってます。だから、この場所で上映できることを凄く嬉しく思いますので、今日皆さんにお会いできたことを凄く光栄に思います」hanabi0927-2

元ギタリスト・優介は、何を考えているのか分からない。バイト先の店長(芹澤興人)とはまともなコミュニケーションが取れず、一緒に暮らす恋人・美音ですら考えを汲み取れない。
そんな優介が銭湯で出会った男、船田。“ロックンローラー”を標榜する船田は、言う。「楽器は弾かない」「歌は嫌いだ」
その生き様に何かを見出した優介は、宣言する。「俺、ロックするよ!」

この日の上映には『花火思想』脚本・撮影を担当した阿佐谷隆輔氏、佐藤役の工藤淳一氏も来場されていて、登壇されなかったものの声を聞くことが出来た。
阿佐谷「自身がホームレスをやってまして…僕自身がホームレスだったんですけど…その思いを込めた映画なので、そう言う所も観ていただければと思います」
大木「撮影の途中で撮影費が無くなった時、彼がパチンコに行って7万円勝って撮影が続行できたと言う(笑)…」
阿佐谷「そう言う映画です(笑)」
この話、正確にはパチンコではなくスロットだそうで、阿佐谷氏の元手は2千円(!)だったとか。

『花火思想』なる単語は、誤変換により生まれたと言う。阿佐谷氏より『花火思想』と言う作品タイトルを受けた大木監督は、漢字の字面だけで「この作品にこれ以上のタイトルはない」と即決したそうである。大木監督が“花火思想”に込められた意味を知るのは作品の完成後だったそうで、これは作品内で繰り返し語られる“必然”“才能”“インスピレーション”に直結するエピソードのようで、実に興味深い。
因みに、作品タイトルの変遷や“花火思想”の由来は、『花火思想』公式パンフレットで詳らかにされている。評論あり、出演者インタビューあり、実に詳細で面白いプロダクションノートあり、非常に内容の濃ゆい(“濃い”では無く“濃ゆい”)座談会ありの36ページで、価格は500円。上映の際は是非お手に取ってほしい、読み応え満点の一冊である。

その問いに、正解はあるのか?問うこと自体、間違いではないのか?
疑問符だらけのまま疾走する若者が“人生”に向き合った時、魂の声が背中を押す。
まだ見ぬ 幸せに 今 飛び立つのだ
BGMの無い場面にこそ、音楽が聴こえてくる――『花火思想』は、そんな映画である。
観客ひとりひとりの魂の中で鳴り響く音……それが、“ロック”なのだ。
大木監督・阿佐谷氏の魂の自問自答が叩きつけられた93分、『花火思想』で是非とも“ロック”に出会ってほしい。

取材 高橋アツシ

『花火思想』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト

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