ひとりにしないでくれよ!-『ぼっちゃん』舞台挨拶レポート@名古屋シネマスコーレ


ひとりにしないでくれよ!--『ぼっちゃん』舞台挨拶レポート

大森立嗣監督最新作『ぼっちゃん』が、名古屋シネマスコーレで公開初日を迎えた。

秋葉原無差別殺傷事件に題材を採る、異色の人間ドラマである。2013年5月25日14:00からの初回上映は舞台挨拶に4名が登壇することもあり、劇場は満席となった。司会はお馴染み、シネマスコーレ・スタッフ坪井篤史さんである。

大森立嗣監督 「今日はありがとうございます。実は、今東京から、3分…5分くらい前に来て、本当危なかったんですよね…煙草1本パーキングエリアで吸ってたら、終わりでしたね(笑)」(画像:右)

水澤紳吾(梶 知之 役)「本日は満員のお客さんで、ありがとうございます。とにかくまたシネマスコーレと言う劇場の持つ魅力と、皆さんのシネマスコーレに対する愛情を確認しました。『ぼっちゃん』と言う作品を上映できて光栄です」

宇野祥平(田中さとし役)「本日はお忙しい中ご来場いただきありがとうございます。このシネマスコーレさんには7回来させてもらったことがあるんですけど、今回大森組の『ぼっちゃん』で8回目を迎えることができて本当幸せに思っています」

淵上泰史(岡田コウジ役)「今日はご覧いただきありがとうございました。3月16日から東京渋谷で初日を迎えて、渋谷・吉祥寺・横浜そして今日、名古屋で初日を迎えることができて本当に嬉しく思ってます。この名古屋では、水澤さん・宇野さんが物凄い有名だと聞いてまして、この『ぼっちゃん』を機に淵上を推してくれれば、この役者人生も好い方向に向かうと思いますので、今日観ていただいた皆さんには是非「『ぼっちゃん』、映画館で観ろ!」と言う事を伝えていただければ嬉しいです」

水澤さん宇野さんが素晴らしい熱演を見せてくれている『ぼっちゃん』だが、初登壇・淵上さんの想像を凌駕する怪演に驚いたのは記者だけではなかったようだ。
淵上さんの挨拶の後にあがった一際大きな拍手が、それを物語っていた。

大森 「僕が『ケンタとジュン』や『まほろ駅前』をやっている時に、『サイタマノラッパー』や『サウダーヂ』と言う映画をやっていて…何かやっぱりこう…かっこよく見えたんですね。もう一回自由に自分の足下を見て映画づくりがしたいなと言う思いが、ふつふつと湧いてきまして。こう言う“小さな映画”が日本映画の風通しを再びよくして、面白いものは面白いんだと、小さくても面白いんだと、ちゃんと伝えていけたらいいなと言う思いがあります。日本映画の状況は、本当に厳しいものがあります。こう言う名古屋…シネマスコーレからもう一度発信されていくと言ったことが、今後本当に…もう既にあるんですけど…そう言うことがいっぱい起こってくれば、日本映画の構造が変わっていくんじゃないかと思ってます。皆さん、ここにいる皆さんから変えて行きましょう。宜しくお願いします」

水澤 「大森さんの現場は初めてだったんですけど本当に素敵な現場で、とにかく物語に帰着するのではなくて、自分の物語から何か目に見えないものを一緒に創りながら探っていくような監督さんで…今の作家さんの中では本当珍しい監督さんで…現場をご一緒できことは本当に光栄で、物凄い良い経験をさせていただいたと思います」(画像:右)

大森 「本当『ぼっちゃん』と言う映画は、水澤に救われてるところがあるんですよ」

宇野 「大森組でこうして立てるのが不思議な感じなんですけど…このくらいの距離感の劇場(※注:シネマスコーレ=51席)って今はなかなかないですけど、大森さんの映画って凄くこう言う劇場で掛けるべきと言いますか…。『ぼっちゃん』が、こう言う距離感で観てもらえるのは凄く幸せなことで、そこに自分が参加できたってことは本当に嬉しいことです」

淵上 「監督の『ゲルマニウム』から『ケンタ』『まほろ』とずっと観てましたし、なんせ麿赤兒さんの長男であり大森南朋さんの兄貴でもあり…普段お酒を一緒に飲ませていただくことはあったんですけれども…。この映画が決まって監督と話をした時「取り敢えずもう、その場に立っていてくれ」みたいな感じで言われて…。準備としては…まあ、役は役なんですけれど…取り敢えず科白だけ完璧に入れて、後は現場で演ると言う感じでしたね。後はもう、水澤さん宇野さんに乗っかればいいかなって感じで…」(画像:右)

宇野 「でも…僕らの方が年上なんですけれど、ちょっと態度がねぇ…(笑)」

水澤 「そう、朝一番最後に起きて…機嫌悪いですし…もう、本当に殴られそうかなと思いましたよねぇ(笑)」

宇野 「寝惚けながら、いきなりこう…夜中の3時くらいに…「ヴェルディ!!」って叫んだりするんですよ!でも…優しい人ですよ♪(笑)」

淵上 「長野(撮影現場)では、役者がみんな雑魚寝だったんですね。で、僕、宇野さん、僕の足下に水澤さんが寝てる状態だったんです。固まって寝てたんですよね…広いんですけど…何であれ固まって寝てたんですかね?」

宇野 「他の役者さんが来る時はいっぱいになるんですけど、その方たちが帰ってからも僕らは移動することなく…淵上さんが、移動したら怒るかな、と思って(大笑)」

大森 「淵上くんは、合宿生活に慣れすぎていると言う…彼はサッカーをやっていたんですよね…ガンバ大阪のユースとかにいて。男所帯のそう言う生活には慣れてるんですね。だから、一番のポイントは、“気を遣わない”って言うこと(笑)」

水澤 「永くやっていく上で?」

大森 「そう。下手な気は遣わないと…先輩とか後輩とか関係ないと…映画づくりもサッカーもおんなじだと」

淵上 「まぁ…良い仕事をするだけ…結果を出すだけ、と(笑)」

宇野 「ちなみに、「ヴェルディ!!」と叫んだのは、ラモスとサッカーしてる夢を見てたから、と言う(笑)」

淵上 「ええ。ラモスと武田とサッカーをしていて(笑)」

水澤 「芝居の夢じゃなかった?(笑)」

淵上 「芝居の夢じゃなかったですね。まだサッカーを追い掛けてたと言う…」

宇野 「それは、役にとっては…って言うところに…」

水澤 「お!いい感じのところに…」

宇野 「まあ、先輩ですからね(場内爆笑)」

撮影秘話のネタの中に、チラリと重要なことを忍ばせる辺り、大森組の阿吽の呼吸を垣間見たようで興味深い。『ぼっちゃん』を未観の方は、記憶の片隅にでも憶えていてくださると幸いだ。笑い話の中に、作品の根幹に係わるキーワードが鏤められた舞台挨拶であった。

また、『ぼっちゃん』は作品内容だけでなく、その宣伝も実に特徴的である。主演の水澤さんはなんと公開初日より5日も前の5月20日に来名し、自ら名古屋の主要拠点でチラシ配りを行ったのだ。実はこれ、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』公開の折り主演マイティこと奥野瑛太さんが先鞭を付け結果を残した画期的な手法である。その想像を絶する負担の重さ故か後に続く作品は極めて少なかったのであるが、今回『ぼっちゃん』のために、奥野瑛太さんをはじめとしたボランティアが1年ぶりにシネマスコーレに集結。彼らの努力なくして初日の満席は成し得なかったはずで、敬意を表する意味でも写真を掲載させていただく。

そして『ぼっちゃん』の公開予定を、是非とも調べてみてほしい。
あなたの街でも、“梶”が“田中”が、大声を張りあげながらチラシを配っているかもしれない。そして、可能であれば配る側に加わってほしい。必要なものは、情熱と、黄色いシャツだけである。

『ぼっちゃん』
キャスト:水澤紳吾 宇野祥平 淵上泰史 監督・脚本大森立嗣
公式サイト http://www.botchan-movie.com/

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