遠い母の記憶は、光の中に『星ガ丘ワンダーランド』レビュー


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もうすぐ閉園する遊園地、星ガ丘ワンダーランド。
かつて人々の笑顔と暖かさに満ちていたその場所は、今は閑散とし忘れ去られようとしている。
ワンダーランドの近くにある星ガ丘駅には、落し物預かり所がある。
駅員の温人(中村倫也)の日課は、落し物の持ち主がどんな人物か想像し、絵に描くことだ。
温人の母親は20年前の雪の日、家を出た。
別れ際、幼い温人に赤い手袋の片方を渡し「必ず取りに行くから」と母は言った。それ以来、母には会っていない。
幸せだった頃、温人も家族と星ガ丘ワンダーランドを訪れた思い出がある。

そのワンダーランドで、ある日母の爽子(木村佳乃)が亡くなったという知らせが届く。
自殺と推察され、警察の中尾刑事(嶋田久作)、大林刑事(杏)から状況を聞いても、温人は何故か納得が行かない。
父と離婚後に母は再婚、七海(佐々木希)と雄哉(菅田将暉)という義理の姉弟がおり、家族が近くに住んでいるのを知った温人の心はざわめく。母の死の真相を求め疎遠だった兄、哲人(新井浩文)と再会した温人はある事実を知るーー。

ファンタジック・ミステリーともいうべき本作が監督デビューとなるのは気鋭のCMクリエイター、柳沢翔。
数々のCMやミュージックビデオで磨かれた演出手腕を映画作品でも発揮した。
柳沢監督とタッグを組み、夢の中にいるようなファンタジックな映像を作り出したのは、担当作品が海外映画祭で賞を獲得するなど才能溢れる若き撮影カメラマン、今村圭佑。

美しい母・爽子の存在が太陽のように二組の兄弟の中心にあり、彼らはみな母への想いに揺れる。
寂しさに蓋をして生きてきた青年、温人の人生は母の死をきっかけに動き出す。
母の愛情を受け成長した義理の姉弟、七海と雄哉に接し、幼い頃から秘めてきた寂しさ、やるせなさに初めて向き合う温人。
だが、七海は温人たちから母を奪ってしまった罪悪感、雄哉は母を失った喪失感にとらわれていた。
そして、母を憎み続ける温人の兄の哲人にも、彼にしか分からない想いが秘められていた。
登場人物たちの繊細な感情の動き、決して変わることのない母への思慕が胸に染み入る。
今村圭佑の生み出した光を駆使した美しい映像も、一層切なさを駆り立てる。
大人になった温人が母を思い出す時彼に雪が降り積もるシーンや、ワンダーランドの観覧車にまばゆい光が戻るシーンなど、ファンタジックで美しい映像が映し出される。

母への想いを秘める主人公、温人を今や映画、テレビドラマでも活躍する人気俳優、中村倫也が演じる。
温人の兄、哲人には演技派、新井浩文。短い登場シーンながら圧倒的な存在感を放つ。
義理の姉弟を、映画への出演も多い佐々木希と、若手俳優の中でもトップクラスの演技力を誇る菅田将暉が演じる。
二組の兄弟を取り巻く人々には、温人と哲人の父・藤二を松重豊、母・爽子を木村佳乃、落し物を通じ温人と友情を育む青年に市原隼人、爽子の死の真相を探る刑事に杏、と豪華俳優陣が名を連ねる。

これは痛みと向き合う物語。
母の死の真相に辿り着いた時、温人はどう受け止めるのだろうか。
痛みを乗り越え、前を向いた時、人は人生の新たな扉を開く。思い出はそのままにーー。

文:小林サク

『星ガ丘ワンダーランド』
キャスト:中村倫也  新井浩文 佐々木希 菅田将暉  杏 市原隼人 木村佳乃 松重豊
監 督: 柳沢翔 脚本:前田こうこ 柳沢翔
製作:「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会 企画・制作:アルケミー・プロダクションズ
制作プロダクション:スタジオブルー 配給:ファントム・フィルム  ©2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

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