猛るバアちゃんズは、ブレない 『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』レビュー


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――猛るバアちゃんズは、ブレない―― 『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』レビュー

スクーター(電動カート)で郊外を行く、シャーリー・モリソン(92才)。恵まれない人々にブランケットやマフラーを施す、心優しいグランマだ。一台のカートは、いつしか二台となる。連れだってシアトルの街を往くもう一人は、ヒンダ・キプニス(86才)。二人は、30年来の友人だ。ちょっとした失敗が絶えないが、二人はいつも笑って乗り越えていく。
「あなたに付いていくのはいいけど、この国はゴミとクズだらけよ」
「私が買い物に来るのは今日だけなの。だから、ちょっとだけ辛抱して」
「よく言ってる……“どんどん買い物して、経済を成長させるしかない”。でも、物が増えて幸せ?」
悪態をつくヒンダを窘めていたシャーリーだが、答に窮する。ヒンダにも、分からない。

『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』は、“アラナイ”(Around the age of 90)になっても尚も未知に立ち向かう、二人の“Raging Grannies”を追った痛快ドキュメンタリー映画である。

二人は、思う――分からなければ、聞けばいい。
ワシントン大学を聴講する……質問を連発して、摘みだされる。
学生に質問する。「経済の成長が必要って言うけど、何故なの?」……「経済成長をしない国なんて、学生の僕には想像もできない」
Google先生に尋ねてみる……検索結果の件数に、ウンザリする。
アルバート・バートレット教授は言う……「もし全人類が米国のように消費したら、それを支えるためには地球が4~5個必要になる」
これはいけない……トップの人たちがいる所へ行かなくちゃ。

シャーリー&ヒンダは、突き進む。膝の手術も、体調不良も、リハビリも、二人は持ち前のバイタリティで乗り越える。

これまで数々のドキュメンタリー映画を手掛けてきたホバルト・ブストネス監督の視点は、鋭く、暖かい。シャーリーとヒンダのキャラクターがとにかく素晴らしく、ノルウェー人であるブストネス監督が一目惚れしてアメリカまでやってきたのも、この二人なら納得だ。ドキュメンタリー作品と言うことを忘れてしまいそうになる場面が、全編に溢れていた。

シャーリー&ヒンダが辿りついた学説は、“エコロジー経済学”。地球の危機を訴えるために訪れた場所は、経済の中心地・ウォール街。
成長と言う概念に骨の髄まで洗脳されつくした人々の巣窟でエコロジーを説くのは、容易ではない……しかし、二人はここでもあの手この手で突きすすむ。

真っ向から対立する主張……
噛み合わない意見……
残り少ない人生……

だが、“猛るバアちゃんズ”は、決してブレることがない。
答はいつも、自分自身のなかに在る。

「あなたのことは好きだけど、たまに意見が合わないわ」
「じゃ、お茶にしましょ」

『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』は、私たちの進む術を共に考える“最高の学術映画”であり、私たちの生きる道を指し示す“究極の人間賛歌”である。

文 高橋アツシ

『シャーリー&ヒンダ  ウォール街を出禁になった2人』
Faction Film©2013
『シャーリー&ヒンダ  ウォール街を出禁になった2人』公式サイト

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